透き通るほど青い人々よ

國灯闇一

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Q8話 間違っているかもしれないけど、想いを言葉にしてみるよ

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 考査期間ともなれば、自習室は勉学にいそしむ学生が多くなる。
 図書室も例外じゃない。賑やかにワイワイと勉強する自習室と静かに黙々と勉強する図書室では、自習のおもむきが異なる。どちらにせよ、3人がまとまって座れるかは怪しかった。
 
 今回は駅前のファミレスで勉強することにした。店に入って早々、奏絵はデザートを注文した。
「おい」
「なに?」
 僕は注文確認の画面を見せる。
「いいじゃん。ちょっち小腹が空いたの」
 奏絵は口をすぼめてかわいこぶった。
 
「亮士君、空腹は勉強の天敵だよ!」
 中宮が力説する。
「ってことで、私も頼みます!」
「だよね! 凪子もわかってんじゃーん」
 中宮は僕から注文タブレットを奪い取り、自分の注文を入れていく。
「ちゃんと勉強もするんだろうな」
 奏絵は不満そうに唇をゆがめる。
 
「そうやってすぐ人を疑うの、よくないと思いまーす。てか、羨ましいなら亮士君も注文すればいいじゃん」
「僕はお腹減ってないからいいよ」
「じゃあ、私の半分あげるよ」
 僕は中宮に困惑する。
「中宮、僕の話聞いてた?」
 中宮はぽかんとした表情を浮かべる。
 いや、ん? じゃなくて。
「優しいねぇ凪子」
「亮士君には勉強見てもらってるから。そういえば、お礼してないなって思って……。あぁ……らなかった、かな?」
 僕は思わず苦笑する。
「そういうことなら、いただくよ」
 中宮はすごく嬉しそうに笑った。
「うん! みんなで食べた方がきっと美味しいから」

 デザートを食べた後、期末考査の勉強に取りかかった。僕たちはしばらく教材に向き合っていたが、次第に奏絵と中宮が問題を出し合いながら勉強するようになった。
 興味深かったのは、わりかし奏絵が正解を叩き出していたことだ。ヤバいと言っていたわりにはちゃんとやってるんだなと感心した。
 すると、ふたりを見ていたのが『僕も加わりたい』という意思だと勘違いされてしまい、半ば強制的にクイズ大会に参加させられた。
 
 そうしているうちに時間はあっという間に過ぎていった。中宮は携帯を見るなり、「ごめん。今日ちょっと用事があるから」と言い、お代だけ残して先に店を出てしまった。どうするかとふたりで見合い、その場の流れでファミレスを出た。

 奏絵と電車に乗り、降りる先も一緒だった。
 お互いに何を話すわけでもなかったが、一緒に並んで歩いていた。
「亮士君と最寄り駅が一緒だなんて知らなかったよ」
「ほんとな」
 ようやく交わした言葉がそれだった。
 今日は体の芯まで冷える。手袋をつけないと指先が凍りそうだった。ポケットに手を入れて寒さをしのぐ。通い慣れた道は個人の飲食店やスーパーなどが並んでいる。人通りも多く、帰宅する車が行き交っていた。
「亮士君、ありがとね」
「何が?」
「凪子の勉強、見てくれて」
「ああ、別にいいよ。中宮、物覚え良いからそんなに大変じゃなかったし」
「へえ」
 奏絵はニヤニヤしている。
 
「なんだよ」
「亮士君ってそういうとこあるんだ。意外」
「どういう意味だよ」
「さあね」
 僕は冷たい空気を少し吸った。こんなことを言うのは差し出がましいと重々承知していた。けど、想いは伝えておきたかった。
「聞いたよ。部活、行ってないんだって?」
 一瞬、奏絵の表情が曇った。すぐに微笑が零れた。
「凪子のヤツ、口軽いなぁ……」
「辞めるのか?」
 お店の明かりは奏絵の作り笑いをよく照らしてくれる。奏絵は開いているかどうかもわからないお店に視線を移し、間を空けて答えた。
「どうだろうね」
「――――あの時、リレーのメンバーに入れなかったって、なんで奏絵が泣いているのかわからなかった。ちょっと調子が悪いだけだし、ただの学生の部活だって、そう思ってた」
 僕はミネルヴァと話して明瞭になった気持ちを言葉にしていく。
 
「僕はこれを頑張ってきたって人に言えるものがないんだ。何かを大切にしてきたって誇れるものもない。だからきっと、僕は奏絵と同じ境遇にいたとしても、仕方ないって諦めると思う。そういうもんだからって。悔しくて泣いたりできないだろうなって」
 白い息が雑踏に溶ける。
「正直、羨ましかった……。僕が言うことじゃないのはわかってる。でも言わせてほしい。奏絵には諦めてほしくない」
 
 僕らは道端で立ち止まった。奏絵の瞳は街灯に照らされ、輝きを灯している。動揺が色濃く、鮮明に表れていた。
 奏絵の表情が辛そうにゆがんだ。顔をうつむかせ、震えた声で絞り出した。
「ほんとさ、そういうのやめて……。ミネルヴァはわかってるんだよ。あたしには水泳の素質なんてなかった。ミネルヴァは結果を修正したんだよ。悩んで考えて、全部飲み込んで、決めたの。横から入ってきて、勝手なこと言わないで」
「……ごめん」
 奏絵は唇を噛んで、走り出した。
 僕は、遠ざかる奏絵の後ろ姿を目で追うことしかできなかった。ひとりになった僕は「ミネルヴァ、音声ファイル作成。テキストファイルkanae分析結果を読み上げ」と携帯に告げた。
 
 マイクイヤホンをつけ、ひとりで帰り道を歩く。
 ポケットに手を突っ込み、携帯を握りしめる。マイクイヤホンから 奇妙なノイズが入り、クリアな女性の声が「テキストファイルkanae分析結果の読み上げ音声を生成。音声を再生します」と告げる。
 
「奏絵夕華の水泳選手としての素質を過去の成績と映像、性格、思考・行動傾向から分析。奏絵夕華は8歳8ヶ月から水泳を始め、10歳2ヶ月の時、小学4年女子の部25メートル個人自由形で県優勝。12歳5ヶ月、全国中学大会女子100メートル平泳ぎで7位入賞。しかし、ここ数ヶ月のタイムは、1年前より平均10秒落ちています。ひたむきに練習し、誠実に取り組む姿勢から、もっとタイムが伸びる可能性があります。現在のタイムの落ち込みは複合的要因が重なっている可能性が高いです。ひとつひとつ可能性を挙げ、仮説にもとづいて対処することがよいでしょう。よって、タイムが落ちているのは一時的であり、今後の取り組みによって解決すると推論できます」
 
「マイクセット、録音開始」
「マイクオン、録音を開始します」
 僕は人通りが少なくなった路地を歩きながら、奏絵が近くにいるように語りかけた。
「こんなことされても困るだろうけど、僕にできることをしたかった。もう1つ、困らせちゃうけど、僕さ、ミネルヴァの適性検査で『適性なし』って診断されたんだ。ミネルヴァの適性検査は高校でもあるけど、中学で出た検査結果が高校で変わるケースは稀だ。たぶん、僕も例に漏れないと思う。なんで僕がって思ったよ。自分で言うのもなんだけどさ、成績も良いし、真面目に勉強してきたのに、こんなのおかしいって、納得いかなかったよ」
 僕は自虐している自分に笑ってしまう。
 
「でも、奏絵がスランプで落ち込んで泣いているの見てさ、僕にはこういう感情ないなって、気づいたんだ。もしかしたら、そういうのも検査で『適性なし』になった理由なんじゃないかって思うようになった。……ミネルヴァの判定はおおむね正しいけど、ミネルヴァはすべてを教えてくれるわけじゃない。まだチャンスはあると思うんだ。それだけ伝えたかった。じゃあ、また学校で」
 僕はポケットの携帯を取り出し、録音を停止した。
 
「録音を終了しました」
「先の録音した音声を編集。テキストファイルkanae分析結果の読み上げ音声の後に繋げて」
「テキストファイルkanae分析結果の読み上げ音声の後ろに、2070年2月26日水曜日18時25分録音ファイルを繋げます」
「編集完了後、Hellotalkチャット欄kanaeに共有シェア
「編集完了後、Hellotalkチャット欄kanaeに共有します」
「ありがとう、ミネルヴァ」
「……仲直りできると良いですね」
「……そうだな」
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