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第十七話 ウォルフの地獄巡り
ウォルフの地獄巡り 五
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——いや、すごいね。まさかあれほどの地獄で発狂しないとは。正直もう合格でいい気がしてきたよ。でも悪いね。途中で抜けられない仕組みになってるんだ。次の地獄を体験してもらうよ。こんどは修羅道。争いの絶えることない、戦いの地獄さ。ひとによっては天国かもしれないね。
「どうした、獣耳。ぼうっとして」
ウォルフはコジャッブの問いかけにハッとし、不機嫌そうに答えた。
「いや、ちっと考えごとをよオ」
「しっかりしろよ。もうすぐなんだからよ」
「わかってっぺ」
言いながら、ウォルフは湿ったため息を吐いた。今日はかなり暑い。彼らは陽の高い炎天下、背の高い草むらでじっとうつ伏せになっていた。
腰の竹筒を取り、水を飲む。ぬるいが、渇きは多少やわらぐ。それにつられるように、数十人の仲間たちも、ちらほらと水を口にした。
(しっかしいま、どんくれえなんだべなァ)
ウォルフが考えていたのは、殺した敵の数だった。彼女はこの地獄に落とされる際、何者かの声に、一万のいのちを奪えば次に進めると言われた。
修羅道——それは殺し合いを常とする殺戮の世界だ。この世界の住人はだれもが殺しを愛し、戦うことを是としている。食事と眠るとき以外は、のべつ殺しを望み、そのことばかり考えている。
ウォルフには合わない価値観だった。彼女は旅人のいのちを奪う“旅人狩り”だが、殺しが好きなわけではない。あくまで里を守るために戦っているに過ぎない。
だがこいつらは違う。殺したくて殺している。殺しが好きだから争っている。毎日、どこから湧いてくるのか新品の剣を持って、死んでもいいから殺しに行こうと、血生臭い進行をする。
やってらんねエ、と思うが、一万人斬りを果たさなければ終わらないから、仕方なくやる。
そんな彼らはふだん洞穴や洞窟に住んでいる。熱帯ジャングルに似たこの世界には、いくつもの広い岩穴があり、それぞれがひとつのチームとして生活している。
ひと組およそ百人。それは決して増えることも減ることもない。なぜか死者は翌日の朝、なにごともなかったかのように、おのおのの寝床で目を覚ます。死体はそのままに、新たに発生する。
だれも疑問に思わない。そういうふうに作られているのだろう。これは悪魔の作った仮想現実である。そこに理屈などありはしない。
そんな環境で、ウォルフはもう十年以上戦い続けていた。
はじめは地獄そのものだった。
彼女は魔術師である。ふたつの地獄を経て、そんなことは忘れてしまったが、肉弾戦でどうこうするタイプではない。
ただただ斬られた。数年はひとつも戦果をあげられず、刃を突き刺される苦しみばかり味わい続けた。この時期が最も狂いそうだった。
しかし年月を経るにつれて多少剣というものがわかってきた。次第にひとり、ふたりと斬れるようになり、亀の歩みではあるものの、前へ進めるようになった。
ここ数年はかなり調子がいい。いちど死ぬまでに百人近い数を討てる。
戦略を駆使した結果だ。どうやら修羅の住人には知略というものがなく、みな一様に猪節だ。悪魔のプログラミングが甘かったのか、なんどやられても学習することなく、正面衝突を繰り返す。
もちろんウォルフの仲間も同様だ。彼らはいつも「難しいことなんて考えないで、さっさと突っ込もう」と猛る。そこをなんとか言いくるめるのが一番の大仕事だ。この方が能く殺せるぞ、と乗せるまでがとにかく苦労する。今日も午前中いっぱい使って説得し、やっと奇襲作戦を準備した。
(さあて、何人やれっぺか……)
ウォルフは昨日までの戦果をぼんやり数えていた。ここ一週間、死なずに二百人を斬っている。できればこのまま行きたい。死んでもよみがえるからといって、痛みを知らないわけじゃない。
恐ろしいことに、戦いはどちらかの全滅でしか決着がつかない。彼らはどんなに勝ち目のない勝負でも決して逃げない。殺すためなら死んでもいい。
だから負けいくさになれば殺されるほかない。以前いちど逃げたときは、恥知らずと罵られ、終いには仲間に殺されてしまった。
だからウォルフは思う。毎回勝ちたい。死にたくない。痛い思いをしたくない。
(まぁ……どうせ今回もうまくいくけどよ)
ウォルフはニヤリと笑みを浮かべた。しかし直後、そんな自分の心情を畏れ、首を振った。
彼女はおのが変化に不安を覚えていた。
殺すことに前向きになってきている。
首を刎ねるのがたのしくなってきている。
“正気”とは、どんな状態を示すだろう。およそ本来の性質から変わらない状態、客観的に見て狂ってない状態を言うだろう。
いまの彼女はどうだ。
元々殺しを厭う人間ではない。だが、そこによろこびを覚えたことなどない。あくまで仕事としての、無感情な殺しだ。
それが、早く血を浴びたくてうずうずしている。
「おい、本当にどうした。さっきから難しい顔して、考えごとか?」
再びコジャッブに問われ、
「悪ィ、しっかりするべ」
ウォルフは頭を掻き、もう考えないことにした。考えたところで無駄だ。この世界ではとにかく殺し続けなければならない。ならば迷いはない方がいい。むしろ狂ってしまった方が好都合ではないか。
「さあて、今日もおれが一番多く殺すぜ」
そう気概を見せるコジャッブは、このチームで一番の剣士だ。背は高く、体格もがっちりとし、人一倍太い剣を軽々と振るう。いくさとは関係ないが、男性のシンボルも飛び抜けて大きく、だから力があるのだとよく冗談のネタになる。
「いんや、おれも負けねっぺよ」
ウォルフは数少ない女の身だが、長年の修練でめきめきと腕を上げていた。彼女はほかのヤツらと違って必死である。遊びじゃない。地獄を抜けるための、本当の意味での闘いをしている。
(でも……ここもそんな悪い世界じゃねえけどな……)
これは、本心だろうか——そう自問することも忘れ、彼女はまたひと口、水を飲んだ。
そうしていると、遠くからぞろぞろと人だかりが歩いてきた。
「お、来たぞ」
別の洞穴の一団だ。どうやらこれから戦いに向かうらしく、鼻歌やら威勢のよい声やら聞こえてくる。この待ち伏せは、そういった無警戒状態を狙ったものだ。
「おめえら、まだ動くなよ」
ウォルフは肩に力を入れ、大地にしがみつくようにして言った。仲間たちから「わかってらい!」と、苛立つ声が返ってきた。
みんなうずうずしている。隠れてなんかいないで、さっさと立ち上がり、ぶつかりたがっている。
それはウォルフもおなじだ。敵を見た瞬間から全身の血が熱くなり、いまにも飛び出したい衝動に駆られた。
だが、奇襲でなくてはいけない。正面衝突ではイーブンだ。心構えをさせては不利に繋がる。
じっと待った。ゆっくり向かってくる相手が背中を見せるまで、歯ぎしりを抑えながら耐えた。
そしてとうとう草むらを通り過ぎた。直後——
「ぐおおらあああああーーッ!」
かつては出したことのない下品な叫びとともにウォルフは跳ねた。同時に仲間たちも噴火のような怒号を発し、一斉に斬りかかった。
すると敵は驚いて硬直し、殿がばっさばっさと倒れた。残りも慌てて剣を構えるが、あまりに急で体勢が悪い。そこにまっすぐな熱気が突き刺さるのだから、泥をほじるみたいにグズグズになる。
ほとんど一方的な殺しだった。先陣を切ったウォルフは、ほんの数十秒で四人は斬っていた。
(こりゃちょろいべ。あと何人殺せっかな?)
余裕だった。勝ったも同然だった。敵もやっと奮起したが、すでに半数を失い、かち合えば二体一だった。あとは傷を負わないよう注意するだけである。
だが——
「ぐおっ!」
突如、コジャッブが真っ二つにぶった斬れた。そして、その周囲の仲間も次々となます斬りにされた。それを見て、
「げえっ! しまった!」
ウォルフは絶望に目を見開いた。
このチームは相手にしてはいけない敵だった。
どの洞穴にもひとりかふたり、とんでもない猛者がいる。たったひとりで十人二十人を相手取るようなバケモノがいる。
ウォルフの洞窟のそれがコジャッブだが、ここにいる相手は彼をはるかに凌駕する剣豪だ。
そいつは“虎”と呼ばれていた。
肌の黒い女で、それほど腕が太いわけでもないのに、巨大な剣を片手で振るう。
それでいて、虎のように柔軟に素早く動き、骨も鋼もたやすく断ち斬る。
こいつと出会ったら最後、絶対に勝ち目はない。どんなに有利な状況でも、たとえ百人で囲っても、このひとりに皆殺しにされる。
ああ、終わった——
ウォルフは途端に戦意を失い、だらりとしてしまった。どうやっても死はまぬがれない。
せめて首を斬り落としてくれ。首を斬られれば、痛いのはそのときだけで、あとは地面に転がったときの衝撃だけで済む。
そんな彼女の前に、黒い猛獣が飛び込んだ。
無意識に構えたガードをくぐり、虎は横薙ぎの一閃を疾らせた。
熱いっ!
腹が横一文字に燃えた。
痛みか熱か、区別のつかない激痛が、白目を剥かせた。
意識が消える。
また死ぬ。
視界が真っ白になる。
ウォルフは思う。陽のない夜は、暗い闇が覆うが、明かりで照らすと白に近づく。だが、ひとが死ぬとき世界が白くなるのなら、本当は世界は白いんじゃないかと。
…………ああ、そうか。生きてるから黒いんだ。死んだ世界は、みんな白くて、闇が照らして色がつくんだ。
たまんねえよなァ……毎回毎回ぶっ殺されて、痛え思いして、そんでまた殺し合いしねえとなンねんだもんなア。
けど、うまくいってる。うまくいってるべ。あとどんくれえかかんか知んねえけど、いつかはこの地獄にも終わりがくる。
それまでの辛抱……それまでの辛抱…………
「どうした、獣耳。ぼうっとして」
ウォルフはコジャッブの問いかけにハッとし、不機嫌そうに答えた。
「いや、ちっと考えごとをよオ」
「しっかりしろよ。もうすぐなんだからよ」
「わかってっぺ」
言いながら、ウォルフは湿ったため息を吐いた。今日はかなり暑い。彼らは陽の高い炎天下、背の高い草むらでじっとうつ伏せになっていた。
腰の竹筒を取り、水を飲む。ぬるいが、渇きは多少やわらぐ。それにつられるように、数十人の仲間たちも、ちらほらと水を口にした。
(しっかしいま、どんくれえなんだべなァ)
ウォルフが考えていたのは、殺した敵の数だった。彼女はこの地獄に落とされる際、何者かの声に、一万のいのちを奪えば次に進めると言われた。
修羅道——それは殺し合いを常とする殺戮の世界だ。この世界の住人はだれもが殺しを愛し、戦うことを是としている。食事と眠るとき以外は、のべつ殺しを望み、そのことばかり考えている。
ウォルフには合わない価値観だった。彼女は旅人のいのちを奪う“旅人狩り”だが、殺しが好きなわけではない。あくまで里を守るために戦っているに過ぎない。
だがこいつらは違う。殺したくて殺している。殺しが好きだから争っている。毎日、どこから湧いてくるのか新品の剣を持って、死んでもいいから殺しに行こうと、血生臭い進行をする。
やってらんねエ、と思うが、一万人斬りを果たさなければ終わらないから、仕方なくやる。
そんな彼らはふだん洞穴や洞窟に住んでいる。熱帯ジャングルに似たこの世界には、いくつもの広い岩穴があり、それぞれがひとつのチームとして生活している。
ひと組およそ百人。それは決して増えることも減ることもない。なぜか死者は翌日の朝、なにごともなかったかのように、おのおのの寝床で目を覚ます。死体はそのままに、新たに発生する。
だれも疑問に思わない。そういうふうに作られているのだろう。これは悪魔の作った仮想現実である。そこに理屈などありはしない。
そんな環境で、ウォルフはもう十年以上戦い続けていた。
はじめは地獄そのものだった。
彼女は魔術師である。ふたつの地獄を経て、そんなことは忘れてしまったが、肉弾戦でどうこうするタイプではない。
ただただ斬られた。数年はひとつも戦果をあげられず、刃を突き刺される苦しみばかり味わい続けた。この時期が最も狂いそうだった。
しかし年月を経るにつれて多少剣というものがわかってきた。次第にひとり、ふたりと斬れるようになり、亀の歩みではあるものの、前へ進めるようになった。
ここ数年はかなり調子がいい。いちど死ぬまでに百人近い数を討てる。
戦略を駆使した結果だ。どうやら修羅の住人には知略というものがなく、みな一様に猪節だ。悪魔のプログラミングが甘かったのか、なんどやられても学習することなく、正面衝突を繰り返す。
もちろんウォルフの仲間も同様だ。彼らはいつも「難しいことなんて考えないで、さっさと突っ込もう」と猛る。そこをなんとか言いくるめるのが一番の大仕事だ。この方が能く殺せるぞ、と乗せるまでがとにかく苦労する。今日も午前中いっぱい使って説得し、やっと奇襲作戦を準備した。
(さあて、何人やれっぺか……)
ウォルフは昨日までの戦果をぼんやり数えていた。ここ一週間、死なずに二百人を斬っている。できればこのまま行きたい。死んでもよみがえるからといって、痛みを知らないわけじゃない。
恐ろしいことに、戦いはどちらかの全滅でしか決着がつかない。彼らはどんなに勝ち目のない勝負でも決して逃げない。殺すためなら死んでもいい。
だから負けいくさになれば殺されるほかない。以前いちど逃げたときは、恥知らずと罵られ、終いには仲間に殺されてしまった。
だからウォルフは思う。毎回勝ちたい。死にたくない。痛い思いをしたくない。
(まぁ……どうせ今回もうまくいくけどよ)
ウォルフはニヤリと笑みを浮かべた。しかし直後、そんな自分の心情を畏れ、首を振った。
彼女はおのが変化に不安を覚えていた。
殺すことに前向きになってきている。
首を刎ねるのがたのしくなってきている。
“正気”とは、どんな状態を示すだろう。およそ本来の性質から変わらない状態、客観的に見て狂ってない状態を言うだろう。
いまの彼女はどうだ。
元々殺しを厭う人間ではない。だが、そこによろこびを覚えたことなどない。あくまで仕事としての、無感情な殺しだ。
それが、早く血を浴びたくてうずうずしている。
「おい、本当にどうした。さっきから難しい顔して、考えごとか?」
再びコジャッブに問われ、
「悪ィ、しっかりするべ」
ウォルフは頭を掻き、もう考えないことにした。考えたところで無駄だ。この世界ではとにかく殺し続けなければならない。ならば迷いはない方がいい。むしろ狂ってしまった方が好都合ではないか。
「さあて、今日もおれが一番多く殺すぜ」
そう気概を見せるコジャッブは、このチームで一番の剣士だ。背は高く、体格もがっちりとし、人一倍太い剣を軽々と振るう。いくさとは関係ないが、男性のシンボルも飛び抜けて大きく、だから力があるのだとよく冗談のネタになる。
「いんや、おれも負けねっぺよ」
ウォルフは数少ない女の身だが、長年の修練でめきめきと腕を上げていた。彼女はほかのヤツらと違って必死である。遊びじゃない。地獄を抜けるための、本当の意味での闘いをしている。
(でも……ここもそんな悪い世界じゃねえけどな……)
これは、本心だろうか——そう自問することも忘れ、彼女はまたひと口、水を飲んだ。
そうしていると、遠くからぞろぞろと人だかりが歩いてきた。
「お、来たぞ」
別の洞穴の一団だ。どうやらこれから戦いに向かうらしく、鼻歌やら威勢のよい声やら聞こえてくる。この待ち伏せは、そういった無警戒状態を狙ったものだ。
「おめえら、まだ動くなよ」
ウォルフは肩に力を入れ、大地にしがみつくようにして言った。仲間たちから「わかってらい!」と、苛立つ声が返ってきた。
みんなうずうずしている。隠れてなんかいないで、さっさと立ち上がり、ぶつかりたがっている。
それはウォルフもおなじだ。敵を見た瞬間から全身の血が熱くなり、いまにも飛び出したい衝動に駆られた。
だが、奇襲でなくてはいけない。正面衝突ではイーブンだ。心構えをさせては不利に繋がる。
じっと待った。ゆっくり向かってくる相手が背中を見せるまで、歯ぎしりを抑えながら耐えた。
そしてとうとう草むらを通り過ぎた。直後——
「ぐおおらあああああーーッ!」
かつては出したことのない下品な叫びとともにウォルフは跳ねた。同時に仲間たちも噴火のような怒号を発し、一斉に斬りかかった。
すると敵は驚いて硬直し、殿がばっさばっさと倒れた。残りも慌てて剣を構えるが、あまりに急で体勢が悪い。そこにまっすぐな熱気が突き刺さるのだから、泥をほじるみたいにグズグズになる。
ほとんど一方的な殺しだった。先陣を切ったウォルフは、ほんの数十秒で四人は斬っていた。
(こりゃちょろいべ。あと何人殺せっかな?)
余裕だった。勝ったも同然だった。敵もやっと奮起したが、すでに半数を失い、かち合えば二体一だった。あとは傷を負わないよう注意するだけである。
だが——
「ぐおっ!」
突如、コジャッブが真っ二つにぶった斬れた。そして、その周囲の仲間も次々となます斬りにされた。それを見て、
「げえっ! しまった!」
ウォルフは絶望に目を見開いた。
このチームは相手にしてはいけない敵だった。
どの洞穴にもひとりかふたり、とんでもない猛者がいる。たったひとりで十人二十人を相手取るようなバケモノがいる。
ウォルフの洞窟のそれがコジャッブだが、ここにいる相手は彼をはるかに凌駕する剣豪だ。
そいつは“虎”と呼ばれていた。
肌の黒い女で、それほど腕が太いわけでもないのに、巨大な剣を片手で振るう。
それでいて、虎のように柔軟に素早く動き、骨も鋼もたやすく断ち斬る。
こいつと出会ったら最後、絶対に勝ち目はない。どんなに有利な状況でも、たとえ百人で囲っても、このひとりに皆殺しにされる。
ああ、終わった——
ウォルフは途端に戦意を失い、だらりとしてしまった。どうやっても死はまぬがれない。
せめて首を斬り落としてくれ。首を斬られれば、痛いのはそのときだけで、あとは地面に転がったときの衝撃だけで済む。
そんな彼女の前に、黒い猛獣が飛び込んだ。
無意識に構えたガードをくぐり、虎は横薙ぎの一閃を疾らせた。
熱いっ!
腹が横一文字に燃えた。
痛みか熱か、区別のつかない激痛が、白目を剥かせた。
意識が消える。
また死ぬ。
視界が真っ白になる。
ウォルフは思う。陽のない夜は、暗い闇が覆うが、明かりで照らすと白に近づく。だが、ひとが死ぬとき世界が白くなるのなら、本当は世界は白いんじゃないかと。
…………ああ、そうか。生きてるから黒いんだ。死んだ世界は、みんな白くて、闇が照らして色がつくんだ。
たまんねえよなァ……毎回毎回ぶっ殺されて、痛え思いして、そんでまた殺し合いしねえとなンねんだもんなア。
けど、うまくいってる。うまくいってるべ。あとどんくれえかかんか知んねえけど、いつかはこの地獄にも終わりがくる。
それまでの辛抱……それまでの辛抱…………
応援ありがとうございます!
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