透き通るほど青い人々よ

國灯闇一

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Q14話 優等生になれない僕らの答え

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 あれから数日後、久しぶりに勉強会が開かれる。
 今更だが、なぜ僕らは一緒に自習室に行かないんだろうか。同じクラスなんだから一緒に行けばいいじゃないか。
 はたから見れば、僕らの行動は不自然なのかもしれない。別々に行く決まりを作っているわけでもない。
 ざっくり言うなら、なんとなく、という要領を得ない回答になってしまう。中宮がどう考えて、僕と一緒に自習室へ行かないかはわからないが、たぶん答えは同じだろう。僕と中宮が付き合ってるなんていう噂が立ちかねないからだ。
 
 僕らが一緒に勉強をしてる事情を知れば、誤解は解けるかもしれないが、理由なんてどうとでもこじつけられる。
 奏絵の仲介があって一緒に勉強しただけ。それは僕と中宮が付き合っていないという明確な根拠にはならない。『最初はそうだった』ってことでしょ? と言われたらお手上げだ。そういう余計な詮索せんさくから逃れるため、別々に自習室へ行っているのだろう。
 
 自習室のドアを開くと、静まった教室に、ぽつんと中宮が座っていた。携帯から外した視線が僕を捉えた。僕は中学受験の面接の時のような感覚におちいった。あの独特な緊張感が自習室に充満していた。
 なんとなくだが、こんな空気になることは予想できた。ここは気にしたら負けだと思い、平静を装って「遅くなってごめん」と声をかけた。
 中宮はアッシュグレーの髪を触り、「大丈夫」と小さく言った。僕は中宮の隣に座り、勉強の準備をする。
 もしかしたら来ないかもしれないと思っていたが、自習室に中宮の姿があってホッとした。会うのは気まずかったが、あんなことがあっても以前と同じように自習していることが嬉しかった。
 
「中宮?」
「な、なに?」
「二次方程式にはもう入った?」
「うん、入った」
「マイナスが入ってきたり、平方根が入ってきたり、難しいよな……」
 中宮は頷く。
「それで小テストが散々だった……」
「まあ、次頑張ればいいさ」
 以前と変わらず、たまに話しつつ、自習する。何も変わっていないはずなのに、ぎこちなさが拭えない。
 
 ノートの上を走るシャーペンの音。時計の針の音が静寂に響く。目の端で中宮の様子をうかがう。
 集中できない。いや、何緊張してんだ。誘うだけだろ。
 僕は中宮に聞こえないように深呼吸する。意を決し、中宮に声をかける。
「中宮」
「は、はいっ」
 中宮は大げさに驚く。そんなに大きな声を出していないはずなんだが……。そんなことより、今は目的を果たそう。
 
「あのさ、ゴールデンウィークなんだけど、どっか行かないか? 奏絵と洸大も誘って」
 中宮はちょっと戸惑っているみたいだった。
「どう、かな?」
 僕がそう問いかけると、中宮は少し迷った後、僕から視線を逸らした。
「……うん」
「じゃあ、また連絡するよ」
「わかった」
 僕は心の中でガッツポーズをした。
 机に広げた英語の課題に向き直る。友人を誘っただけだが、さっきとは異なり、心が躍り出しそうだった。
 こんな気持ちになったのはいつぶりだろうか。みんなと遊びに行く日が待ち遠しいだなんて、本当に久しぶりだ。安堵を押しのけてやってきた期待と楽しみが蕾のように膨らんでいた。

 しばらくして勉強会を終えた。車窓から差し込む茜色の光が、おもむき深い色彩で今日という日のエンドロールを飾っている。
 僕は電車に揺られ、窓の景色と携帯を交互に見ていた。
 最初は洸大と奏絵に同じ文面でゴールデンウィークにどこかで出かけないかとの文面を送っていた。
 
 話が進んでいくと、それならグループチャットにしようと奏絵から提案があり、途中からグループチャットで話していた。
『で? どこに行くんだ?』
『まだ決めてない』
『マジかよ』
『みんなと話しながら決めようと思って』
『お花見がいい』
 花見かぁ。
 そういえば、花見したことないな。
『花見か! いいな!』
 どうやら洸大も賛成らしい。
 
『んじゃ弁当楽しみにしてるぞ >奏絵』
『コンビニ弁当でいい? 料金は2割増しね♡』
『そう来たか……』
『適当にどっかで買うか』
『僕が作ろうか?』
『え、お前料理できんの?』
『いや、大したものは作れないからな?』
『4人分任せていいの?』
『ああ、簡単なものでいいなら』
『男の手作りか。そそらないな……』
『お前はいらないんだな?』
『いります! いるに決まってるじゃないっすか、亮士さんったらお茶目なんだから~』
『それじゃ、当日のご飯はよろしくね』
『ひとり350円な』
『りょい』
 

 自宅マンションに戻り、真っ先にシャワーを浴びる。部屋着に着替え、ベッドに腰かける。今日はどっと疲れた。慣れないことをしたせいかもしれない。心配事もあるせいで、気が張っているのだろう。
 友人は死にたいと言った。
 友達なら、止めるべきなんだろうな。
 ミネルヴァにも相談した。予想通りの解答だった。模範解答だ。僕より優秀なミネルヴァなら、自殺はいけないことだと理路整然と説いてくれる。だけど、素直に止められない自分がいた。僕にもあるからだ。どうしようもなく、もどかしかったことが。
 
 苦しいのに、何もできなくて。現実に心が追いつかなかった。何もかも終わりにしたくなった。こんなのおかしいって、やり場のない憤りと止めどない悲しみに心が壊れてしまいそうだった。
 死ぬのは悪いことだと、小さい頃から教えられる。それが道徳ってヤツなのかもしれない。でも、死ぬなと言われて、死にたい気持ちが消えるわけじゃない。
 どうしようもなく死にたいって気持ちは、心の底に根を張っているものだ。たとえ一時的に消えたとしても、またふとした時に死にたい気持ちがあふれてくる。
 
 中宮には死んでほしくない。それだけは変わらない。ただ、死にたいって気持ちは簡単に消えないものだと、僕はよく知ってる。
 消えないかもしれない。だけど、生きたいで上塗りできるものさえあれば、悲しみも過去にできるかもしれない。中宮には生きたいと心から思える力と旗がいるんだ。
 今度は、必ず叶えてみせる。
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