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2、もう一人の王子
選んではいけない相手(ジョセフ殿下)は分かっているけど、もう一人のトーマス殿下の事をよく知らない。
「ニーナ、出かけるから支度して」
トーマス殿下の事を知るには、本人に直接会うのが一番だと思った。少なくともトーマス殿下は、汚い手を使って私に近付いて来たりはしなかった。ジョセフ殿下よりは、信用出来るはずだ。
「王宮が、こんなに遠かったなんて……」
いや、決して遠くはない。
グラント侯爵邸も、王都にあるのだから。馬車なら、一時間もあれば着く距離。私は馬車を使わせてもらえないから、歩いて三時間半かかった。
「王宮に、どのようなご用があるのですか?」
目的地が王宮だと知り、ニーナは不思議そうな顔でそう聞いた。私に光の精霊の加護がある事は、ニーナも知らない。
「トーマス殿下に、お会いしに来たの」
まどろっこしい事はしない。直接会ってはダメだとは、言われていないのだから、会いに来ても問題はないはずだ。
「トーマス殿下に、取り次いで。レオナ・グラントがお会いしたいと」
門番はいきなり来た私を怪しんでいたけど、トーマス殿下は会うと言ってくれた。
「お初にお目にかかります、レオナ・グラントと申します。突然の訪問を、お許しください」
「かまわない。まさか君から会いに来てくれるとは思わなかったから、少々驚いたけど嬉しいよ」
トーマス殿下は笑顔で出迎えてくれて、庭園へと案内してくれた。
「素敵な庭園ですね」
死ぬまでは王宮に住んでいたはずなのに、庭園に来たのは初めてだ。ジョセフ殿下と結婚してすぐに体調が悪くなり、ベッドから起き上がるのが辛くなって行った。毒を盛られているとも知らずに、病気になった事を申し訳なく思っていた。自分で言うのもなんだけど、前世の記憶を持たないレオナはとても純粋だったと思う。
「庭園に居るのが好きなんだ。君も、この庭園を好きになってくれたら嬉しい」
沢山の花が咲いていて、緑も多くて空気も美味しい。この場所に居るのが好きな気持ちは分かる。
「トーマス殿下は、私に会おうとは思わなかったのですか?」
トーマス殿下は、第一王子だ。本来なら、彼が国王になるべきだ。
「選ぶのは、君だからね。僕は、どちらでもいい。ジョセフが国を治める力があるのなら、邪魔はしたくない。……殺されたくはないからね」
「……え?」
トーマス殿下は、それ以上何も話さなかった。庭園の花を見つめたまま時が過ぎ、ようやく口を開いたのは一時間程経った頃だった。
「遅くなるから、もう帰った方がいい。暗くなって来たし、送らせる」
何事もなかったようにそう告げて、トーマス殿下は去って行った。帰りは馬車で送ってもらって、無事に邸に到着した。
自室に戻ってからも、トーマス殿下が言った『殺されたくはない』という言葉が頭から離れなかった。冗談にしては、あれから黙り込んだ事が気になる。ジョセフ殿下が私を殺した事を考えると、トーマス殿下を殺さないとは限らない。まさか、ずっと怯えて生きて来たのだろうか?
トーマス殿下を知りたくて会いに行ったのに、分からない事が増えてしまった。
あれからトーマス殿下に何度も会いに行ったけど、会ってはくれなかった。そしてそのまま、舞踏会の日が訪れた。
◇ ◆ ◇
「レオナ様、起きてください」
もう少し寝ていたい……じゃない!!
何これどういう事!? なんで、こんな事になってるの!?
「ニーナは、今十八歳!?」
「? そうですけど……」
また……戻ってる……
舞踏会で、私はトーマス殿下を指名した。そして、舞踏会で毒殺された。倒れる瞬間、トーマス殿下の倒れる姿を見た。最悪。私のせいで、トーマス殿下まで死なせてしまった。まさか、舞踏会で命を狙われるとは思わなかった。油断していた私のミスだ。
それにしても、あのクズ殿下は私を何回殺せば気が済むの!?
「遅れると、また奥様に叱られますよ?」
めちゃくちゃ気が重い。またここからやり直さなきゃいけないばかりか、トーマス殿下を選んでも殺されると知った。舞踏会で殺される事が分かったのだから、今回はそれを回避する事は出来る。ただ、ずっと命を狙われ続ける事になる。トーマス殿下が、一緒に戦ってくれるとはとても思えない。
「食堂に行くわ」
どちらも選べないなら、答えは決まっている。
「遅かったわね。食事の時間に遅れないようにと、何度言ったら分かるのかしら?」
何度も殺されていると、散々冷遇されていた事が大した事ないように思えて来る。
「すみません、皆さんの顔を見て食事をする事が苦痛なので、どうしても遅くなってしまうようです」
正直、こんなやり取りはどうでもいい。
「お前!? 何様だ!?」
「可哀想だと思って家族に迎えてあげたのに、なんて恩知らずなの!?」
「もう追い出しましょうよ!」
三人は、顔を真っ赤にして怒っている。
「お世話になりました」
最後の手段は、この国を出て行く事。テーブルの上にあるパンを数個手に持ち、自室に戻って荷造りを始める。
「レオナ様!? どうされたのですか!?」
「ニーナ、私はこの国を出るわ。今まで、ありがとう」
「……それなら、私も一緒に行きます!」
ニーナの気持ちは嬉しいけど、私はずっと逃げ続けなくてはならない。そんな危険な旅に、ニーナを巻き込みたくない。
「気持ちは嬉しいけど、ニーナは連れていけない。今の私にとって、ニーナだけが信じられる存在だった。またいつか会えたら、美味しいケーキでも食べましょう」
寂しそうな顔をしながら私を見送ってくれたニーナに手を振り、邸を出て乗合馬車のりばへと向かった。
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