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あの時の約束
大事な物を、手放す
しおりを挟む目を覚ますとベッドの上にいた。
医療者達が俺が目覚めたのを確認すると、セイアを呼びに行った。
「何か、ありましたか?」
「……頼みがある、多分持ってきてると思う、俺の魔術で鍵が掛かった箱、黒い箱を持ってきて欲しい。多分母さん達がこの国に来る時一緒に持ってきてるはずだ」
「……黒い、箱? ……分かりましたでは」
セイアはそれを部下らしき者達に伝えた。
一時間ほどで、黒い箱を持ってきた。
俺はそこでそれを開けることをしなかった。
「……王子様の世話に戻る」
「いけません、まだお体をお休めになってください」
「お願いだ、戻らせてくれ」
俺の言葉に、セイアは頭を悩ませているような様子だったが、諦めたような表情をした。
「分かりました、では、何かありましたら」
「ありがとう」
俺は王子様の所に戻された。
王子様は部屋のベッドの上でぐったりしている。
「――リアン」
王子様は自分の名前を俺に呼ばれた途端起き上がった。
俺は箱を術で開錠し、中に入っていた物を取り出す。
角度や、光の加減で色が変わり、中には小さな薔薇の花がある、宝石を取り出してリアンに見せる。
リアンの表情変化しが、目の虚ろな目が生気を帯びる。
「あ……あ……」
嬉しそうな表情をしている。
ああアンタは覚えてたんだな、ずっと。
そんなになっても。
俺はそれをリアンの手に握らせる。
「……?」
リアンは何をしているか分からないと言いたげに、俺を見ている。
思い出してしまったなら、今までの行為とか振り返れば、俺はこうしなければならない。
だって――
「――返す、俺は約束を果たせなかった、俺はそれを持つのにふさわしくない」
こんな大事な物、俺みたいな奴が持ってるわけには、いかないから。
もっとふさわしい人物がいる。
薄汚れた俺には、持つ資格は、ない。
祝福の子?
ああ、違うね、確かに俺は「魔の子」だ。
周囲を不幸にする災いの種、誰も幸せにすることができない、死んだ方がいい存在。
何が神の「御子」だよ。
家族もぐちゃぐちゃにして、唯一自分の歪みを受け止めてくれた事のある奴を傷つけて、気色悪がって、忌々しく思って。
ああ、これでいい。
アイツの言葉じゃ世界が滅びるとからしいけど、其処はさぁ俺アンタの「子ども」なんだろ、見逃してくれよ。
全部、俺が悪いんだから――
何かが、壊れたような気がした、それに続くように色んなものが壊れていく感じがした。
視界が歪む。
体がうまく動かなくなる。
立ってられなくて、床に倒れる。
顔面思い切り床にぶつけたのに、痛くない。
寒い。
寒くて仕方ない。
それ以外の感覚が全部無くなっていく。
何も聞こえないし、リアンが俺の体を揺さぶるのもぼやけて見えなくなっていく。
ああ、これが終わりか。
二十年とちょっとの生。
大事にしたい人達の人生を滅茶苦茶にした人生。
もっと罰をくれてもよかったのに。
『――ああ、お前に言っておけば良かった、そうだお前はそういう「子」であったな』
ああ、なんだよ「神様」終わったんだろ、俺の人生。
『終わらせるものか、終わってたまるものか』
もうやだよ、俺。
他人の事傷つけて傷つけて、苦しめて、めちゃくちゃにする事しかできないのに。
何なの俺?
何のために生まれたの俺は?
誰かの人生滅茶苦茶にするだけの為に生まれたのか?
『――昔はお前達は私からの「救い」であった。だが殆どの種族がそれを忘れ、覚えているのは魔族と他の種族から敵対されている者達だけになった。未だ私の事を皆信仰しているのに、何故かそれを忘れ果てた、精霊も何も言わぬ、賢者の種族も忘れ果てた、妖精すらも、最も強く信仰していたはずの人は――歪み、ただ名ばかりの信仰と成り果てた』
ああ、そう。
『歪んだ結果「救いの子」であるはずの子を「異端」とし「魔の子」と呼ぶようになった、この世に災いをまく種として』
当たってるじゃないか、ははは。
『全く笑えぬ』
で、「オトウサマ」、いや「オカアサマ」か?
アンタはどうしたいの?
『お前の生がこんな形で終わるなどまっぴらごめんだ』
ヤダよ、俺もう生きていたくない。
『では、私に「我が子」が死ぬのを黙ってみていろと?』
だって、今まで何もしてくれなかったじゃないか。
『……』
今更そう言われても無理だよ。
『お前は幸せになりたかったのではないのか?』
あ――うん、なりたかった。
というか「普通」になりたかった。
うん「普通」に、人目を気にせず、人と話せて、友達とかつくれて、反抗期とかなったり、遊んだり、色んな事をしたかった。
恋とか結婚はするしない自由だからどっちでもいいけど、それでも「普通」でありたかった。
『……』
でも、俺は「普通」になれない、なれっこない。
他から見たら「異常」なんだから。
それに、俺は歪で、壊れて、おかしかったんだろずっと、ずっと。
漸く、少しだけまともになれたんだよ。
『……本当に、それで、いいのか?』
いいよ……ああ、でも、そうだなぁ……
ああ……「初恋」の相手とのお別れが、コレなのは少しだけ寂しいな
『――未練があるではないか!!』
言わなきゃよかった。
『お前が恋した相手はリアンなのだろう?! お前はこの別れでいいのか?!』
仕方ないだろ、俺あんなことしたんだし。
『――なら、謝りなさい』
何で急に口調変わんの?
『謝りなさい、本人に、あんな遠回しな言い方でなく、ちゃんと話し合いなさい!! 一方的に会話を打ち切るんじゃありません!!』
いや、だから口調。
『……すまぬ、少し感情的になった。気にするな』
あ、そう。
あ――……待て、今までの発言的に――
俺まだ死んでないの?
『生と死のはざまにいる。正確に言えば、私が無理くり押し返してるからまだかろうじて死んでいない状態だ』
いや、止めろよ。
今すぐそれ止めろよ、死にたいから。
『断る。それにお前の生命維持必死にやってる者達にも失礼だ!! 私が押し返してなかったら生命維持の意味もない程お前の状態がアレで無意味な行為だがそれを踏みにじるのはできぬ。何より私がお前にはまだ死んでほしくない!!』
何だよこの「親」何なの。
俺の、自分の「子ども」ほったらかして置いて、やばくなり始めてから干渉し始めて、で死にたがってるのに願い叶えてくんないし。
『我が子の死を望む親などに私はなりたくはない!! 私は「子ども」らをどれだけ失ったと思っている?!』
知らね、というかどんだけアンタの「子ども」まぁ、血は繋がってないけど俺の兄弟?
一体何人派遣したの?
『……30』
ふーん年数考えるとそこまで多くはないな。
で、天寿全うしたのは?
『おらぬ、最初の一人は「祝福の子」として崇められていた――が、人の姿で年を取らず、性もお前のような性で、迫害されるようになり、私も何とかしようとしたが、追いつめられたその子を救うことはできず自死させてしまった。以降29の子らは皆赤子のうちに殺された』
へぇ、じゃあ俺が31人目か。
で、31人目の「棺」に入る、と。
『それはさせぬと言っている!』
いいじゃんか「子ども」なんていつか死ぬもんだろ?
『……本人が幸せな死に方なら問題はない、だがそうでない死に方は私はもう見たくないのだ。だから、お前には何が何でも生きてもらわねばならぬ、私の酷い我儘だとしても』
本当、ひっでぇ我儘だよ。
『……分かっている、だがお前がこのような死に方をしたら、私は確実にこの世界を破壊する』
だからさー、それをやめてくれよ。
『確かに大多数の「悪」の所為で、少数の「善」まで滅びるのはお前は咎めるだろう。だが、私を「信仰」している等とうそぶき、私の「加護」があるなどと騙る愚か者どものこれまでの行為に対し、私の我慢というものにも限度がある。その上お前が死んだら私はもう我慢できん』
あ゛ー……そう、まぁ神の言葉で言わなきゃ罰ねぇからなぁ其処の穴突かれた結果がこれだよなぁ。
『それは言うな。で、お前は良いのか? 未練を残して、終わっていいのか?』
繰り返される言葉「これで終わっていいのか」という問いかけ。
そんな答え、今の俺が分かるわけ、ないだろうさ……
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