透き通るほど青い人々よ

國灯闇一

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Q30話 君に問う

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 わずか1分の出来事だった。
 出来上がったステージは思ったよりも質素だった。
 この部屋――――つまりスタジオに入った時のことになるが、殺風景な群青になっていた。違うところと言えば、前方に校長先生なんかが話す時にある演台みたいなものとモニターくらいか。
 柵が下りたので、ひとまず演台に近づいた。
 すると、モニターがカラフルなテキストを表記した。

『プレイヤーの皆さんは演台の前についてください』
 僕は指示に従う。前のモニターが次のテキストを表示する。
『ファイナルステージを脱出するには、皆さんの回答を一致させなければなりません』
「は?」
 思わず声が漏れてしまった。
『クイズを出します。4人の回答が一致するまで、ここから脱出することはできません』
 やけに時間がかかっているチームがちょいちょいいたのはこれか。
 このパターンはまったく想定していなかった。
 てっきり先ほどのように謎を解いて脱出するものだと。
 ここを脱出できるかは、どんな問題が出てくるかにかかっている。
 完全に博打だ。
 
『では問題です』
 演台に書き込める画面がある。
 指で画面に書き込めばいいようだ。

『修学旅行先と言えば、どこでしょう?』

 正解させる気なさすぎだろ。
 昔は奈良とか京都とかが定番だったらしいが、今は学校ごとにバラバラだ。
 いや、待てよ。
 チャンスじゃないか?
 そうだ。
 僕らは同じ学校の生徒、しかも中高一貫だ。
 この強みは間違いなく活きる!
「皆さん! 中学の修学旅行先でいきましょう!」
 僕はそう声をかけた。
 だが、応答がない。
「先輩? 洸大?」
 入力画面の上にテキストが表記される。

『注:このステージに限り、プレイヤーおよびサブメンバーとの通信をシャットアウトします』
 対策されていた。
 いや、大丈夫だ。
 みんな栄美中学を経ている。
『それでは、回答をオープンします』
 北海道。みんなそう回答する。
 そう思っていた。

 北海道がひとり、台北タイペイがふたり。
 台北タイペイ
 どこからそんな……。
 グラスの中で氷がぶつかるような音が頭に響く。
 そうか――――。
 栄美高校の修学旅行。忘れていた。
 おととしから栄美高校の修学旅行が再開されたんだ。
 
 栄美中学では国内、栄美高校では海外に行くことが恒例になっていた。
 しかし、予定していた渡航先の情勢が不安定だったり、飛行機事故が相次いでいたこともあり、保護者から懸念が上がって度々中止になることがあった。
 そういったことは珍しくなく、生徒も海外旅行に行きたいと嘆く生徒もいなかった。みんなで行く修学旅行より、気の合う仲間と行く旅行の方がいいと、断言する生徒も少なくないとか。
 モニターが次の問題に移ろうとしている。
 
『現代のバーチャルシンガーと言えば、誰でしょう?』

 一番有名な人を書けばいいのだろうが、何をもって一番なのだろうか?
 収益? エンゲージメント率?
 ダウンロード数?
 とりあえず、僕が知っている有名なバーチャルシンガーを書くことにした。
『それでは回答をオープンします』
 予想通り、バラついた回答が並んだ。
 
 ある程度絞り込めるだろうが、どのプラットフォームをよく視聴しているかで印象が変わってしまう。また、当たり前のように個人に合わせてパーソナライズされていくため、視聴習慣も異なる。
 これでは無限地獄におちいってしまう。
 タイムカウンターが淡々と刻まれていくごとに焦りを覚える。
 
 次々に問題が出されるが、どれも複数の選択肢があるようなものが多く、絞り込むのに苦労してしまう。
 最大3人の回答を合わせることができた。4問目で出せたが、以降はふたりばかり。
 僕らプレイヤーからコントロールする術はなく、歯がゆさを抱えながら8問目に入った。

『過去、現在、未来。あなたが大切だと思うのはどれ?』

 3択問題。これはチャンスだ。
 これで正解できるかどうか。
 上位3チームに入るには、ここで一致させなければきっと終わる。
 さっさと回答して次に行くという手もあるが、どんな問題が出てくるかわからないなら、安易に期待できない。このチャンスを手にできなきゃダメだ。
 落ち着け。
 僕は焦る自分に言い聞かせる。
 大して動いてもないのに、頬を伝う汗が画面に落ちる。
 3択が入れ替わり立ち替わり、僕の頭をめぐる。
 かすかに痩せこけた中宮の顔が浮かんだ。

 3人の答えが一致するのは、過去、現在、未来のどれだ。
 一致させることができる答え……。
 僕らの共通していること。
 同じ高校……。
 そうだ。
 たぶん、これだ。
 先ほどまで混迷した思考が嘘のようにクリアになり、確信めいた感覚のまま手を動かした。
 単なる勘じゃない。
 息を合わせるように導かれた答え。
 僕らにしかわからない合言葉を示し合わせる。
 僕は祈るような気持ちで前のモニターに視線を向ける。
 
『回答をオープンします』
 4分割された画面がそれぞれの回答を表示した。
 クイズ番組なんかで聞きそうな効果音と共に表示された答え。
 それぞれの手癖が出ている文字の形。崩れた文字ではあるが、間違いなく同じ意味を持つ『現在』という言葉だった。
 栄美中学・高校の校長が入学式など生徒の前に立つたび、口にする言葉があった。
現在いまをどう大事に生きるのかを考えろ。それが未来を作る』
 大げさな紙吹雪の演出が画面に躍り、祝福の音がマイクイヤホンから流れてきた。
 
『一致成功です。見事、脱出に成功しました。おめでとうございます』
 光柱が全身を覆い隠す。眩しさに目を細めるも、わずか2秒ほどだった。
『以上でゲームプログラムを終了します。お疲れ様でした』
 機械音声がそう告げた後、XR表示が消える。
 タイムカウンターが記録した時間は17分35秒。
 なんとか目標は達成できた。
 あとは結果を待つだけだ。
 僕はマイクイヤホンを外し、XR室から出た。
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