透き通るほど青い人々よ

國灯闇一

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Q34話 油断すると体調崩しそうな暑さは秋口まで続くもの

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 油断ならない残暑が連日連夜続いている。
 エアコンの効いた教室だったとしても、水分補給は欠かせない。
 机の横にかけられた鞄や机の上には、ペットボトルが見えている。
 それでも体調を崩す生徒が後を絶たない。
 成長期における体の変化やミネルヴァの移植による副作用など複合的要因が絡んでいるので、一概に暑さのせいとも言えない悩ましいところがあるのだろう。そこはうまく付き合っていくほかない。
 
 それは先生も同じで、総合ビジネスの担当教員が体調不良のため、代役の先生が授業を受け持っている。なので、どう出てくる先生なのかわからないせいか、今日に限っては内職をする生徒が少ないみたいだ。
 急ぐこともないのに、午前に言い渡された宿題をする生徒もいる。宿題は時間をむしばむ害敵とみなされる場合があるようだ。ミネルヴァがいればそう時間はかからないと思うのだが、ここは生徒間でギャップがあるらしい。
 そう思っているが、僕は先生の目を盗んで内職に勤しんでいる真っ最中だった。
 それぞれ内職の内容は異なる。僕の場合、動画制作になる。
 
 学校が敷いている回線では難しいので、個人で契約している回線に変えて編集作業を行うしかない。その合間、暇を持て余している中宮とチャットもしていた。
 もし次の検査で大きな問題がなければ、自宅療養ができるみたいだ。
 久しぶりに自宅で過ごせると喜びを爆発させていた。
 少しずつ体力も回復しているみたいだ。
 このままいけば、また学校に通えるかもしれないが、ぶり返す恐れもある。
 根本的解決にはなっていない以上、楽観はできない。


 本日の授業を終えて、放課後は大方体育祭の準備に追われる者、部活に出る者に分かれるが、僕はそのどちらでもなかった。栄美高校から離れて近くの中学校に向かう。
 好奇心を巡らせる視線を抜け出して、慈善活動部に部室にあたる教室のドアをノックする。
「どうぞー」
 間延びした声は特徴的で、誰のものかすぐにわかった。
 ドアを開けると、頭に浮かんだ顔が微笑みを向けてきた。
「平井先輩。ごきげんよう」
 
 愛崎唯月が執務席から挨拶する。
 愛崎さんが歓迎の表情で席を立ち、迎えてくれる。促されるまま、女生徒の視線を横切り、執務席へ向かう。すると、愛崎さんが首をかしげた。
「あら、募金の回収は先週あったばかりだったような……」
「今日は違うんだ」
 僕は手に持っていた手提げの紙袋を差し出した。
「これ、慈善活動部のみんなで分けてくれ。日頃の感謝で」
「まあ! もらっていいんですの!?」
「ああ」
「ありがとうございます! あとでいただきます」
 愛崎さんは紙袋を両手で受け取った。
 
「中宮さんの体調はいかがでしょうか?」
「今のところ、調子はマシってところらしい」
「そうですか」
 愛崎さんが眉尻を下げて笑みを向ける。
「脱出ゲーム、残念でしたわね」
「競合が一枚上手だったよ。また、何か良い案があれば遠慮なく教えてほしい」
「はい。すぐに連絡を差し上げますね」


 遠くの空がわずかに赤みがかった色をしている。
 空に広がるうろこ雲を仰いで、帰り道を歩いていく。
 空を震わせるような唸り声が聞こえてくるが、飛行機らしき機体は確認できない。
 一口分しかなかったビタミン水を飲む。生温かい酸味が喉に降りてくる。
 これから帰ってシャワー、ご飯、皿洗い、宿題、洗濯物の処理、朝ご飯の用意、動画制作は……できたらやるか。タスクを整理しながら携帯を取り出そうとした時だった。
 
 携帯が身震いした。触るのと同時だったので思わず手を引っ込めたが、ただの偶然と理解し、ポケットから取り出した。通知は動画アプリだった。どうやら何十件と来ている。今日一日でこんなに?
 たまにこういうことはあったが、今日はまだ投稿していない。
 タイミング的におかしい。
 また通知。
 数が3桁を超えた。
 じんわりと浮き出た汗が頸動脈に沿って流れていく。
 これは喜ばしいことだ。でも、なぜだろう。
 加速度的に増えていく通知の数を見て、喜べない自分がそこにいた。
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