吸血鬼のヒモになりまして

琴葉悠

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運命的な出会い

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 その日は色んな意味でめまぐるしかった。


「君は今日限りで会社を辞めて貰いたい」
「え」
 俺の名前は九条くじょう光彦みつひこ
 会社ではリストラの宣告を受け、辞めさせられる羽目になった。
 一日で引き継ぎをさせられ、帰られる時刻は夜遅く。

 とぼとぼと一人で帰ってくると、若い男達が近づいてきた。

「なぁ、兄ちゃん、血を吸わせてくれよ、俺等美人に逃げられまくってて飢えてるんだよ」
「兄ちゃんも顔はいいし、なぁ気持ちよくなれるからよぉ」

 噂の吸血鬼集団に目をつけられた。
 運悪くブザーを持ち歩いていなかった、俺は逃げ出したがあっという間に囲まれた、だって相手吸血鬼だもん、ぐすん。

 そんな時──

「人間一人に集団で襲う等、品がない、みっともない、これだから若造はいやなのだ」

 低く、どこか恐ろしくも気高さを感じる声が聞こえた。


「何だ⁈ てめぇ!」
「同じ吸血鬼なのに俺等の邪魔するってのか⁈」
「するとも、みっともない若造共は見てられないからね」
「やっちまえ!」
「ああ!」

 俺は何も言えず、硬直していたが、現れた雪のような肌に黒髪に赤の目、口から見える牙──吸血鬼が、先ほどの吸血鬼達を一掃していた。
 一瞬で。

「助かったぁ……」

 俺はそれで意識を失った。
 緊張の糸が切れてしまった所為で。




 目を覚ますと、知らないベッドの上で眠っていた。
 豪奢な天涯つきのベッドに。

「あれ……」

 と、横を見れば全裸? で寝ている、俺を助けてくれた? 男吸血鬼⁈

「え、え、え⁈」

 男吸血鬼は赤い目をそっと開いた。

「やあ、お早う光彦。」
「何で、俺の名前を……」
「気絶した後、悪いと思ったが君の鞄をあさらせて貰ったよ、免許証でなんとか免許で特定できたが、住所の場所まで行くのが面倒でね、私の家に来て貰ったよ」
「な、なんで添い寝……」
「だめかね?」
「だめというか、いきなり添い寝とか裸とかはちょっと……恥ずかしいです」
「この国の人間は奥ゆかしいね」
 この吸血鬼、何考えてるか分からない。
「さて、所で君は会社帰りのようだが会社の身分証を示すカードがなかったが一体?」
「そのクビになりまして……」
「何、クビに?」
「頑張って働いてたんですけど、会社の業績良くならないしその上次期社長とされる御曹司が入ってくるから、辞めてくれと言われて……」
「何だそれは、どこの会社だ」
「株式会社享保って所なんですが」
「ふむ、聞いた事がある」
「そうですか……」
「つまり、君は会社を辞めさせられ、今働くあてがないと」
「はい……」
「ならちょうどいい」
 男吸血鬼はにやりと笑った。

「私に飼われないかね?」
「へ?」
「この地でクロスブラッドに巡り合うとはなんたる奇跡」
「な、なんでそれを……」
「匂いで分かるとも」
 男吸血鬼は嗤う。

 クロスブラッド──吸血鬼に血を吸われた場合、処置しないと吸血鬼になってしまうが、クロスブラッドの場合処置の必要もなく、吸血鬼にならない特殊な血。また吸血鬼にとっては極上。

「では、光彦。君はここにいるといい」
「えっと貴方は?」
「そうだな、名乗っていなかったな」
 男吸血鬼は一瞬で身なりを整えてから振り返り笑う。
「オルフェウス、オルフェという企業のもっとも偉い人物、と言えば分かるかね?」
 俺は息をのんだ。

 知ってる。
 大企業オルフェ、俺の会社もなんとか俺が契約を取った所だ。
 もし、契約を切られたら?
 いや、構うもんか。
 俺をリストラしたんだから、今更だ!


「そう言えば、君の名前。確か享保という子会社が必死にプレゼンをして契約を結んだ者の名前と一致するな」
「あ、はい。それ私です。当時は必死で」
「その有能な君をクビにするような会社は我が社と付き合う必要はないな、切るか」

 男吸血鬼オルフェウスはそう言い切って部屋を出ようとした。

「ああ、君は私が面倒を見るのだから、この部屋からは出ないように」
「はぁ……」
「近いうちに君のアパートに行って荷物をここに郵送してこよう」
「は、はい」

 オルフェウスは機嫌良さそうにそう言って、部屋を今度こそ出て行った。

「……どうしよう」
 俺はスーツ服のまま頭を抱えた。


 電話がひっきりなしに元いた会社から来たが無視した。
 あのオルフェウスさんが何かしたのだろうと予測できたからだ。
 電話に出ないと分かるとメールを送ってきた。
 内容をちょっと見てみると「オルフェから我が社との契約を結んだ立役者をクビにする会社には興味はない」と言って契約を切られたから戻って来てくれという内容ばかりだった。
 それで俺の溜飲はちょっと下がった。


 しばらくして、本当に俺の部屋の物の一部がこの部屋に運ばれ配置されていった。
 ゲーム機に、本、漫画、そう言った趣味の類いが運ばれてきた。

 ゲーム機は部屋にあるでかいテレビに繋げられ、本と漫画本は本棚に入れられた。

 オルフェウスが帰ってくるまで時間はまだありそうなので、俺は本を読むことにした。

 豪華なベッドの上で、のんびりと読書をする。
 これほどない贅沢だ。


「おや、読書かね」
「どうわ⁈」

 いつの間にか横に居たので俺は驚いてしまった。

「お、オルフェウスさん……」
「オルフェウスでいいとも」
「は、はぁ」

 オルフェウスさんは服を脱いだ。

「え、ちょ?」
「抱き枕にさせてもらおうか」

 そう言うとオルフェウスさんは俺を抱き枕にして眠ってしまった。

 俺は異性愛者だ。
 そのはずだ。
 なのに、なんで、隣に居るオルフェウスさんの裸見て、興奮してるんだ──





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