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勇者、視察に行く

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舗装されていない道を、ガラガラと馬車が西の街へと走り出す。
俺は外の景色を見ながら
「……で、なんでお前が此処に居るんだ?」
ご機嫌な顔で俺の前に座るシルヴァに声を掛けた。
昨日、あんな別れ方をしたから、帰るまで会えないんだろうと思っていた。
が、しかし。
何故か出発する時間にシルヴァが旅支度で現れ
「多朗の警護に着く事になった」
と、満面の笑みで言われた。
「お前……あんな別れ方しといて、恥ずかしくないのかよ!」
怒る俺に、シルヴァはサファイアの瞳をキラキラと輝かせて
「恥ずかしい? 何故? これは運命だよ」
と、のたまった。
(こいつの思考回路、どうなってるんだよ!)
イライラした気持ちでシルヴァを見ると
「多朗、誤解しないで欲しい。あの時は、僕が着いて行くなんて知らなかったんだ。あの後、父上に呼ばれて、多朗をお護りするように言われたんだよ」
そう言って俺の両手を握りしめた。
俺が目を据わらせて
「だったら、分かった時点で言いに来てくれても良かったんじゃないのか?」
と言うと
「だって、あんなロマンチックな別れ方をしたのに、又戻って『やっぱり着いて行く事になった』と言ったら、多朗が怒りそうで……。それにほら、当日知った方がサプライズ感が出るだろう?」
そう言って微笑む。
「でも、多朗を護る役目が僕で良かった。他の人が多朗と一緒に居て、多朗を護るなんて嫉妬で狂いそうになる所だったよ」
そう言うと、俺の手を取って指先にキスを落とした。
「これは誓いのキスだよ。僕が多朗を、この命に懸けて必ず護るから安心して」
キラキラした笑顔で、なんの躊躇いも無くそんな事を言うシルヴァの手から自分の手を引き抜きシルヴァの両頬を音を立てて挟んだ。
「シルヴァ、お前も生きて帰るんだよ! お前が命を懸けなくても、自分の身は自分で護る」
そう言い切った。
「多朗?」
「大丈夫だよ、俺はこう見えて運が良い」
口から出任せを言って、ニヤリと微笑んだ。
シルヴァは俺の手に自分の手を重ねて
「多朗……」
って、顔を近付けて来た。
「待て! 待て! 何をする気だ?」
「何って聞く時点で、多朗も分かっているくせに。昨日は答えてくれたじゃないか」
「昨日はあれだ! しばしの別れだと思ったから」
「多朗。シャイでツンでデレなのは分かったから、2人きりの時は素直になろう」
「待て!  言いたい事はたくさんあるが、そもそ2人きりじゃないだろうが!」
「大丈夫だよ! 彼等は壁と一緒だから」
「俺が嫌なんだよ!」
必死にシルヴァと攻防を繰り返していた時だった。
ガタン!っと馬車が大きく揺れ、急停車する。
バランスを崩してシルヴァが倒れ込み座席に二人で倒れ込んだ。
「お前!」
そう叫ぼうとした口を塞がれ
「シッ! 多朗、少し黙って」
真顔で言うと
「多朗は此処でジッとしてて」
と耳元で囁くと、剣に手を掛けてゆっくりとドアを開けて外の様子を見ている。
シルヴァの緊張感が伝わって来て、俺まで緊張していると
「シルヴァ王子!」
と叫ぶ子供達の声が聞こえた。
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