野花のような君へ

古紫汐桜

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新しい自分

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意を決して、僕は今、本妻達が暮らす高杉家の本邸前に居た。
逃げるように家を出てから初めて、悪夢のような日々を過ごした自宅に足を踏み入れた。
もちろん、隣には深沢弁護士を伴って。
「高杉の戸籍から抜きたい?」
歳を重ねた分だけ、プライドの高さが鼻につくようになっていた本妻と対峙した。
父も歳を重ねた分だけ、疲れていそうに見えた。
プライドと金の事しか頭に無い、寂しい人達との生活に疲れたんだろうな。
「本来でしたら、成人なさっておりますから報告義務など無いのですが、高杉創様から礼儀としてご報告したいとの事で伺いました」
深沢弁護士は淡々と説明すると
「男と結婚だなんて、認めませんよ!高杉家の恥晒し!」
そう吐き捨てられた。
僕がハッとして本妻の言葉に息を飲むと、深沢弁護士が僕を見てゆっくり微笑んでから
「恥晒し……ですか?では、あなたのご子息がなさった高杉創様への強姦、ストーカー行為は恥晒しでは無いと?」
そう言って、本妻の顔を静かに見つめた。
「あなたのご子息、お二人共素晴らしいですよね。叩けば叩く程、埃が出て来て。特に長男の秀一さんに関しましては、被害届が幾つも出ているようですしね」
深沢弁護士の言葉に、本妻が顔を赤らめて立ち上がり
「弁護士の癖に、脅迫なさるの!」
と叫んだ。
僕も知らない話で、驚いて深沢弁護士の顔を見ると
「脅迫?私は事実を話した迄ですよ。次男は医療過誤で裁判中。素晴らしいご子息ですよね」
淡々と話す深沢弁護士の言葉で、此処に2人が居ない理由に合点が行った。
怒り心頭の顔をする本妻に
「もうその辺にしてやってくれませんか?」
と、父さんが深沢弁護士に声を掛けた。
そして僕の方を見て
「創……、随分と穏やかな顔をしているな。安心したよ」
そう言うと
「高杉の家から籍を抜くのは構わないよ。あの家も、創が好きなようにすれば良い。ただ、一つだけ身勝手なのは承知でお願いがあります。秀一と勝の裁判が終わるまでは、高杉の籍に身を置いて欲しい」
そう言って、父さんが頭を深々と下げた。
「今、うちの病院は危機的状況なんだ。それでお前まで同性婚をした……なんて噂が広まったら、もう、全てを失ってしまう」
と言われた。
深沢弁護士が怒った顔をしたけれど、僕は深沢弁護士を止めて
「分かりました。兄さん達の裁判が終わり、ほとぼり冷めるまでは籍を抜きません。その代わり、二度と僕と……いえ、僕達家族には関わらないで下さい」
そう父さんに告げた。
「では、用件は以上なので」
と席を立った時だった。
「創!帰って来てくれたのか?」
あんなに慇懃無礼だった勝兄さんが、やつれた顔をして僕に走り寄ってきた。
その瞬間、深沢弁護士が僕の前に立ちはだかり
「それ以上は近付かないで下さい。警察を呼びますよ!」
そう言って勝兄さんを制止した。
「創!帰って来てくれたんだよな?俺の気持ちを分かってくれたんだよな?」
必死に縋ろうとする勝兄さんが哀れだった。
僕はなんで、こんな人に怯えていたんだろう?
真っ直ぐに勝兄さんを見つめて
「勝兄さん、今日はお別れを言いに来ました」
そう言うと、勝兄さんは呆然とした顔をして
「お別れ?」
と呟いた。
「はい。僕は、愛する人と結婚する事にしたんです。なので、高杉家の籍から抜きます」
「お前……何言って……」
力無く笑う兄さんが、ハッとした顔をして
「あいつか!いつもお前に会いに行くと、邪魔ばかりして来たあのデカい男か!」
そう叫んだ。
「結局、お前は男に抱かれたいだけだろう!お前に抱かれる悦びを教えたのは誰だ?俺だろう?だったら俺と」
「黙りなさい!それ以上、創さんを侮辱する言葉を吐くようでしたら、侮辱罪で訴えますよ!」
深沢弁護士が、怒って兄さんの言葉を遮った。
僕は認めないという顔をする兄さんを真っ直ぐに見つめ
「勝兄さん。誰が嫁に行くと言いましたか?僕は婿養子に入るんです。兄さん達の身勝手な抱き方を知っているから、僕は僕の大切な人を傷付けるような抱き方はしませんでした。まぁ、そこだけは感謝しておきますよ」
そう伝えて、リビングを後にしようとした時
「男同士でなんて、穢らわしい」
吐き捨てるように呟いた本妻の言葉が聞こえた。
深沢弁護士が口を開き掛けたのを止めて、僕達は高杉家の本邸を後にした。

……散々、兄さん達に僕を抱くように仕向けたのに、どの口が「穢らわしい」なんて言うのだろうと思うと、思わず苦笑いを浮かべてしまった。
「大丈夫ですか?」
心配そうに僕を見る深沢弁護士に微笑むと
「大丈夫です。嫌な場所に付き合わせてすみませんでした」
そう言うと、深沢弁護士は頭をかきながら
「噂以上で驚きました」
とだけ答えて苦笑いを浮かべていた。
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