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壊れた祝福者

綺麗じゃない自分、醜い自分

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 目を覚ますと、いつもの天井――ではなく、扉とかが目に入った。
 抱きしめられている感触がする。
 何とか顔を動かせば、リアンが俺を抱きしめて、髪を撫でていた。

 眠る前何があったか思い出そうとする。
 何か診察されて、そのあと急に眠くなって、そこから先が記憶がない。

 何かあった?

「――」
「……何もないよ、何も、ないとも、ニュクス」
 頬に口づけをされる。

 リアンから与えられる「愛情」に俺は応えることができない。
 体は動かない、何より「好き」とか「愛してる」と言えないのだ。
 まぁ「愛してるから殺して」とかなら言えるけど、普通の好意の言葉を吐き出すことができない。
 言ったところで、声になってないんだけどな、リアンにはなぜか聞こえてるみたいだけど。

 なんでだ?
 あー……おおかた……アイツが何かしてんだろ、きっと。

 それにしても、動けないのが辛い。
 動けるようになりたい。

「――」
「ダメだ、無理はしてはいけない」

 俺は動けるようになりたいんだけどなぁ……
 まぁ、リアンがそういうなら我慢するよ、それに抵抗しない「お人形」の方が抱いてて楽だろ?

「――」
 リアンの表情が酷く暗くなる、俺何かおかしなこといったかなぁ?
 リアン、少し力強くなった?
 おかしいなぁ、あの時は「痛い」とか「苦しい」とか「辛い」とか感じれたのに、今は感じない、なんでだろう?

 服を脱がされる。
 内側の紐で結んでいるだけの服だから、脱がせるのは簡単。

 ああ、やっぱりこういう事でしか「役」に立てないな、自分。
 嗤える。


 胸元にぬるりとしたのが這う感触がする。
 リアンの舌だと思う。
 手に体を撫でられる。

 リアン以外が肌を触っても殆ど感じないのに、リアンに触られると心地よくて、こういう時は気持ち良くなるんだろう?

 乳首を舐られる、口に含まれて、軽く噛まれる。
 ぴくっと体が動いてしまうけど、手を動かしてシーツを掴むのはできないし、やっぱり喉反らしたり頭動かす位しかできない。
 気持ち良くても、快感を感じても、自分がどんな声を出してるか分からないし、それに本とかで読んだ女達みたく、体を動かして反応することもできない。

 それがいいのかなぁ?
 ああ、俺がぶっ壊れてるの表面に出てた時も、動いてなかったしなぁ、あの時は何も感じないし、喘ぎ声も上げなかったけど。
 リアン、人形とかに興奮する趣味でもあるのかなぁ?

 あーでもどうなんだろ?

 子どもの俺に大人になったら結婚しようって言ってたから幼児に興奮する性癖ではないみたいだし。
 だよなぁ、俺大人だもん、性別どっちもつかずだけど。
 それとも俺みたいな性別どっちもつかずの奴に興奮する性癖なのかなぁ?


 なので、聞いてみた。
「――」
「……」
 リアンは愛撫行為を一旦止めて、顔を上げた。
 酷く複雑そうな顔をしていた。

 あれー?
 俺なんか的外れな事いった?

「……ニュクス、君がそう感じたなら謝罪しよう。私はそういう性癖は持っていない。持っている方には悪いが、私は人形に興奮しないし、両性具有だからという理由で興奮しているわけでもない」

 じゃあ、何に興奮するのさ?
 こんな体、普通興奮するの無理じゃね?
 病気みたいな状態の体に興奮するの?

「――」
「……ニュクス、それも否定しよう。私は君の体がそういう状態だから興奮している訳じゃない」

 何か、少し地雷踏んだ?
 声が怒ってる感じする。
 あ、そうだ、こうやればいいんだ、そうすれば俺の事嫌いだっていってくれるだろ。

 じゃあ、何に興奮してるの?
 今の俺、自分でもちらっと見たけどひっでぇ状態だよ?
 痩せてて、肌の色も悪くて、死人みたい。
 死体とかそういうのに近いと興奮するの?

「――」

 リアンは額を手で押さえて、必死に言葉を探してる。
 ほら、俺はリアンには相応しくない、見目だってそうだし、中身も薄汚い。
 身勝手だろ?

「……君にそう思わせてしまったならそれは私が悪い」
 いや、何でそうなるんだよ。
「――君には悪いが、君と出会う前に確かに他者と性的な行為をしたことはある。父があまりに私が性欲の欠片も出さないのを気にして色々な者と性的な行いはしたことはある」
 リアンの発言に、地味に傷ついてる自分がいた。
 よく分からない。
「……あの件があるまでは、子どもの君が大人になって会う時まではそういう行為はするまいと、君との約束以降は全て断ったが」
 あ、そうなんだ。
 まぁ、俺は性的な興奮とか全然ないままだったけどなぁ。

 そういや、なんで来なかったんだろう。
 精通も、女性が流す血の時期も。

「……あの件以来、他者との関わりがダメになった。君が、来るまで、だから壊れた私は我慢ができなくて、君を、傷つけてしまった、無理やり犯してしまった」

 ああ、そう言えば、そうだったなぁ。

 リアンが俺の唇を触れてから頬を触る。
「ニュクス。君、だから興奮した。醜くない、君はどんな状態でも綺麗だ。誰よりも美しい」

『綺麗だ』

 リアンのその言葉が、重い。
 違う、俺は綺麗なんかじゃないんだよ、全然綺麗じゃないんだよ。
 昔の子どもの俺への言葉なら良かった。
 今の俺は全然綺麗じゃない。
 悪意の汚泥に汚れて、汚れて、汚れて、醜くなって、汚くなった。
 全然綺麗なんかじゃない。
 リアンお願い、ちゃんと見て、俺は綺麗なんかじゃない、汚いんだよ、醜いんだよ。

 ドウシテ、ミテクレナイノ?

 吐き気が、した。
 顔を横にして、液体を吐いた。
 ツンと酸っぱいし、喉がひりつくのを感じた。

 苦しい。

 リアンの声がよく聞こえない。
 ねぇ、リアン。
 俺、汚いんだよ、醜いんだよ。

 ちゃんと、みて。
 そしたら、きらいに、なって、くれる、だろ?

 意識が遠のくのを感じた。

 次はいつ目をさますのかな?
 それとも一生目を覚まさないのかな?

 他人事のように思いながら、俺は目を閉じた。

 次目を覚ましたら、リアンが俺のこと、嫌いになってくれてますように。
 そう願いながら。





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