〖完結〗何度も死に戻った侯爵令嬢は、冷酷な英雄に愛される。

藍川みいな

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3、三度目の……



 「レオナ様、起きてください」

 ……はぁ……
 目を覚ますと、また死に戻っていた。
 命がある事は、ありがたいとは思う。思うけど、何度もループしているこの状況に苛立ちを覚える。
 ここまで来ると、この現象は光の精霊が関わっていると確信した。だったら、アドバイスくらいくれたらいいのに。

 前回、この国から逃げようと決めて乗合馬車に乗ろうとした所で、捕まってしまった。私はずっと、見張られていたのだ。
 結局そのまま連れ戻され、舞踏会の日まで外出を禁じられた。叔父達は何が何だか分からないまま、私を逃がさないようにと命じられ、それに従った。
 舞踏会で選んだのは、トーマス殿下。食べ物にも飲み物にも気を付け、トーマス殿下にも口にしないようにとお願いしていた。
 無事に舞踏会を終えて邸に戻る途中で、馬車が事故を起こし、今度は叔父達を巻き添えにして死んだ。きっとトーマス殿下も……

 もう、トーマス殿下を選ぶという選択肢は完全に消えた。私一人なら、気を付ければ少しは生き延びる事が出来るかもしれない。でも、トーマス殿下の事をずっと見張っている事は出来ない。トーマス殿下が亡くなれば、ジョセフ殿下と結婚する事になるだろう。毒を回避出来たとしても、いつだって命を狙う事が出来る。そもそも、命を狙って来るのが王族なのだから、ジョセフ殿下をどうにかしない限り何をしても無駄だ。せめて、一緒に戦ってくれるような人が居てくれたらいいのに。
 
 「食堂にお急ぎください。奥様に叱られてしまいます」

 ご飯なんて、食べる心境じゃない。今まではまだ道があったけど、今は何も浮かばない。

 「怒らせておけばいいわ。機嫌を取る義務なんて、ないのだから」

 そうは言ったけど、前回は私のせいで死んだんだから、少しだけ申し訳ないとは思ってる。ほんの少しだけね。

 三度目の死に戻り……今回は、手詰まりだ。
 諸悪の根源のジョセフ殿下を選んでも殺され、トーマス殿下を選んでも殺され、国を出ようとしても捕まって殺される。他に、生き延びる方法はないのだろうか……
 
 待って……もう一人だけ、独身の王族がいる!

 「ニーナ、出かけてくるわ!」

 「レオナ様!? 私もご一緒します!」

 「ごめん! 急ぐの!」

 そのまま自室を出て、馬小屋に向かう。目的地は、歩いて行くには遠いからだ。
 馬車は私には扱えないけど、乗馬なら出来ると思う(前世で乗馬教室に通っていたから)。

 「レオナ様!? どうされたのですか!?」
 
 馬小屋に行くと、使用人が馬の世話をしていた。

 「馬を一頭借りたいの。器具を付けてもらえる?」
 「馬にお乗りになるのですか!? 私が、馬車を……」
 「馬車より、馬に乗った方が早いの。お願い出来る?」
 「は、はい」

 馬車を出してもらったりしたら、使用人が叱られてしまう。私が勝手に馬を持ち出しただけなら、叱られるのは私だけだ。

 器具を付けてもらった馬に跨り、手綱を握る。深呼吸をしてから、馬を走らせた。スムーズに走り出し、馬に乗る私を見た門番が急いで門を開く。門番に大声で「ありがとう!」と言い、そのまま走り抜ける。乗馬教室の経験が、役に立ったようで良かった。人が居る道は危ないから、なるべく人気の少ない道を走る。
 しばらく走らせると、前回私を捕まえた見張りが追いついて来た。

 「レオナ様! お戻りください!」

 彼が追いかけて来るのは想定内だ。むしろ、ついて来てくれなくては困る。私はお金を持っていないから、彼にご飯を奢ってもらわなくちゃ! 前回、彼に捕まったから死んだんだし、利用しても罪悪感なんて全くない。

 「国から出るつもりはないわ! 心配なら、あなたもついてきて!」

 納得いかない様子だったけど、私が止まろうとしないのだから、ついてくるしかない。

 三時間ほど走った所で馬を止める。
 久しぶりに馬に乗り、お尻がめちゃくちゃ痛い。三時間も頑張った自分を、褒めてあげたいくらいだ。それに、朝ご飯も食べてないからお腹が空いた。
 
 「どちらに行かれるおつもりですか?」

 見張りの男性は、かなり不機嫌だ。

 「話す義務はありません。私を見張るのが、お仕事なのですよね? それは、護衛も含まれている。間違っていますか?」
 「……間違っていません」
 「私、お腹が空いて死にそうなんです。お金、持っていませんか?」

 見張りの男性は、一瞬驚いた顔をしたけど、諦めたようにお金を出してくれた。

 「わあ! こんなに!? 馬に水も飲ませてあげたいし、町を探しましょう」

 見張られていた事に感謝するのも変だけど、正直かなり助かった。

 「ここで、食事にしましょうか」

 町を見つけ、馬に水をあげてから食堂に入る。

 「ここ……ですか?」

 一応貴族令嬢の私が、小さな食堂を選んだ事に驚いている。

 「おばさん! オススメを二つお願いします!」
 「はいよ!」

 席に着いて注文する。どうしてこの食堂を選んだかというと、美味しそうな匂いがしていたからだ。

 「お待たせしましたー」

 料理が運ばれて来て、テーブルに並ぶ。オススメの料理は、野菜スープと香ばしく焼かれた鶏肉だった。

 「美味しそう! いただきまーす!」

 こういう庶民的な所は、なんだか落ち着く。やっぱり、前世の記憶が一番強い。家族でご飯を食べる時は、いつだっておかずの取り合いが始まって、弟達は私の作ったご飯を美味しそうに食べてくれた。

 「レオナ様は、変わっておられますね……」
 
 まあ、庶民向けの食堂で大口を空けてご飯を食べる令嬢なんていないだろうね。

 「あなたは、いつから私を見張っていたのですか? なんて聞いても、答えないんでしょうね。名前も、無理だろうし……不便なので、勝手に名前付けちゃいますね」
 「何でもお見通しですか……。私の事は、好きに呼んでください」
 「じゃあ、シロで!」
 「シロ……ですか?」
 「シロ、食事をしないと持ちませんよ? 美味しいので、食べてください」

 シロは、前世で飼っていた犬の名前だ。白くてモコモコしてて、大切な家族だった。

 「……いただきます」

 少しだけ、シロに似ているような気がした。犬に似てるとか言ったら、怒られそうだけど。

 食事を終えると、馬に跨り目的地を目指す。

感想 7

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