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1、最初の死に戻り
「そろそろか……思ったよりも、時間がかかったな」
彼はベッドに横になる私を見下ろしながら、笑みを浮かべた。意識が朦朧としながら、彼に手を伸ばす。
「陛下……」
伸ばした私の手を振り払い、彼は部屋から出て行く。
この時まで私は、知らなかった。愛する人が、私を殺そうとしていた事を……
その日、王妃レオナはこの世を去った。
公表された死因は、病死。享年二十歳だった。
◇ ◆ ◇
「レオナ様、起きてください」
まだ寝ていたいのに、うるさいなあ。
……誰? 見覚えがあるようなないような……?
体を揺すられて薄っすらと目を開けると、女の子が私の顔を覗いていた。
「……まだ寝かせてよ、ニーナ」
無意識にそう言った後、どうして女の子の名前を知っているのか不思議に思った。
「ダメですよ! また、奥様に叱られますよ」
奥様……? あれ? そもそも、ここはどこ?
疑問が頭に浮かぶのと同時に、色んな記憶が頭の中に次々に浮かんで来る。
「ニーナ、いくつになった?」
ニーナは私を、レオナと呼んだ。頭に浮かんで来た記憶では、レオナはすでに死んでいるはず。
「? 急に、どうされたのですか? 先月、十八歳になりました」
やっぱり……
どうやら、時が戻っているようだ。
ありえない状況なのに、なぜこんなにも冷静でいられるのかというと、私はレオナになる前に一度死んでいるからだ。レオナは、前世の私が転生した人生。前世の記憶もあり、今世での死ぬまでの記憶もあるという……なんだか複雑な状況だけど、肝心なのは生きているという事。せっかく転生したのに、二十歳で死んでしまうなんて酷すぎるでしょ!
ニーナが十八歳という事は、今私は十六歳という事になる。死ぬまでには、あと四年ある。やり直すチャンスを、もらったという事だ。今度は、絶対に死んだりしない。
時が戻る前のレオナには、前世の記憶がなかった。レオナ・グラント。グラント侯爵家の長女に生まれた。容姿は可もなく不可もなく。性格は大人しめで、お人好し。容姿はともかく、性格は前世の私とは大違いだった。
前世の私の名前は、久住 奈那。母を早くに亡くし、父と三人の弟が居た。男ばかりの家族で一番上だった事もあり、かなり気が強くなってしまった。死に戻る前も前世の記憶があったなら、簡単に殺されたりはしなかった。
そう……レオナは、殺された。夫である国王ジョセフに。
「食堂に行くわ」
ベッドから起き上がり、着替えをして食堂へ行く。
食堂には、すでにみんな揃っていた。「おはようございます」と挨拶をして、席に着く。
「遅かったわね。食事の時間に遅れないようにと、何度言ったら分かるのかしら?」
なんだか、懐かしい。
結婚して邸を出るまで、毎日叱られていた。あの頃は辛かったけど、今は何とも思わない。それどころか、叱られた事で生きている実感が湧いた。
レオナ……私の両親は、幼い頃に事故で亡くなってしまった。グラント侯爵家を継いだのは、叔父のピーター。私は、叔父の養子になった。
でも、愛される事はなかった。むしろ、嫌われている。
「兄上は、なぜ一緒に連れて行かなかったのか……。他の貴族の目があるから養子にしたが、出来損ないにも程がある」
わざとらしくため息をつく叔父の目は、私を蔑んでいる。
連れて行かなかったのか……とは、私に死ねと言っているようだ。
「こんなのが義姉だなんて、恥ずかしいったらないわ」
義妹のレベッカは、私の事が大嫌いだ。義妹といっても歳は同じで、私の方が三ヶ月早く生まれた。
「これからは、待たなくて結構です。私は、自室で食事をします」
前世の記憶がある今、追い出されたとしても構わなかった。むしろ、この国から逃げ出した方が幸せになれる。でも、この国から逃げる事は許されない。というより、逃げたとしても連れ戻されるだろう。
「その態度は、何なんだ!?」
叔父は、顔を真っ赤にしながら激怒している。
「いいじゃない。レオナのみすぼらしい顔を見ながら食事をしなくて済むわ」
レベッカは、私の顔を見なくて済む事を喜んでいる。
二度目なのに、また惨めな思いをするつもりなんかないし、その必要もない。
さっさと朝食を終えて自室に戻ると、前のレオナの人生を頭の中で整理してみる。
レオナには、生まれた時から手のひらに紋章のような痣がある。グラント侯爵家には、稀に痣がある女の子が生まれる。痣のある女の子は、必ず王妃にならなければならない。痣は、光の精霊の加護の証だからだ。私が王妃になれば、国は平和という事らしい。
でも、そんなのは嘘なんじゃないかと思えて来た。光の精霊の加護があるなら、どうして両親は死んでしまったのか。それに、私も死んだ。
「こんなの、ただの痣じゃない」
手のひらの痣を見つめながら、大きなため息が出る。そもそも、この痣は前世の久住 奈那の時からある。久住 奈那は、二十二歳で事故にあって死んだ。全く守られている気がしない……と思ったけど、もしかしたら転生した事も死に戻りした事も光の精霊の加護のおかげ?
そう考えると、こんな不思議な状況も納得が行く。納得は行くけど、最初から死なない方がいいに決まってる。
痣の事を知るのは、両親と王家だけだ。
精霊の加護が私にある事を知った他の誰かに、利用されないようにする為だった。それも、結局は無駄だった。
私を利用したのは、王家の人間だったからだ。
今は、この国の第二王子ジョセフ殿下。彼は私を利用し、国王となる。
ジョセフ殿下が、最初から私の婚約者だったわけではない。私は、王妃に必ずなる……つまり、私が選んだ相手が国王になるという事だ。
三ヶ月後、王宮で舞踏会が開かれる。その日、私が光の精霊の加護を受けている事が明かされる。その時私は、二人の王子のうち一人を選ばなければならない。
ジョセフ殿下とは、すでに出会っている。偶然私は、殿下に助けられた。でもそれは、偶然ではなく仕組まれた事だったのだと今なら分かる。
あの日、私を呼び出したのは親友のシンシアだった。私が王妃になって直ぐに、殿下はシンシアを側室に迎えた。二人は最初から、付き合っていたのだろう。そして、私が邪魔になって殺した……いや、最初から殺す気だったのかもしれない。
シンシアから、カフェに来て欲しいという手紙が届いた。呼び出されたカフェに行き、二人でお茶をした帰り道に、ガラの悪い男達に絡まれた所を殿下に助けられた。叔父は、私に馬車を使わせてはくれない。徒歩なのを知っていて、ガラの悪い男達を仕込んだのだろう。
男性に免疫がなかった私は、コロッと騙されて、『助けてくれるなんて素敵!』と恋に落ちた。我ながら単純で、恥ずかしくなる。
今の私からは、キレイさっぱり殿下への気持ちは消え去っていた。前世の記憶が戻った事と、あの最後の殿下の姿に恐怖を抱いたからだろう。
『そろそろか……思ったよりも、時間がかかったな』という言葉は、少しずつ毒を盛っていたという事。利用していらなくなったら殺すなんて、根性が腐ってる。人間じゃない!
今回は誰を選んではいけないのかが分かっているんだから、決して間違えたりしない。
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