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泰心和尚
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「…かっ!」
あんぐりと口を開けて、望海が硬直している。
視線の先に何があるのかと目を向け、納得した。
僕たちがいるのは、山峡を通る県道の脇に作られた休憩所だ。休憩所と言っても、SAとは違う。細長い駐車場には、車が8台ほど止められるスペースがある。今は僕たちの車しか止まっていない。
古い公衆トイレに、赤い自動販売機が1台。
飲食店や売店はない。
高さ1メートルほどの柵を越え、ごろごろと大岩の転がる川を挟んだ対岸には、山肌に沿って櫨の木や小楢、欅が赤く色づき始めている。見頃は来週辺りになるのだろう。
だが、望海が見ているのは、紅葉でも、朝日を浴びて煌めく川の流れでもない。
川の深みだ。
手前は膝下ほどの水深だが、対岸を見れば色が変わるほどの深みになる。その深みの部分で、暗い影が縦横無尽に泳いでいるのだ。
大きさは園児くらいだ。形こそ人間に近いが、1分経とうが、2分経とうが、それが息継ぎに浮上する気配はない。
「カ、カッパ…ですよね?」
望海が僕を見上げ、頬を紅潮させた。
何を興奮することがあるのかは分からないが、「そうだ」と頷く。
望海が震えあがった。恐怖ではなく、興奮で震えたのだ。
「メジャー中のメジャーですよ!すごい!」
その叫びに驚いたのか、河童は慌てたように水底に隠れてしまった。
「あ」と、両手で口を覆っても遅い。隠れた河童が出て来るには1時間ほど待たなければならない。つまり、呼吸だ。
河童というのは、意外と警戒心が強い妖怪だ。
子供と相撲をとったり、好物の胡瓜を盗んだりと、些かユーモアたっぷりに人間は河童像を作り上げるが、創作もいいところだ。警戒心の強い河童が人間の前に姿を見せるのは稀有だし、胡瓜よりも鮎の方が好物だ。尻子玉も取ったりしない。そもそも人間に尻子玉なんて臓器は存在しない。
全てが作り話かと言えば、そうでもない。
縄張りを侵すモノは、妖怪だろうが人間だろうが容赦しない。水中に引き込み、溺死させる。
それを理解しているのか、いないのか。
望海は僕の腕を掴み、必死に背伸びしながら河童の影を探している。
「どうかした?」
声に振り向けば、新がのんびりとした歩調で公衆トイレから出て来た。
ハンカチで手を拭き、望海のハイテンションに疑問を抱きながら周囲を見渡している。
「メジャー中のメジャーが来たぞ」
そう言えば、新は首を傾げ、望海は微妙な顔をした。
「え?なに?」
「河童がいたんだ。メジャー中のメジャーだと興奮してたからな。お前の方がメジャーだろ?」
僕の言葉に、新は眉尻をめいっぱい下げた。
「ああ…。ごめんね。イメージが違うメジャーで」
「そんなことないです!鬼頭さんも立派なメジャーです。角があるなんてイメージ通りです。ただ…アフロヘアで、虎柄パンツを履いて、金棒持ったら完璧だったんですけど…」
商店街にでもいそうな、安っぽい鬼のイメージだ。
そもそも鬼はアフロヘアではない。剛毛で天パなだけだ。
新も困惑している。
「来年の節分かハロウィンにでも、新に鬼のコスプレしてもらうか」
僕の冗談に、新が顔を顰めた。
「そう怒るな」
からからと笑っても、新は臍を曲げた顔つきのままだ。
ズボンのポケットにハンカチを仕舞い、僕から望海に向き直る。
「一応、注意。河童は怖いから、河童のいる川に近寄るのはダメだからね」
「そうなんですか?」
「まぁ、今は大丈夫だけど」
新は言って、僕を見る。
「惟親くんがいるから下手は打たないだろうけど、河童は縄張り意識が強いんだ。怒らせると、川に引っ張り込まれるよ。警告の意味だと、すぐに手を離してくれるけど、そうじゃないと溺死するまで引っ張り続けられる」
ぞっとしたのだろう。
望海の手に力が籠った。
「おい。爪を立てるな。ジャケットが傷むだろ」
苦言を呈せば力は緩めるが、手は離れない。
僕から触れるのはセクハラで、自分から僕に触れるのはOKらしい。
薄々勘づいていたが、望海は近くにいる者に抱きつく癖がある。家では紗だが、外では新が多い。ただ、危険なモノの近くだと僕にしがみ付く。
僕の呆れ顔など気づいてないのだろう。望海は川へと目を向けながら、「カッパって、寒くないんですか?」と緩い質問をした。
「河童は皮膚が分厚いんだよ。変温動物なのに寒さに強い大山椒魚みたいな感じだね。寒さに強いと言っても、雪深い地にはいないけど」
「へぇ~」と、望海は新の説明に関心する。
「妖怪が見えるのに、今まで見たことはなかったのかい?」
「名前も分からない小さいのばかりで、カッパとか、そういうのは昔話の中だけだって思ってたんです」
望海は興奮に目を輝かせる。
「人魚とかもいるんですか?」
「いるな」
「炙ると美味しいよ」
酒を飲む仕草をする僕と新に、望海の顔は青くなる。
口を半開きに僕たちを見上げ、わなわなと震えながら、「あ…ぶる?」と声を絞り出す。
「幽世で手に入る。干物で売ってるんだ。言っとくが、お前のイメージする人魚とは違うぞ」
「望海ちゃんのイメージは、人魚というよりマーメイドだろうね」
「美人でセクシーな方か。僕たちの言う人魚は、人面魚みたいなやつだな。人面というか、猿面というか。それに鯉のような体がくっついている。漁師を惑わす歌を歌う変わりに、ガラスに爪を立てたような悲鳴を上げる」
「帰りは海岸沿いをドライブしようか?運が良ければ見つかるかも」
笑い話のように話す僕とは違い、新は純粋な好意なのだろう。げんなりした望海に気付いた様子もなく、帰りのルートを頭の中で整理している。
シャツとズボンのポケットを叩き、「車に置きっぱなしだ」と呟いた。
「スマホで確認してみるよ」
新は言って、黒いワンボックスカーへと歩んで行く。
昨日借りて来た”わ”ナンバーだ。
「ところで、今は何休憩なんですか?」
「待ち合わせ中だ」
軽く肩を竦め、ジャケットのポケットからスマホを取り出す。
約束の時間から30分近く経過している。
嘆息して、ジャケットにスマホを戻す。
「ほら、河童がいるぞ」
緩やかにカーブした上流を指さす。
巨大な岩の影で、河童が小魚を貪っている。全体像を見れば、子供というよりも巨大な蛙だ。緑というより深緑。頭が大山椒魚、体が蛙。頭部に藻のような毛が生え、頭頂部には皿と呼ばれる頭頂骨がむき出しになっている。ここからでは見えないが、背中には鼈の柔らかそうな甲羅が付いているはずだ。
さぞかし喜んでいるかと思った望海は、想像していた河童と違ったのだろう。丸々と目を瞠り、慄いた様子で僕の腕にしがみ付いた。
「人間は妖怪をファンタジーに描きすぎる。河童なんてものは、あんなもんだ。セクシーな河童はいないし、コミカルでマスコット的な河童もいない。人間こそ喰わないが、平和的でもない。うちの連中は、人間社会に溶け込んでいる稀有なタイプだからな。うちのを標準に考えると手痛い目に遭うぞ。妖怪は基本、僕とお前が出会う切っ掛けになったアレに近いことを忘れるな」
望海は青い顔で河童を凝視しながら、深々と頷いた。
「もっと…可愛いかと思ってました…」
「幻想を抱くな。危険を見極められなければ死ぬぞ、人間」
「…………はい」
しょんぼりと頷いた望海の返事は、ぽんこつのエンジン音にかき消された。
ゆっくりと振り向けば、赤いスクーターに中肉中背の坊主が駐車場に入って来るところだった。黒い衣に、茶色の袈裟。頭がデカいせいで、ヘルメットが少し浮いているようにも見える。
見た目は60前後くらいか。
貧相な口髭に、右の頬に大きな黒子。眠そうな半目ながら、目玉がぎょろりとデカい。
ト、ト、ト、とスクーターが心許ないエンジン音を立て、ぷすり、と止まった。
「ああ…またエンストだ」
へらりと笑いを含んで、坊主がスクーターを下りた。
のろのろとスクーターを押し、僕を見つけるや否や「朝から女連れとは景気が良い!」と、望海の胸をガン見する。
そのニヤケ面は、女が生理的嫌悪感を抱く種類のものだ。
実際、望海は毛を逆立てた猫のように跳ね上がると、僕の背中に隠れてしまった。
「エロ坊主。遅刻だ」
僕が歯噛みして言えば、エロ坊主こと泰心は「弁解の余地なし」と豪快に笑う。
「あの…大神さんの知り合いですか?」
ひょっこりと顔を出す望海に、僕は頷く。
「あの生臭坊主は泰心。待ち合わせしていた奴だ」
「若さんは相変わらず、モテモテで羨ましい」
泰心は適当にスクーターを止めると、草履の底を擦るように歩いて来る。
じっと望海を見据える双眸は、エロ坊主とは思えぬほど冷厳としている。品定めしているのだろう。特に望海の目は、今の世では珍しい部類だ。
泰心は「なるほど、なるほど」としきりに頷き、僕たちの前で足を止めた。
「襤褸寺で細々と和尚をしている泰心と申す。娘御」
「初めまして…日向望海です」
僕の背中から怖ず怖ずと出て来て、ペコリと頭を下げる。
胸はデカくとも、丸顔の童顔。化粧を施せば化ける顔も、最小限の白粉と紅しか引いていない。丸襟のセーターにジーンズという色気のない格好も、泰心の趣味には合わないらしい。
少しテンションを下げた顔つきで、「よろしく頼む」と頷く。
「しかし、若さんの連れが娘御1人とは寂しい限り。儂が若さんの顔をしてたらハーレムを作って遊び倒すがな」
左手をグーに握り、そこに人差し指をずぼずぼと抜き差しする。
相変わらず下品で、女好きの塊だ。
望海がドン引いているのが分かる。僕のジャケットをぎゅっと握りしめ、「キモい…」と呟いている。
そんな悪態が聞こえても、泰心は気にも留めない。
「まぁ、遅刻して来たのも頑張り過ぎて寝過ごしたからだ。金玉の中はカラカラだが、赤玉は出ておらんから心配無用だ」
がはははっ、と大口を開けて笑いながら、人差し指をずぼずぼと抜き差しするのを止めない。
つまり、一晩中女と媾っての寝坊だ。
こんな見てくれなのに、女に事欠かないのは、泰心の異能が”催眠”だからだ。要は女を騙し、楽しんでいる。
「こいつは人間の坊さんぽい見てくれだが、天狗だ」
僕が言えば、望海は丸々と目を見開いた。
「て、天狗って…山伏の格好じゃないんですか?」
怖々とした望海の問いに、泰心は笑う。
「あんなの、現代じゃ目立って仕方なかろう。こっちの方が何かと都合が良い」
「翼もないし…鼻も違います」
「だから妖怪に幻想を抱くな。全ての天狗が空を飛ぶわけじゃない。泰心のような天狗は、ジャンプ力が凄いんだ。昔は鼻の長い赤い面をして、神体山に住み着いていたからな。それを見た人間が、天狗のイメージを定着させたんだろ」
「しんたい…さん?」
「娘御。神体山というのは、要は神奈備…神のいる山という意味だな。もしくは山岳信仰の篤い山のことを、神体山という。若さんを繋ぎとめるなら、体だけじゃ駄目だ。勉強もせんとな」
どうあっても下ネタに絡めたいらしい。
うんざりとため息を吐くと、「泰心さん!」と人懐っこい声が飛んで来る。新だ。
「久しぶりだね」
「おお、新!相変わらず、鬼の威厳が欠片もないな」
がはははっ、と笑う泰心に、新はキャスケット越しに頭を掻く。それから僕の後ろの望海を見て、嘆息した。
「セクハラは駄目だよ?」
「いやいや。若さんの女に手を出すほど、命知らずでも女日照りでもない。少子化の歯止めになればと思うて、日夜励んでいるほどだ」
「そういうところだよ…」
新が困惑気味に眉根を寄せる。
「だが、真面目な話、少子化は人間に限った話じゃない。儂らも問題になっとるよ。鬼と違って老化が早い。まぁ、人間から見たら不老不死に見えるのだろうが。老いというのは死と繋がっておる。子を為さねば一族が滅ぶ。だからといって、色気のない女天狗と励もうにもアレが萎えて勃たん。ならばと人間を誑し込んで励めば、なぜか流れる確率の方が高い。避妊薬なるものもある。孕んだかと思えば、今の世は病院で中絶だ。だから、数を打つのが儂の手法だ」
「お前のようなのを、人間は種馬というんだ」
「種馬、結構!」
豪快に笑い、くるりと踵を返す。
スクーターに戻り、フットレストに無造作に置いた紙袋を持って戻って来た。
辛うじて、有名デパートのロゴが確認できるほどのボロボロの紙袋だ。
「ほれ」と、新に紙袋を手渡す。
新は紙袋の中を覗き込み、漆塗りの木箱を取り出した。
形は文箱だが、大きさが違う。麻紐を解き、蓋を開けると、裏側に札が貼られている。
「若さんの依頼通りのサイズだ。ただ、神の加護を受けた物を封じるとなると、厳しいぞ」
「1日くらいは持つんだろ?」
「莫迦にするな。50年は持つ」
泰心は嘯きながら胸を張る。
「十分すぎる」
「まぁ、若さんに対しては杞憂だがな」
これまた笑う泰心に、僕は苦笑する。
新は箱の蓋を閉じ、麻紐を結び、再び紙袋の中に戻した。
「それから、頼まれていたお守りだ」
泰心が懐から取り出したのは、小さな巾着だ。
ジュエリーポーチと言うのだろうか。指輪が納まるていどの、白いサテン地の袋だ。「ほれ」と、渡されるがままに受け取り、巾着の口を開くと、中にビー玉サイズの黒曜石が入っている。その黒曜石の表面に、荒いながらに確りとした梵字が1文字刻まれる。
泰心が彫刻刀で刻んだのだろうが、意味は分からない。
「想像していたものより洋風だな」
「神社仏閣で売られているようなものと思うたかな?」
確かに、お飾りのお守りを貰っても困る。
「黒曜石は魔除けだったか?」
「その通り」
「この梵字の意味は?」
「降三世明王だ。真言は”オン ソンバ ニソンバ ウン バザラ ウンパッタ”と唱える。悪霊や怨敵を降伏させ、呪詛を返す。だが、重要なのは儂が念を込めたということだ」
にんまり、と目を弓なりに撓らせる。
なんとも恩着せがましい下衆な笑みだ。
「ああ、感謝しているよ」
肩を竦め、望海に振り返る。
「お前はこれを肌身離さず持っていろ」
望海に巾着を手渡せば、望海はしげしげと巾着を観察し始めた。サテンに指を這わせ、黒曜石を覗き込み、巾着を太陽に翳して御利益を探そうとしている。
「手間をかけさせたな」
「なんの。若さんが人間の女子を連れ歩くだけでも珍しいのに、その女子の目が更に珍しい。実に面白いものを見させてもらった」
まるで珍獣扱いだ。
嘆息して、ズボンのポケットから茶封筒を取り出すと、泰心に手渡す。
泰心は恭しく茶封筒を受け取りながらも、速攻で封を開いた。
札束を取り出し、親指を舐めると「ひい、ふう、みい、よお…」と数え始める。一見、破天荒でありながら、金勘定に五月蠅いところは、実に天狗らしい。
「確かに」
ほくほくの笑顔で、泰心は茶封筒を懐に仕舞う。
「それでは、儂は退散するとしよう」
妖怪には珍しく、腕時計を確認する。
時間を気にする妖怪は滅多にいないが、泰心は常に時間に追われている。何しろ、趣味の競馬、競輪、競艇が時間との勝負なのだ。
「今日は競輪か?」
「はははっ…若さんは予知も出来ると。これは参った参った」
禿頭を叩きながら、泰心はスクーターへと戻って行く。
些かサイズの小さなヘルメットを被り、スクーターに跨ると、何度かメーターを殴る。それから念仏を唱え、キーを回した。
1回目は不発。2回目でかかったエンジン音は、昭和の頃のように騒々しい。黒々とした排気ガスが出ないだけでもマシなのだろう。泰心はクラクションを2度鳴らし、颯爽とは言えない走りで去って行った。
泰心が去ると、ようやく望海が僕の背中から出て来る。
「あれが…天狗なんですか?もっとクールでスマートなイメージでした…」
「種が天狗というだけだ。天狗には2種類いて、1つが泰心のような天狗だな。お前が想像するような山伏みたいな修行僧が、人間を捨てた成れの果てだ」
「それじゃあ…あの人、人間だったんですか?」
「そうだ」と頷く。
「修行してた人なんて信じられない…」
なんとも苦々しい顔だ。
「もう1種類はどんな天狗なんですか?」
「見てくれは鴉だよ。鳥のね」
新が空を指さして言う。
「区別するために、私たちは鴉、天狗と言い分けてる。天狗は元人間だから、誰の目にも触れるけど、鴉はそうじゃない」
「私は見えるけど、殆どの人が見えない?」
望海が木々で囀る小鳥に目を向けると、新は「そう」と頷く。
「そして、鴉は人間の言葉を介し、知能も高く、狡賢い。ただ、寿命が2、300年と短いんだよ」
「鬼と違って老化が早いって言ってましたね」
一応、泰心の無駄話を聞いていたらしい。
仏頂面で身震いしながらも、「私たちに比べたら長生きです」と眉宇を顰める。
「短命なのは鴉の方。天狗はもう少し長生きするよ。私が知る最高齢の天狗は700歳近かったね。泰心さんは、400歳くらいかな?あと2、300年くらいは元気そうだよね」
「女から変な病気を貰わなければ、あいつはもっと行くだろ。飲む、打つ、買うを地で行く奴だからな。ストレスがなさそうだ。お前が近寄ると食われるぞ」
望海を見下ろすと、苦虫を100匹ほど噛みしめた顔をしている。
「止めて下さい。妖怪って、セクハラばっかりなんですか?」
と、なぜか僕を睨んで来る。
「ほんと、気持ち悪い。大金積まれても無理です」
「金なんて使わないんだよ、あのエロ坊主」
「そうそう。異能を使うんだよ。人間は神通力と言い換えたりもするね。特に泰心さんは暗示、催眠系が得意でね。私たちには効かないけど、小物の妖怪だったり、人間はころりとかかるんだ。気づいたら孕んでるなんてこともあるよ。だから、望海ちゃんには危ないかな」
暢気に説明する新とは違い、望海の顔は蒼白だ。
ぶるり、と身震いして、怖々と泰心の去った方角を見つめている。
「もう会いたくないです…」
「飲む、打つ、買うの悪癖さえなければ、泰心さんは天狗の長になれたんだけどね」
新の言葉に、望海はぎょっと目を瞠って硬直した。
あんぐりと口を開けて、望海が硬直している。
視線の先に何があるのかと目を向け、納得した。
僕たちがいるのは、山峡を通る県道の脇に作られた休憩所だ。休憩所と言っても、SAとは違う。細長い駐車場には、車が8台ほど止められるスペースがある。今は僕たちの車しか止まっていない。
古い公衆トイレに、赤い自動販売機が1台。
飲食店や売店はない。
高さ1メートルほどの柵を越え、ごろごろと大岩の転がる川を挟んだ対岸には、山肌に沿って櫨の木や小楢、欅が赤く色づき始めている。見頃は来週辺りになるのだろう。
だが、望海が見ているのは、紅葉でも、朝日を浴びて煌めく川の流れでもない。
川の深みだ。
手前は膝下ほどの水深だが、対岸を見れば色が変わるほどの深みになる。その深みの部分で、暗い影が縦横無尽に泳いでいるのだ。
大きさは園児くらいだ。形こそ人間に近いが、1分経とうが、2分経とうが、それが息継ぎに浮上する気配はない。
「カ、カッパ…ですよね?」
望海が僕を見上げ、頬を紅潮させた。
何を興奮することがあるのかは分からないが、「そうだ」と頷く。
望海が震えあがった。恐怖ではなく、興奮で震えたのだ。
「メジャー中のメジャーですよ!すごい!」
その叫びに驚いたのか、河童は慌てたように水底に隠れてしまった。
「あ」と、両手で口を覆っても遅い。隠れた河童が出て来るには1時間ほど待たなければならない。つまり、呼吸だ。
河童というのは、意外と警戒心が強い妖怪だ。
子供と相撲をとったり、好物の胡瓜を盗んだりと、些かユーモアたっぷりに人間は河童像を作り上げるが、創作もいいところだ。警戒心の強い河童が人間の前に姿を見せるのは稀有だし、胡瓜よりも鮎の方が好物だ。尻子玉も取ったりしない。そもそも人間に尻子玉なんて臓器は存在しない。
全てが作り話かと言えば、そうでもない。
縄張りを侵すモノは、妖怪だろうが人間だろうが容赦しない。水中に引き込み、溺死させる。
それを理解しているのか、いないのか。
望海は僕の腕を掴み、必死に背伸びしながら河童の影を探している。
「どうかした?」
声に振り向けば、新がのんびりとした歩調で公衆トイレから出て来た。
ハンカチで手を拭き、望海のハイテンションに疑問を抱きながら周囲を見渡している。
「メジャー中のメジャーが来たぞ」
そう言えば、新は首を傾げ、望海は微妙な顔をした。
「え?なに?」
「河童がいたんだ。メジャー中のメジャーだと興奮してたからな。お前の方がメジャーだろ?」
僕の言葉に、新は眉尻をめいっぱい下げた。
「ああ…。ごめんね。イメージが違うメジャーで」
「そんなことないです!鬼頭さんも立派なメジャーです。角があるなんてイメージ通りです。ただ…アフロヘアで、虎柄パンツを履いて、金棒持ったら完璧だったんですけど…」
商店街にでもいそうな、安っぽい鬼のイメージだ。
そもそも鬼はアフロヘアではない。剛毛で天パなだけだ。
新も困惑している。
「来年の節分かハロウィンにでも、新に鬼のコスプレしてもらうか」
僕の冗談に、新が顔を顰めた。
「そう怒るな」
からからと笑っても、新は臍を曲げた顔つきのままだ。
ズボンのポケットにハンカチを仕舞い、僕から望海に向き直る。
「一応、注意。河童は怖いから、河童のいる川に近寄るのはダメだからね」
「そうなんですか?」
「まぁ、今は大丈夫だけど」
新は言って、僕を見る。
「惟親くんがいるから下手は打たないだろうけど、河童は縄張り意識が強いんだ。怒らせると、川に引っ張り込まれるよ。警告の意味だと、すぐに手を離してくれるけど、そうじゃないと溺死するまで引っ張り続けられる」
ぞっとしたのだろう。
望海の手に力が籠った。
「おい。爪を立てるな。ジャケットが傷むだろ」
苦言を呈せば力は緩めるが、手は離れない。
僕から触れるのはセクハラで、自分から僕に触れるのはOKらしい。
薄々勘づいていたが、望海は近くにいる者に抱きつく癖がある。家では紗だが、外では新が多い。ただ、危険なモノの近くだと僕にしがみ付く。
僕の呆れ顔など気づいてないのだろう。望海は川へと目を向けながら、「カッパって、寒くないんですか?」と緩い質問をした。
「河童は皮膚が分厚いんだよ。変温動物なのに寒さに強い大山椒魚みたいな感じだね。寒さに強いと言っても、雪深い地にはいないけど」
「へぇ~」と、望海は新の説明に関心する。
「妖怪が見えるのに、今まで見たことはなかったのかい?」
「名前も分からない小さいのばかりで、カッパとか、そういうのは昔話の中だけだって思ってたんです」
望海は興奮に目を輝かせる。
「人魚とかもいるんですか?」
「いるな」
「炙ると美味しいよ」
酒を飲む仕草をする僕と新に、望海の顔は青くなる。
口を半開きに僕たちを見上げ、わなわなと震えながら、「あ…ぶる?」と声を絞り出す。
「幽世で手に入る。干物で売ってるんだ。言っとくが、お前のイメージする人魚とは違うぞ」
「望海ちゃんのイメージは、人魚というよりマーメイドだろうね」
「美人でセクシーな方か。僕たちの言う人魚は、人面魚みたいなやつだな。人面というか、猿面というか。それに鯉のような体がくっついている。漁師を惑わす歌を歌う変わりに、ガラスに爪を立てたような悲鳴を上げる」
「帰りは海岸沿いをドライブしようか?運が良ければ見つかるかも」
笑い話のように話す僕とは違い、新は純粋な好意なのだろう。げんなりした望海に気付いた様子もなく、帰りのルートを頭の中で整理している。
シャツとズボンのポケットを叩き、「車に置きっぱなしだ」と呟いた。
「スマホで確認してみるよ」
新は言って、黒いワンボックスカーへと歩んで行く。
昨日借りて来た”わ”ナンバーだ。
「ところで、今は何休憩なんですか?」
「待ち合わせ中だ」
軽く肩を竦め、ジャケットのポケットからスマホを取り出す。
約束の時間から30分近く経過している。
嘆息して、ジャケットにスマホを戻す。
「ほら、河童がいるぞ」
緩やかにカーブした上流を指さす。
巨大な岩の影で、河童が小魚を貪っている。全体像を見れば、子供というよりも巨大な蛙だ。緑というより深緑。頭が大山椒魚、体が蛙。頭部に藻のような毛が生え、頭頂部には皿と呼ばれる頭頂骨がむき出しになっている。ここからでは見えないが、背中には鼈の柔らかそうな甲羅が付いているはずだ。
さぞかし喜んでいるかと思った望海は、想像していた河童と違ったのだろう。丸々と目を瞠り、慄いた様子で僕の腕にしがみ付いた。
「人間は妖怪をファンタジーに描きすぎる。河童なんてものは、あんなもんだ。セクシーな河童はいないし、コミカルでマスコット的な河童もいない。人間こそ喰わないが、平和的でもない。うちの連中は、人間社会に溶け込んでいる稀有なタイプだからな。うちのを標準に考えると手痛い目に遭うぞ。妖怪は基本、僕とお前が出会う切っ掛けになったアレに近いことを忘れるな」
望海は青い顔で河童を凝視しながら、深々と頷いた。
「もっと…可愛いかと思ってました…」
「幻想を抱くな。危険を見極められなければ死ぬぞ、人間」
「…………はい」
しょんぼりと頷いた望海の返事は、ぽんこつのエンジン音にかき消された。
ゆっくりと振り向けば、赤いスクーターに中肉中背の坊主が駐車場に入って来るところだった。黒い衣に、茶色の袈裟。頭がデカいせいで、ヘルメットが少し浮いているようにも見える。
見た目は60前後くらいか。
貧相な口髭に、右の頬に大きな黒子。眠そうな半目ながら、目玉がぎょろりとデカい。
ト、ト、ト、とスクーターが心許ないエンジン音を立て、ぷすり、と止まった。
「ああ…またエンストだ」
へらりと笑いを含んで、坊主がスクーターを下りた。
のろのろとスクーターを押し、僕を見つけるや否や「朝から女連れとは景気が良い!」と、望海の胸をガン見する。
そのニヤケ面は、女が生理的嫌悪感を抱く種類のものだ。
実際、望海は毛を逆立てた猫のように跳ね上がると、僕の背中に隠れてしまった。
「エロ坊主。遅刻だ」
僕が歯噛みして言えば、エロ坊主こと泰心は「弁解の余地なし」と豪快に笑う。
「あの…大神さんの知り合いですか?」
ひょっこりと顔を出す望海に、僕は頷く。
「あの生臭坊主は泰心。待ち合わせしていた奴だ」
「若さんは相変わらず、モテモテで羨ましい」
泰心は適当にスクーターを止めると、草履の底を擦るように歩いて来る。
じっと望海を見据える双眸は、エロ坊主とは思えぬほど冷厳としている。品定めしているのだろう。特に望海の目は、今の世では珍しい部類だ。
泰心は「なるほど、なるほど」としきりに頷き、僕たちの前で足を止めた。
「襤褸寺で細々と和尚をしている泰心と申す。娘御」
「初めまして…日向望海です」
僕の背中から怖ず怖ずと出て来て、ペコリと頭を下げる。
胸はデカくとも、丸顔の童顔。化粧を施せば化ける顔も、最小限の白粉と紅しか引いていない。丸襟のセーターにジーンズという色気のない格好も、泰心の趣味には合わないらしい。
少しテンションを下げた顔つきで、「よろしく頼む」と頷く。
「しかし、若さんの連れが娘御1人とは寂しい限り。儂が若さんの顔をしてたらハーレムを作って遊び倒すがな」
左手をグーに握り、そこに人差し指をずぼずぼと抜き差しする。
相変わらず下品で、女好きの塊だ。
望海がドン引いているのが分かる。僕のジャケットをぎゅっと握りしめ、「キモい…」と呟いている。
そんな悪態が聞こえても、泰心は気にも留めない。
「まぁ、遅刻して来たのも頑張り過ぎて寝過ごしたからだ。金玉の中はカラカラだが、赤玉は出ておらんから心配無用だ」
がはははっ、と大口を開けて笑いながら、人差し指をずぼずぼと抜き差しするのを止めない。
つまり、一晩中女と媾っての寝坊だ。
こんな見てくれなのに、女に事欠かないのは、泰心の異能が”催眠”だからだ。要は女を騙し、楽しんでいる。
「こいつは人間の坊さんぽい見てくれだが、天狗だ」
僕が言えば、望海は丸々と目を見開いた。
「て、天狗って…山伏の格好じゃないんですか?」
怖々とした望海の問いに、泰心は笑う。
「あんなの、現代じゃ目立って仕方なかろう。こっちの方が何かと都合が良い」
「翼もないし…鼻も違います」
「だから妖怪に幻想を抱くな。全ての天狗が空を飛ぶわけじゃない。泰心のような天狗は、ジャンプ力が凄いんだ。昔は鼻の長い赤い面をして、神体山に住み着いていたからな。それを見た人間が、天狗のイメージを定着させたんだろ」
「しんたい…さん?」
「娘御。神体山というのは、要は神奈備…神のいる山という意味だな。もしくは山岳信仰の篤い山のことを、神体山という。若さんを繋ぎとめるなら、体だけじゃ駄目だ。勉強もせんとな」
どうあっても下ネタに絡めたいらしい。
うんざりとため息を吐くと、「泰心さん!」と人懐っこい声が飛んで来る。新だ。
「久しぶりだね」
「おお、新!相変わらず、鬼の威厳が欠片もないな」
がはははっ、と笑う泰心に、新はキャスケット越しに頭を掻く。それから僕の後ろの望海を見て、嘆息した。
「セクハラは駄目だよ?」
「いやいや。若さんの女に手を出すほど、命知らずでも女日照りでもない。少子化の歯止めになればと思うて、日夜励んでいるほどだ」
「そういうところだよ…」
新が困惑気味に眉根を寄せる。
「だが、真面目な話、少子化は人間に限った話じゃない。儂らも問題になっとるよ。鬼と違って老化が早い。まぁ、人間から見たら不老不死に見えるのだろうが。老いというのは死と繋がっておる。子を為さねば一族が滅ぶ。だからといって、色気のない女天狗と励もうにもアレが萎えて勃たん。ならばと人間を誑し込んで励めば、なぜか流れる確率の方が高い。避妊薬なるものもある。孕んだかと思えば、今の世は病院で中絶だ。だから、数を打つのが儂の手法だ」
「お前のようなのを、人間は種馬というんだ」
「種馬、結構!」
豪快に笑い、くるりと踵を返す。
スクーターに戻り、フットレストに無造作に置いた紙袋を持って戻って来た。
辛うじて、有名デパートのロゴが確認できるほどのボロボロの紙袋だ。
「ほれ」と、新に紙袋を手渡す。
新は紙袋の中を覗き込み、漆塗りの木箱を取り出した。
形は文箱だが、大きさが違う。麻紐を解き、蓋を開けると、裏側に札が貼られている。
「若さんの依頼通りのサイズだ。ただ、神の加護を受けた物を封じるとなると、厳しいぞ」
「1日くらいは持つんだろ?」
「莫迦にするな。50年は持つ」
泰心は嘯きながら胸を張る。
「十分すぎる」
「まぁ、若さんに対しては杞憂だがな」
これまた笑う泰心に、僕は苦笑する。
新は箱の蓋を閉じ、麻紐を結び、再び紙袋の中に戻した。
「それから、頼まれていたお守りだ」
泰心が懐から取り出したのは、小さな巾着だ。
ジュエリーポーチと言うのだろうか。指輪が納まるていどの、白いサテン地の袋だ。「ほれ」と、渡されるがままに受け取り、巾着の口を開くと、中にビー玉サイズの黒曜石が入っている。その黒曜石の表面に、荒いながらに確りとした梵字が1文字刻まれる。
泰心が彫刻刀で刻んだのだろうが、意味は分からない。
「想像していたものより洋風だな」
「神社仏閣で売られているようなものと思うたかな?」
確かに、お飾りのお守りを貰っても困る。
「黒曜石は魔除けだったか?」
「その通り」
「この梵字の意味は?」
「降三世明王だ。真言は”オン ソンバ ニソンバ ウン バザラ ウンパッタ”と唱える。悪霊や怨敵を降伏させ、呪詛を返す。だが、重要なのは儂が念を込めたということだ」
にんまり、と目を弓なりに撓らせる。
なんとも恩着せがましい下衆な笑みだ。
「ああ、感謝しているよ」
肩を竦め、望海に振り返る。
「お前はこれを肌身離さず持っていろ」
望海に巾着を手渡せば、望海はしげしげと巾着を観察し始めた。サテンに指を這わせ、黒曜石を覗き込み、巾着を太陽に翳して御利益を探そうとしている。
「手間をかけさせたな」
「なんの。若さんが人間の女子を連れ歩くだけでも珍しいのに、その女子の目が更に珍しい。実に面白いものを見させてもらった」
まるで珍獣扱いだ。
嘆息して、ズボンのポケットから茶封筒を取り出すと、泰心に手渡す。
泰心は恭しく茶封筒を受け取りながらも、速攻で封を開いた。
札束を取り出し、親指を舐めると「ひい、ふう、みい、よお…」と数え始める。一見、破天荒でありながら、金勘定に五月蠅いところは、実に天狗らしい。
「確かに」
ほくほくの笑顔で、泰心は茶封筒を懐に仕舞う。
「それでは、儂は退散するとしよう」
妖怪には珍しく、腕時計を確認する。
時間を気にする妖怪は滅多にいないが、泰心は常に時間に追われている。何しろ、趣味の競馬、競輪、競艇が時間との勝負なのだ。
「今日は競輪か?」
「はははっ…若さんは予知も出来ると。これは参った参った」
禿頭を叩きながら、泰心はスクーターへと戻って行く。
些かサイズの小さなヘルメットを被り、スクーターに跨ると、何度かメーターを殴る。それから念仏を唱え、キーを回した。
1回目は不発。2回目でかかったエンジン音は、昭和の頃のように騒々しい。黒々とした排気ガスが出ないだけでもマシなのだろう。泰心はクラクションを2度鳴らし、颯爽とは言えない走りで去って行った。
泰心が去ると、ようやく望海が僕の背中から出て来る。
「あれが…天狗なんですか?もっとクールでスマートなイメージでした…」
「種が天狗というだけだ。天狗には2種類いて、1つが泰心のような天狗だな。お前が想像するような山伏みたいな修行僧が、人間を捨てた成れの果てだ」
「それじゃあ…あの人、人間だったんですか?」
「そうだ」と頷く。
「修行してた人なんて信じられない…」
なんとも苦々しい顔だ。
「もう1種類はどんな天狗なんですか?」
「見てくれは鴉だよ。鳥のね」
新が空を指さして言う。
「区別するために、私たちは鴉、天狗と言い分けてる。天狗は元人間だから、誰の目にも触れるけど、鴉はそうじゃない」
「私は見えるけど、殆どの人が見えない?」
望海が木々で囀る小鳥に目を向けると、新は「そう」と頷く。
「そして、鴉は人間の言葉を介し、知能も高く、狡賢い。ただ、寿命が2、300年と短いんだよ」
「鬼と違って老化が早いって言ってましたね」
一応、泰心の無駄話を聞いていたらしい。
仏頂面で身震いしながらも、「私たちに比べたら長生きです」と眉宇を顰める。
「短命なのは鴉の方。天狗はもう少し長生きするよ。私が知る最高齢の天狗は700歳近かったね。泰心さんは、400歳くらいかな?あと2、300年くらいは元気そうだよね」
「女から変な病気を貰わなければ、あいつはもっと行くだろ。飲む、打つ、買うを地で行く奴だからな。ストレスがなさそうだ。お前が近寄ると食われるぞ」
望海を見下ろすと、苦虫を100匹ほど噛みしめた顔をしている。
「止めて下さい。妖怪って、セクハラばっかりなんですか?」
と、なぜか僕を睨んで来る。
「ほんと、気持ち悪い。大金積まれても無理です」
「金なんて使わないんだよ、あのエロ坊主」
「そうそう。異能を使うんだよ。人間は神通力と言い換えたりもするね。特に泰心さんは暗示、催眠系が得意でね。私たちには効かないけど、小物の妖怪だったり、人間はころりとかかるんだ。気づいたら孕んでるなんてこともあるよ。だから、望海ちゃんには危ないかな」
暢気に説明する新とは違い、望海の顔は蒼白だ。
ぶるり、と身震いして、怖々と泰心の去った方角を見つめている。
「もう会いたくないです…」
「飲む、打つ、買うの悪癖さえなければ、泰心さんは天狗の長になれたんだけどね」
新の言葉に、望海はぎょっと目を瞠って硬直した。
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