〖完結〗何度も死に戻った侯爵令嬢は、冷酷な英雄に愛される。

藍川みいな

文字の大きさ
1 / 11

1、最初の死に戻り



 「そろそろか……思ったよりも、時間がかかったな」

 彼はベッドに横になる私を見下ろしながら、笑みを浮かべた。意識が朦朧としながら、彼に手を伸ばす。

 「陛下……」
 
 伸ばした私の手を振り払い、彼は部屋から出て行く。
 この時まで私は、知らなかった。愛する人が、私を殺そうとしていた事を……

 その日、王妃レオナはこの世を去った。
 公表された死因は、病死。享年二十歳だった。

◇ ◆ ◇

 「レオナ様、起きてください」

 まだ寝ていたいのに、うるさいなあ。
 ……誰? 見覚えがあるようなないような……?
 体を揺すられて薄っすらと目を開けると、女の子が私の顔を覗いていた。

 「……まだ寝かせてよ、ニーナ」

 無意識にそう言った後、どうして女の子の名前を知っているのか不思議に思った。

 「ダメですよ! また、奥様に叱られますよ」

 奥様……? あれ? そもそも、ここはどこ?
 疑問が頭に浮かぶのと同時に、色んな記憶が頭の中に次々に浮かんで来る。

 「ニーナ、いくつになった?」

 ニーナは私を、レオナと呼んだ。頭に浮かんで来た記憶では、レオナはすでに死んでいるはず。

 「? 急に、どうされたのですか? 先月、十八歳になりました」

 やっぱり……
 どうやら、時が戻っているようだ。
 ありえない状況なのに、なぜこんなにも冷静でいられるのかというと、私はレオナになる前に一度死んでいるからだ。レオナは、前世の私が転生した人生。前世の記憶もあり、今世での死ぬまでの記憶もあるという……なんだか複雑な状況だけど、肝心なのは生きているという事。せっかく転生したのに、二十歳で死んでしまうなんて酷すぎるでしょ!
 ニーナが十八歳という事は、今私は十六歳という事になる。死ぬまでには、あと四年ある。やり直すチャンスを、もらったという事だ。今度は、絶対に死んだりしない。
 時が戻る前のレオナには、前世の記憶がなかった。レオナ・グラント。グラント侯爵家の長女に生まれた。容姿は可もなく不可もなく。性格は大人しめで、お人好し。容姿はともかく、性格は前世の私とは大違いだった。
 前世の私の名前は、久住 奈那くずみ なな。母を早くに亡くし、父と三人の弟が居た。男ばかりの家族で一番上だった事もあり、かなり気が強くなってしまった。死に戻る前も前世の記憶があったなら、簡単に殺されたりはしなかった。
 そう……レオナは、殺された。夫である国王ジョセフに。

 「食堂に行くわ」

 ベッドから起き上がり、着替えをして食堂へ行く。
 食堂には、すでにみんな揃っていた。「おはようございます」と挨拶をして、席に着く。

 「遅かったわね。食事の時間に遅れないようにと、何度言ったら分かるのかしら?」

 なんだか、懐かしい。
 結婚して邸を出るまで、毎日叱られていた。あの頃は辛かったけど、今は何とも思わない。それどころか、叱られた事で生きている実感が湧いた。
 レオナ……私の両親は、幼い頃に事故で亡くなってしまった。グラント侯爵家を継いだのは、叔父のピーター。私は、叔父の養子になった。
 でも、愛される事はなかった。むしろ、嫌われている。
 
 「兄上は、なぜ一緒に連れて行かなかったのか……。他の貴族の目があるから養子にしたが、出来損ないにも程がある」

 わざとらしくため息をつく叔父の目は、私を蔑んでいる。
 連れて行かなかったのか……とは、私に死ねと言っているようだ。

 「が義姉だなんて、恥ずかしいったらないわ」

 義妹のレベッカは、私の事が大嫌いだ。義妹といっても歳は同じで、私の方が三ヶ月早く生まれた。
 
 「これからは、待たなくて結構です。私は、自室で食事をします」

 前世の記憶がある今、追い出されたとしても構わなかった。むしろ、この国から逃げ出した方が幸せになれる。でも、この国から逃げる事は許されない。というより、逃げたとしても連れ戻されるだろう。

 「その態度は、何なんだ!?」

 叔父は、顔を真っ赤にしながら激怒している。

 「いいじゃない。レオナのみすぼらしい顔を見ながら食事をしなくて済むわ」 

 レベッカは、私の顔を見なくて済む事を喜んでいる。
 二度目なのに、また惨めな思いをするつもりなんかないし、その必要もない。
 さっさと朝食を終えて自室に戻ると、前のレオナの人生を頭の中で整理してみる。
 レオナには、生まれた時から手のひらに紋章のような痣がある。グラント侯爵家には、稀に痣がある女の子が生まれる。痣のある女の子は、必ず王妃にならなければならない。痣は、光の精霊の加護の証だからだ。私が王妃になれば、国は平和という事らしい。
 でも、そんなのは嘘なんじゃないかと思えて来た。光の精霊の加護があるなら、どうして両親は死んでしまったのか。それに、私も死んだ。

 「こんなの、ただの痣じゃない」

 手のひらの痣を見つめながら、大きなため息が出る。そもそも、この痣は前世の久住 奈那の時からある。久住 奈那は、二十二歳で事故にあって死んだ。全く守られている気がしない……と思ったけど、もしかしたら転生した事も死に戻りした事も光の精霊の加護のおかげ?
 そう考えると、こんな不思議な状況も納得が行く。納得は行くけど、最初から死なない方がいいに決まってる。

 痣の事を知るのは、両親と王家だけだ。
 精霊の加護が私にある事を知った他の誰かに、利用されないようにする為だった。それも、結局は無駄だった。
 私を利用したのは、王家の人間だったからだ。
 今は、この国の第二王子ジョセフ殿下。彼は私を利用し、国王となる。
 ジョセフ殿下が、最初から私の婚約者だったわけではない。私は、王妃に必ずなる……つまり、私が選んだ相手が国王になるという事だ。
 三ヶ月後、王宮で舞踏会が開かれる。その日、私が光の精霊の加護を受けている事が明かされる。その時私は、二人の王子のうち一人を選ばなければならない。

 ジョセフ殿下とは、すでに出会っている。私は、殿下に助けられた。でもそれは、偶然ではなく仕組まれた事だったのだと今なら分かる。
 あの日、私を呼び出したのは親友のシンシアだった。私が王妃になって直ぐに、殿下はシンシアを側室に迎えた。二人は最初から、付き合っていたのだろう。そして、私が邪魔になって殺した……いや、最初から殺す気だったのかもしれない。
 シンシアから、カフェに来て欲しいという手紙が届いた。呼び出されたカフェに行き、二人でお茶をした帰り道に、ガラの悪い男達に絡まれた所を殿下に助けられた。叔父は、私に馬車を使わせてはくれない。徒歩なのを知っていて、ガラの悪い男達を仕込んだのだろう。
 男性に免疫がなかった私は、コロッと騙されて、『助けてくれるなんて素敵!』と恋に落ちた。我ながら単純で、恥ずかしくなる。 
 今の私からは、キレイさっぱり殿下への気持ちは消え去っていた。前世の記憶が戻った事と、あの最後の殿下の姿に恐怖を抱いたからだろう。

 『そろそろか……思ったよりも、時間がかかったな』という言葉は、少しずつ毒を盛っていたという事。利用していらなくなったら殺すなんて、根性が腐ってる。人間じゃない! 
 今回は誰を選んではいけないのかが分かっているんだから、決して間違えたりしない。

感想 7

あなたにおすすめの小説

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。 ※AI学習禁止・無断転載禁止・無断翻訳禁止・無断朗読禁止

〖完結〗愛しているから、あなたを愛していないフリをします。

藍川みいな
恋愛
ずっと大好きだった幼なじみの侯爵令息、ウォルシュ様。そんなウォルシュ様から、結婚をして欲しいと言われました。 但し、条件付きで。 「子を産めれば誰でもよかったのだが、やっぱり俺の事を分かってくれている君に頼みたい。愛のない結婚をしてくれ。」 彼は、私の気持ちを知りません。もしも、私が彼を愛している事を知られてしまったら捨てられてしまう。 だから、私は全力であなたを愛していないフリをします。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全7話で完結になります。

義母の企みで王子との婚約は破棄され、辺境の老貴族と結婚せよと追放されたけど、結婚したのは孫息子だし、思いっきり歌も歌えて言うことありません!

もーりんもも
恋愛
義妹の聖女の証を奪って聖女になり代わろうとした罪で、辺境の地を治める老貴族と結婚しろと王に命じられ、王都から追放されてしまったアデリーン。 ところが、結婚相手の領主アドルフ・ジャンポール侯爵は、結婚式当日に老衰で死んでしまった。 王様の命令は、「ジャンポール家の当主と結婚せよ」ということで、急遽ジャンポール家の当主となった孫息子ユリウスと結婚することに。 ユリウスの結婚の誓いの言葉は「ふん。ゲス女め」。 それでもアデリーンにとっては、緑豊かなジャンポール領は楽園だった。 誰にも遠慮することなく、美しい森の中で、大好きな歌を思いっきり歌えるから! アデリーンの歌には不思議な力があった。その歌声は万物を癒し、ユリウスの心までをも溶かしていく……。 ※AI学習禁止・無断転載禁止・無断翻訳禁止・無断朗読禁止

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

〖完結〗婚約者の私よりも、ご自分の義妹ばかり優先するあなたとはお別れしようと思います。

藍川みいな
恋愛
婚約者のデイビッド様は、とても誠実で優しい人だった。義妹の、キルスティン様が現れるまでは。 「エリアーナ、紹介するよ。僕の義妹の、キルスティンだ。可愛いだろう?」 私の誕生日に、邸へ迎えに来てくれたはずのデイビッド様は、最近出来た義妹のキルスティン様を連れて来た。予約していたレストランをキャンセルしたと言われ、少しだけ不機嫌になった私に、 「不満そうだね。キルスティンは楽しみにしていたのに、こんな状態では一緒に出かけても楽しくないだろう。今日は、キルスティンと二人でカフェに行くことにするよ。君は、邸でゆっくりすればいい」そう言って、二人で出かけて行った。 その日から、彼は変わってしまった。私よりも、義妹を優先し、会うこともなくなって行った。 彼の隣に居るのは、いつもキルスティン様。 笑いかけてもくれなくなった彼と、婚約を解消する決意をする。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 感想の返信が出来ず、申し訳ありません。感想ありがとうございました。 嬉しい感想や、自分では気付かなかったご意見など、本当にいつも感謝しております。 読んでくださり、ありがとうございました。

〖完結〗容姿しか取り柄のない殿下を、愛することはありません。

藍川みいな
恋愛
幼い頃から、完璧な王妃になるよう教育を受けて来たエリアーナ。エリアーナは、無能な王太子の代わりに公務を行う為に選ばれた。 婚約者である王太子ラクセルは初対面で、 「ずいぶん、平凡な顔だな。美しい女なら沢山居るだろうに、なぜおまえが婚約者なのだ……」と言った。 それ以来、結婚式まで二人は会うことがなかった。 結婚式の日も、不機嫌な顔でエリアーナを侮辱するラクセル。それどころか、初夜だというのに 「おまえを抱くなど、ありえない! おまえは、次期国王の私の子が欲しいのだろう? 残念だったな。まあ、私に跪いて抱いてくださいと頼めば、考えてやらんこともないが?」と言い放つ始末。 更にラクセルは側妃を迎え、エリアーナを自室に軟禁すると言い出した。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 架空の世界ですので、王太子妃が摂政である王太子の仕事を行っていることもサラッと流してください。

【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。