野花のような君へ

古紫汐桜

文字の大きさ
上 下
15 / 53

回り出す運命

しおりを挟む
彼が帰った後、あれで良かったんだろうか?と悩む。
ふと、以前、受付の人達が話していた会話を思い出す。
「高杉先生って見た感じはドSっぽいのに、基本優しいですよね」
田崎さんが呟くと
「あ~、顔立ちのせいですかね?」
カウンセラーの結城さんがカウンセリングシートをしまいながら答えた。
「私、思うに、高杉先生があんなにスーパーマンなのに恋人が居ないのは、絶対に勘違いされてるんだと思うんですよ」
「勘違い?」
「はい!高杉先生を好きになる人ってドMタイプだと思うので、近付いてみたら実は優しくてガッカリ?みたいな?」
「えーー?そうかしら?」
「心理カウンセラー的には、どう思います?」
2人の会話に、思わず診察室で聞き耳を立ててしまう。
「カウンセラー云々は抜きにして、高杉先生が可愛いワンコ系男子を従えてたら萌えるわね!」
結城さんの発言に、田崎さんが
「それ、最高じゃないですかー!あの口から『お前、これから僕の下僕ね!』とか言われたら、ワンコ系男子イチコロだよね~!」
と言って盛り上がっている。

ワンコ系?
下僕って……、いやいや失礼だろう!

診察室で突っ込みを入れる僕をよそに、2人の盛り上がりは凄かった。
その日、ネット検索をしてみる
『ワンコ系 』
を調べて見た。
『ワンコ系男子とは、犬のように爽やかな好青年のことを指します。 好きな人に対して好意を明確に出すのが特徴でしょう。 また、物事を隠すことが苦手なので、性格が分かりやすく、一緒にいて楽だなと感じられる男性です。 誠実で裏切らないというイメージが強いため、婚活をしている女性には人気が高いタイプになります』
と書いてある。
なに!人気があるだと!!
思わず考え込む。
(確かに、猫背にして自信なさげにオドオドしていなければ、顔立ちは綺麗だし身長だって180㎝超えなんだから、モテるに決まってる。うかうかしていると、取られる可能性もあるわけだ……)
診察室で考え込んだ。


★☆★★

「じゃあ、高杉先生。ランチ行って来ます」
   最近、近くの商店街にあるイケメン2人が営む喫茶店がランチを始めたらしく、何やら女性陣がウキウキしながらランチに行くようになった。
診療所の鍵を預け、僕は大抵仮眠している。
彼女達に声を掛けられ、僕も診察室で伸びをして診察室を出た。
鍵が掛かっているのを確認して、自宅に戻ろうとした時、慌てて出掛けたらしく、誰かの鞄が床に置きっぱなしになっていた。
足を引っ掛けてしまい、荷物を散らばらしてしまう。
『女性の鞄を!』って慌てて片付けた時、カウンセラーの杉山さんのカウンセラーシートが挟んであるバインダーが置いてあるカウンターに頭をしこたまぶつけた。
「痛っ!」
バサバサっと白紙のカウンセリングシートが落ちてしまい
(僕は何をしているんだろう?)
と拾いながら、『執愛~ドS王子とワンコ系男子の恋~』と書かれたカタログを拾う。
「何かのカタログかな?」
って中を見ると、苦学生の大学生とエリート会社員との男同士の恋愛漫画だった。
「ドSってこれか!」
思わずガン見してしまう。
出会いは苦学生のバイト先の喫茶店で、エリート会社員の書類に誤ってコーヒーを零してしまう。
慌てて謝る苦学生に、エリート会社のはニッコリ微笑み
「そうだな……じゃあ、お前今日から僕の下僕ね」
と答え、そこから接点が喫茶店だけだった2人に接点が生まれる。
我儘に振る舞う彼に振り回されながらも、健気なワンコ系男子が彼に尽くしてお互いの距離が近付いて行く。
(なるほど!恋愛とは、こうやって距離をつめるのか!)
と、真剣に読んでしまった。
すれ違う2人の思いが通じ合い、キスを交わして……次のページを捲ってひっくり返りそうになった。
思わず本を閉じ、もう一度そっと本を覗くと……やっぱりエッチなシーンが描いてある。
僕がそっと本を戻した時、杉山さんと目が合う。
「あ!ご、ごめん。鞄倒して、拾ったらファイル落としちゃって!」
オロオロする僕に、杉山さんは
「良いんです!最後まで言わないで下さい!他にもありますが、読みますか?」
と、鞄から薄い本を5冊位出して来た。
「全部、ドSワンコ系です!」
そう言われ
「あの……、出来れば……その……エッチな表現が無いやつが……」
と呟くと
「何を言ってるんですか!エッチ有りきですよ!禁忌を乗り越えた2人が、愛を確かめ合うんですから!」
って叫んだ。
「は……ぁ……」
呆然としていると、いつの間にか受付の田崎さんも僕の後ろに立って
「これ、私のお勧めです!杉山さんに貸す予定でしたが、先にどうぞ!」
と、手に10冊の薄いカタログのような本が置かれてしまう。

   この日から、2人は何故か僕に2人のお勧めの本を持ってくるようになった。
「あの……もう良いから……」
何度も断ってるのに
「どうでしたか!」
と目を輝かせて聞いてくるから、思わず感想を答えてしまいキリがない。
でも、エッチな表現さえ無ければ、中々の純愛だったり、切なかったりと面白かった。
恋愛スキルの無い僕にとって、いつしか恋愛のバイブルになっていた。

……まぁ、結果として、このドSワンコ系本を恋愛バイブルにしたもんだから、ややこしい事になるなんて、この時の僕には予想だにしなかった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

お兄ちゃんと内緒の時間!

BL / 連載中 24h.ポイント:433pt お気に入り:59

楽しい幼ちん園

BL / 連載中 24h.ポイント:582pt お気に入り:133

王子様に恋をした【完結】

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:285

どこまでも醜い私は、ある日黒髪の少年を手に入れた

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:461pt お気に入り:1,740

斎王君は亡命中

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:2

そこまで言うなら徹底的に叩き潰してあげようじゃないか!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,836pt お気に入り:46

性癖全開注意

BL / 連載中 24h.ポイント:241pt お気に入り:136

処理中です...