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あの時の約束

幼き日の「約束」

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 王子様の世話役を再開して、アイツが出てこない代わりに昔の夢を見る様になった。
 昔の事を思い出す度に、自分が薄汚れて歪んで壊れた存在になっているのを認識して酷く憂鬱になる。

 それと、夢で見る俺を「助けてくれた人」の事が時折頭に浮かぶようになった。

 あの人はどうしてるだろうか、とか色々思うが。
 俺が覚えてる声も、変わってしまっているかもしれないし、相手は俺の姿を見ても「子ども」の時の俺と一致しないかもしれない。
 それもそうだ、声も変わってるし。
 見た目も若干変わってる……と思う。

 王子様の世話で苛立ったり、忌々しさを覚えると、何故かあの人の事が思い浮かぶようになった。
 理由はまだ分からない、それにあの人の名前……名前、教えてもらったはず、最後に、教えてもらったはずなのに…思い出せない。

 別にいいかと思うのと、思い出さないと、っていう反対の思考で多少壊れた頭に負担がかかるのが辛い。

 俺は、寝るまでは最低限の世話だけして、会話はほとんどせず。
 寝る前まぁ、王子様の「お願い」に苛立つから王子様犯して体に痕つけて、一応射精してから「お願い」を聞く。
 お願いの内容は様々、性行為――俺の女性器に突っ込むのとか、抱きしめ合って眠りたいとか、口づけをして欲しいとか、まぁ様々。

 どれも俺からすると気色悪いとか、気持ち悪いとか、不快感しかねぇ行為。

 なのに、なんで俺、気持ちよくもなんともないのに王子様の事犯してるんだろう、自分の事なのにわけわかんねぇ。


 で、定期診察日が来た。
「……やはり様子見ですね」
 セイアの言葉に、職務の合間をぬってきた王様が深いため息をついた。
 まぁ、王子様の世話して変わったの、俺の睡眠薬位だもん。
 ちょっと強い薬になった。
「……王子様の方はどうだ?」
「ゆっくりとですが、改善していっております、ですがやはり……」
 セイアは俺の方を見た。
「ニュクス様の方が非常に不安定かと、何かありましたか?」
「別に、何も」
 言ったら色々面倒だから、いつも通りの事しか言わない。
「……あのさぁ、前から疑問だけど。王子様は俺じゃないといけないけど、何で俺なわけ? 王子様は俺の事を知っていたのか?」
「……分からぬ、私が聞いても頑なに口を閉ざすし、その事柄を調べようとしたが薬でも術でもどうにもできぬ程にリアンは何も語らぬのだ」
 王様の言葉に、俺は何か思った。

 頑なに口を閉ざすって、言えない理由がある?

 ずきんと頭が痛くなった。
 いや、ずきんじゃねぇ、滅茶苦茶頭が痛くなって俺はその場に座っていることもできず、ぶっ倒れた。

「ニュクス?!」
「ニュクス様?!」

 何か騒がしい声はずの声が遠くなっていくのを感じながら、俺は意識を手放した。




 周りの風景が曖昧だ。
 アイツか?
『……生まれてこなければよかったと、思ってしまうのか君は』
 あ、違う。
 昔のだ、この声、あの人の声だ。

『全ての命は祝福されている……はずだというのに、どうしてこう時の流れは多くの者達を愚かにしてしまうのか、かつて賢者と言われていた種族さえも、今では聖王の言いなりだ』

 あ……あれ、待て、声、この声。
 今気づいた、少しずつ、近づいてる、あの声に。

『ニュクス、君は生まれて良くなかった存在などではない。生まれてくるべくして生まれた、他の者達と同様』

 王子様の、声に。
 今の、王子様の、声、なんか、幼い、感じ、だけ、ど、にて、る。

 ま、さ、か。

『君は何処かへ行くのだね、そうだね、じゃあ最後だ。君と再会できることを祈って、私と君が出会った証として私の名前を最後に、この事は、誰にも言ってはいけない、いいね。時が来るまで』

『私の名前は――』

『リアン――とある国のそう、王子という立場だよ』

――おうじさま、なのか?――

『ああ、だからいつか、君の事を本当の意味で助けてあげたい』

――いいよ、いつもたすけてくれたから、うん、いつかおれがおんがえしするよ、いつかりあんのこと、たすけるよ――

『ふふ、ありがとう、ニュクス』

 砕け散った。
 昔の光景が砕け散る音がした。


 あ、あ、じゃあ、王子様が、俺を、求めてた、のは――

『――ああ、やっと思い出したか。私から言ってもお前は理解せんだろうからと待っていたが……』
 アイツの声、よく分からない空間に俺はいた。
「……なんで、あんな、むかしの、やくそく、が」
『――壊れに壊れて、リアンは「過去」にすがった、汚されてない「過去」に。そう、私の「御子」である、お前の存在にな。王子、と言ったのに、お前はそれで態度を変えることは無かった、だから、お前だったのだ。リアンは――王子という立場ではなく、リアンとして残った己で必死にお前に縋り付いているのが現状だ』
「……」
 返す当てのない約束、封じ込めていた言葉の数々が思い起こされる。

 ああ、思い出した、母さん達の前では泣けないから、リアンの前では泣いていた。
 ああ、思い出した、リアンに対して自分が生まれてきた事の不満をぶつけてた。

 隠していた記憶が、まるで堤防が決壊した川から一気に水があふれるみたいに出てきて、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
 感情も、ますますどうしようもないものになっていく。

 自分の存在を消したくなる。
『……まぁ、お前がリアンの言葉に従って秘密にしようとして今までの感情以上に隠していた記憶だ、さすがにこのままだとお前達の関係がねじれすぎてるから、少し過去を思い出させる手助けだけした、後はお前が自動で思い出していった』
「……おもいださなきゃよかった」
『――そう言うと思っていた。正直、お前がリアンを犯す行為する前にやっておけばよかったと後悔している』
「……」

 吐き気がする。
 助けてくれて、苦しいのを吐き出したのを受け止めてくれて、それで、短い間だったけど、母さん達よりも俺のこと支えてくれたのに――

 俺、なんて、ことを、したん、だ?

『そう自分を責めるな……まぁ、向こうも最初お前に無理強いしたのだ、それで帳消し――とはいかぬよな、お前は』
「……」
 確かに、最初無理やりされたけど、俺はそれ以上に酷いことしてきた。
 ああ、そうだあの言葉に俺。


――おれみたいなやつとけっこんしたいの?――
『君が大人になって私と再会した時に結婚してほしい、君は素敵な子だよ、けっして災いの種でも、なんでもない、君は普通の子だ、普通の素敵な子だ』
――へんなやつ……いいよ、どうせけっこんできないよ、おれ、こんなからだだもん――
『体の事はいいんだ。君のその体は変でもなんでもない、そういう体だった、ただそれだけなんだよ』
――おとこでも、おんなでもないのに?――
『君の精神が男性よりだろうと、女性よりになろうと、どちらでもなくてもいい、君が君自身なら』
――ほんとう、かわってる――
『よく言われるよ』
――ああ、うん、じゃああんたがおぼえてたら、いいよ――
『分かった、忘れない、君の事だけは決して』
――……どうせわすれるだろ――
『はは、これでも忘れないと決めたことだけは忘れたことはなくてね』
――……へんなの――
『じゃあ、誓いにこれを渡そう』
――なに、これ……ほうせき?――
『婚約者へ渡すものだよ、君に渡そう』
――……なくすかもしれないけど?――
『大丈夫、それは決して無くすことは無い。君は何処かにしまうだけ、決してなくならない』
――ふぅん――


「あ……」
『さぁて、今日は此処迄だ、さて、お前は次、何をする?』
 その言葉を最後に声は聞こえなくなり、真っ暗闇に俺は堕ちて行った。




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