透き通るほど青い人々よ

國灯闇一

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Q11話 急変

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 翌日、ゴールデンウィークが近いこともあり、ところどころでゴールデンウィークの予定を思案する会話が聞こえてくる。そういった話を聞いてしまうと、授業中にもかかわらず、自分はどうしようかと考えてしまう。僕の頭には自然と中宮、洸大、奏絵の姿が浮かんでいた。
 
 すると、静かな教室に激しい物音が響いた。教材から顔を上げて左に向くと、中宮が倒れていた。奏絵は倒れた中宮に駆け寄り、呼びかけている。椅子から落ちたらしい。中宮は先生に声をかけられてもまったく動かなかった。
 倒れたせいでスカートも乱れている。スカートから伸びる太もものところに痣らしき跡が見えた。保健係の生徒が中宮を背負い、教室を出ていった。

 昼休憩となり、保健室に向かった。
「失礼します」
 保健室のドアを開けて中に入る。ドアに背を向けて座っていた養護教諭は、ブラウニーのような髪色の長髪美人だった。20代前半にも見えるほど若々しいが、30代後半と言われても納得できる色っぽさがあった。
「いらっしゃい。何か用?」
「中宮さんの様子を見に来ました……」
 緊張して喉が掠れてしまった。
 
「ああ。その子なら一番左のベッドよ」
「ありがとうございます」
 僕はクリーム色のカーテンが閉められたベッドに近づく。
「中宮、大丈夫か?」
 僕はカーテン越しに声をかける。返事がなかったのでカーテンを少し開け、近くに寄っていく。中宮は布団で顔を覆うように寝ていた。
 出直そうと思った時、サイドテーブルに目が行った。そこには少し水の入ったグラスと薬があった。白い小さな紙袋もある。薬を入れていた袋だろう。
 どこの病院だ?
 少なくとも僕の記憶の中にはなかった。

「寝ているようなので、これで失礼します」
「あら、もう行くの? 彼氏さんも大変ね」
「いや、僕らはそういうんじゃないですから」
「あら、そうなの?」
 先生はがっかりした様子で眉尻を下げる。
「友達ですよ」
「でも、わざわざ様子を見に来るなんてポイント高いぞ」
 いにしえの茶化し方をする先生にげんなりする。
 この人、本当にわかってるのか……?
「普通の貧血じゃないから、ちゃんと支えてあげるんだぞ」
 先生の言い方に疑問を持ちながら保健室を後にした。
 
 放課後、洸大と改めて向かったが、中宮はすでに帰っていた。


 翌日、中宮は学校を休んだ。明日には来るだろうと思ったが、その次の日、そのまた次の日も、中宮は学校に来なかった。

 チャットに連絡を入れてみたが、返信はなかった。夕食を終えてまったりとしていた。風呂も入り、明日の準備も万端だ。後はマンション横のコインランドリーに服を取りに行くだけだ。
 その間、メタバースゲーム内のギルド仲間と一緒にダンジョン攻略を試みていた。久しぶりのログインだったにもかかわらず、歓迎してくれるゆるいギルドだった。
 ギルドにはメタバースのアイテム入手依頼を引き受けていたり、公式イベントからの誘いなどを受けてお金を稼ぐ人たちもいて、めちゃくちゃ強い人もいる。
 
 僕のようなほぼ初心者が探索できないエリアも冒険できてしまう。このゲームは、他のプレイヤーと協力した方がダンジョンを早く進められるので、さっさとギルドに入るのがメジャーな攻略法らしい。プレイヤー間のアイテム交換もできるし、ゲーム内通貨によるビジネスも可能だ。
 たまにログインしては時間のある時に帝都《ていと》を散策し、たまにダンジョンを攻略して、レベルを上げたりするスローライフを送っている。久しぶりだったこともあり、操作に苦戦したが、仲間の協力もあって見事ダンジョンクリアに成功した。
 ダンジョン攻略の貢献度に合わせて獲得ポイントが振り分けられ、僕らはほんのひと時を楽しんで解散した。
 
 ゴーグルダイヴを頭から外し、片手コントローラーと一緒に膝丈の長机に置いた。
 僕は勉強机に置いていた携帯を取る。まだコインランドリーからの通知は来ていない。確か終了時間まであと15分くらいかかったはずだ。僕は開始時間を思い出しながら、かかる時間を計算した。
 携帯でネットサーフィンをするも、興味そそられる情報はない。SNSも相変わらずだった。携帯から視線を外し、ソファから起き上がる。ちょっと早いけど、コインランドリーに向かった。

 コインランドリーのスポンジソファに腰かけ、強めの消臭剤の匂いに鼻をつまむ。僕の洗濯物が入った乾燥機は『9』を赤く灯している。
 携帯を触っていれば、あっという間に時間が経つだろう。携帯の画面に視線を下ろし、ミネルヴァワークスを開いた。ミネルヴァワークスはAGIミネルヴァの機能を利用したアプリやサービスをまとめたポータルサイトだ。
 
 ミネルヴァを製作した会社が運営しているサイトなので信頼されている。多方面に応用できるミネルヴァには相性診断なんて造作もない。普段利用しないが、人は暇になるとろくなことをしないとか。
 僕は僕と中宮凪子の名前を入力窓に記入し、診断を開始した。結果は数秒で出た。相性は35パーセント。まあまあ低いらしい。僕は思わず自嘲じちょうした。
 何やってんだろな、僕は。


        Z


 翌日、その日も中宮は来ていなかった。
 授業の合間、奏絵に尋ねてみる。
「奏絵」
「どうしたの?」
「中宮のことなんだけど……」
「あー、今日も休みだね」
「しばらく、来ないのか?」
 奏絵は少し考えた後、
「どうだろう。こればかりはわかんないな」
 と、眉尻を下げて苦笑した。
 
「中宮って前は体調が悪くて全然登校できてなかったんだよな? なんの病気なんだ?」
 奏絵は表情を曇らせた。
「そっか。凪子から聞いてないんだ。それなら、あたしの口からは言えないな」
 奏絵は微笑んだ。
「凪子から直接聞きなよ」
 ドアから先生が入ってくると同時にチャイムが鳴った。
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