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Ⅲ章――――夢に溺れ、騒がしい海に沈む
14 夏休みといえばアレだ
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ライセンスを手にしたことで、俺の海美活動は範囲が広がった。
海美の中でもライセンスを取っている人は少ないようだ。夏は特に観光客が多いこともあって、海にゴミがよく浮いているらしい。その分、海底にもゴミが溜まっているそうだ。
そこで夏の時期に海美のメンバーが週一で海底のゴミ拾いを請け負い、活動費用を町から受け取っているのだ。
ライセンスを取った俺も加わったことで、人員に余裕ができたと他のメンバーに喜ばれた。
まだ実地で活動することが少なかった俺は、バディを組んだ他のメンバーのサポートを受けながら、海底のゴミを取っていった。
足のつかない海の中をまじまじと見ることができる。近くを泳いでいた小さな魚たちが蜘蛛の子を散らすように離れていく。ゴミの下を寝床にしていた魚を起こしたり、ゴミを拾おうとしたらヤドカリが宿の代わりにしていたり、ちょっと笑えることにも出くわした。
海の中は俺の知らないことばかりであふれている。ゴミ収集なんて地味な作業をしているのに、俺は楽しんでいた。
夏休み中盤に差しかかった本日は晴天。そこらで陽炎が発生する日には、熱を冷ます食べ物が口に入りやすい。かき氷やアイスクリーム、ジェラートが販売されているところでは、行列が目につくようになっていた。
街中にも観光客がちょこちょこ見られ、時に道を聞かれる。
近所のことなら俺にもわかるが、島の全域まで把握してるわけじゃない。最近は地図アプリがあるからそういうことも減るんじゃないかと思っていたのだが、田舎の島じゃなかなかそうもいかないようだ。
オープンテラスでアイスを口にした俺たちは、テーブルに広がる本やノートに臨んでいた。
ここ数週間はライセンスの勉強に打ち込んでいて忘れていたが、俺には学校の勉強があるのだ。
そこそこ宿題も残してしまっているため、今のうちにやっておくが最善だろうと判断し、友人の村島やヤブ、朝川を誘い、学生らしく勉強に励むことにした。
冷房の利いた屋内はすでに埋まっていたため、オープンテラスの席を選ぶしかなかった。まあ、日傘があるから多少マシだが。ただ思うのだ。それなら、図書館でも誰かの家でも、冷房の利いたとこに行けばよかったんじゃねぇかって。
そう指摘したが、アイスとジュースを頼んでしまってからではすでに遅かった。このまま持ち帰っても、アイスは完全に溶けていることだろう。
ともあれ、俺たちは勉強会を開いたわけだが、出来は……まあ、そこそこだ。
お開きになった勉強会から帰る道のりでは、コンビニで菓子パンを買い食いし、ダラダラと歩いていた。
こうして街を歩いていると、街の様子がいつもと違うと一目でわかる。道の端で佇む街灯や電柱に紐が張られ、白い紙が紐にぶら下がっている。
もうすぐ近所で祭りが開かれるそうだ。俺たちも予定を合わせて行くかどうかで盛り上がっていた。
この島の祭りに参加するのは初めてだ。都会暮らしでも祭りは何度か見てきたから、そこまで楽しみにしないと思っていた。だが初めてのことだと、どうも好奇心が勝ってしまうようだ。
祭りに出る露店や催し物のラインナップを朝川たちから聞いていると、磨き上げた茶焦げの顔を俺に向け、聞いてきた。
「そういや、海美は今年何かやらないの?」
「え、なにそれ?」
「聞いてないのか?」
朝川は意外そうな顔をする。
「祭りで海美がなんかやってんの?」
「毎年出してるぞ。露店」
前を歩く村島は額の汗を拭いながら答える。
「そうなのか?」
「ああ、お前も海美だから、話が言ってると思ってたんだけどな」
「悪いが、俺は何も聞いてないな」
「なんだ。露店を手伝うことになったお前を茶化しに行こうと思ってたのに」
朝川は意地悪な笑みで戯言を吐く。
「ってことは俺、祭り楽しめねぇのか」
少しがっかりだ。
「そんなことねえと思うけどな。浮島のおっちゃんがそこらへんは配慮してくれると思うぜ」
ヤブはリュックを前に持ってきて、ペットボトルを取り出す。蓋を開けるとシュッと炭酸の抜ける音が鳴り、口を潤した。
俺は祭りの装いを始めた街を眺めながら、海美が祭りに参加するのか今度聞いてみようと心に留めた。
Φ Φ Φ Φ
刻々と夏休みは消化されていく。気づけば半分もない。どう足掻こうが、時間を止められる術を持たない俺には、どうしようもないことだ。
あと一週間、いや、あと二週間くらい伸びねえかね? なんて望みを持っちゃうのは仕方なくね? こんなのんびりできること、そうそうねえしさ。
海岸近くに設置された簡素なシャワールームで体についた海水を落とし、着替えていく。
「お疲れー」
「お疲れ様です」
同じ海美活動団員である大学生の男性が更衣室を出ていく。俺も家に帰ろうと見支度を整える。
「あ、そうだ。宮松さん」
宮松と呼んだメガネの男性は、ベンチに腰かけながら俺の方へ不思議そうな顔を向ける。
「ん? どうした?」
「毎年、島の祭りで露店を出してるって聞いたんですけど、今年はやらないんですか?」
「あれ、聞いてなかったのか。もちろん今年もやるよ」
宮松さんは腰を上げ、手さげカバンを持つ。
「今年はフランクフルト。藍原君にも手伝ってもらう予定だから。詳細は明日渡すよ。んじゃ、お疲れ」
「あ、はい。お疲れ様です」
宮松さんは更衣室を出ていった。
俺も着替えを済ませ、更衣室を出た。
夕方に近い時間でも暑さは留まるところを知らない。ガードレールや道と敷地の境界を示すつるつるの石は、見るからに熱を溜め込んでそうだ。
興味本位で石に触ってみたが、火傷しそうなほど熱かった。これならフライパン代わりにもなるんじゃないか? 海で釣った魚をここで焼いて食べるのも、いいな……。
けど、あそこで海鮮バーベキューなんてやったら通報されそうだ。手近にあんな石があるとも思えない。どこかで譲ってもらえないかなぁ。
そんなことを考えていると、前方に走ってくる人が見えた。あれは柴史さんか。
同じ海美活動団員でトラック運転手さんだ。
「柴史さん」
俺は手を振って声をかける。
「あ、藍原君!」
なんか様子がおかしいな。焦ってる?
俺の前で走りを止め、前かがみになると、両膝に手をついてぜえぜえと息をする。
「どうかされたんですか?」
ここまで走ってきたのか。柴史さんの額や首には大粒の汗がうかがえる。柴史さんは生唾を呑み込み、息を整えた。
「菜音歌ちゃんが……」
「折谷が、どうかしたんですか?」
海美の中でもライセンスを取っている人は少ないようだ。夏は特に観光客が多いこともあって、海にゴミがよく浮いているらしい。その分、海底にもゴミが溜まっているそうだ。
そこで夏の時期に海美のメンバーが週一で海底のゴミ拾いを請け負い、活動費用を町から受け取っているのだ。
ライセンスを取った俺も加わったことで、人員に余裕ができたと他のメンバーに喜ばれた。
まだ実地で活動することが少なかった俺は、バディを組んだ他のメンバーのサポートを受けながら、海底のゴミを取っていった。
足のつかない海の中をまじまじと見ることができる。近くを泳いでいた小さな魚たちが蜘蛛の子を散らすように離れていく。ゴミの下を寝床にしていた魚を起こしたり、ゴミを拾おうとしたらヤドカリが宿の代わりにしていたり、ちょっと笑えることにも出くわした。
海の中は俺の知らないことばかりであふれている。ゴミ収集なんて地味な作業をしているのに、俺は楽しんでいた。
夏休み中盤に差しかかった本日は晴天。そこらで陽炎が発生する日には、熱を冷ます食べ物が口に入りやすい。かき氷やアイスクリーム、ジェラートが販売されているところでは、行列が目につくようになっていた。
街中にも観光客がちょこちょこ見られ、時に道を聞かれる。
近所のことなら俺にもわかるが、島の全域まで把握してるわけじゃない。最近は地図アプリがあるからそういうことも減るんじゃないかと思っていたのだが、田舎の島じゃなかなかそうもいかないようだ。
オープンテラスでアイスを口にした俺たちは、テーブルに広がる本やノートに臨んでいた。
ここ数週間はライセンスの勉強に打ち込んでいて忘れていたが、俺には学校の勉強があるのだ。
そこそこ宿題も残してしまっているため、今のうちにやっておくが最善だろうと判断し、友人の村島やヤブ、朝川を誘い、学生らしく勉強に励むことにした。
冷房の利いた屋内はすでに埋まっていたため、オープンテラスの席を選ぶしかなかった。まあ、日傘があるから多少マシだが。ただ思うのだ。それなら、図書館でも誰かの家でも、冷房の利いたとこに行けばよかったんじゃねぇかって。
そう指摘したが、アイスとジュースを頼んでしまってからではすでに遅かった。このまま持ち帰っても、アイスは完全に溶けていることだろう。
ともあれ、俺たちは勉強会を開いたわけだが、出来は……まあ、そこそこだ。
お開きになった勉強会から帰る道のりでは、コンビニで菓子パンを買い食いし、ダラダラと歩いていた。
こうして街を歩いていると、街の様子がいつもと違うと一目でわかる。道の端で佇む街灯や電柱に紐が張られ、白い紙が紐にぶら下がっている。
もうすぐ近所で祭りが開かれるそうだ。俺たちも予定を合わせて行くかどうかで盛り上がっていた。
この島の祭りに参加するのは初めてだ。都会暮らしでも祭りは何度か見てきたから、そこまで楽しみにしないと思っていた。だが初めてのことだと、どうも好奇心が勝ってしまうようだ。
祭りに出る露店や催し物のラインナップを朝川たちから聞いていると、磨き上げた茶焦げの顔を俺に向け、聞いてきた。
「そういや、海美は今年何かやらないの?」
「え、なにそれ?」
「聞いてないのか?」
朝川は意外そうな顔をする。
「祭りで海美がなんかやってんの?」
「毎年出してるぞ。露店」
前を歩く村島は額の汗を拭いながら答える。
「そうなのか?」
「ああ、お前も海美だから、話が言ってると思ってたんだけどな」
「悪いが、俺は何も聞いてないな」
「なんだ。露店を手伝うことになったお前を茶化しに行こうと思ってたのに」
朝川は意地悪な笑みで戯言を吐く。
「ってことは俺、祭り楽しめねぇのか」
少しがっかりだ。
「そんなことねえと思うけどな。浮島のおっちゃんがそこらへんは配慮してくれると思うぜ」
ヤブはリュックを前に持ってきて、ペットボトルを取り出す。蓋を開けるとシュッと炭酸の抜ける音が鳴り、口を潤した。
俺は祭りの装いを始めた街を眺めながら、海美が祭りに参加するのか今度聞いてみようと心に留めた。
Φ Φ Φ Φ
刻々と夏休みは消化されていく。気づけば半分もない。どう足掻こうが、時間を止められる術を持たない俺には、どうしようもないことだ。
あと一週間、いや、あと二週間くらい伸びねえかね? なんて望みを持っちゃうのは仕方なくね? こんなのんびりできること、そうそうねえしさ。
海岸近くに設置された簡素なシャワールームで体についた海水を落とし、着替えていく。
「お疲れー」
「お疲れ様です」
同じ海美活動団員である大学生の男性が更衣室を出ていく。俺も家に帰ろうと見支度を整える。
「あ、そうだ。宮松さん」
宮松と呼んだメガネの男性は、ベンチに腰かけながら俺の方へ不思議そうな顔を向ける。
「ん? どうした?」
「毎年、島の祭りで露店を出してるって聞いたんですけど、今年はやらないんですか?」
「あれ、聞いてなかったのか。もちろん今年もやるよ」
宮松さんは腰を上げ、手さげカバンを持つ。
「今年はフランクフルト。藍原君にも手伝ってもらう予定だから。詳細は明日渡すよ。んじゃ、お疲れ」
「あ、はい。お疲れ様です」
宮松さんは更衣室を出ていった。
俺も着替えを済ませ、更衣室を出た。
夕方に近い時間でも暑さは留まるところを知らない。ガードレールや道と敷地の境界を示すつるつるの石は、見るからに熱を溜め込んでそうだ。
興味本位で石に触ってみたが、火傷しそうなほど熱かった。これならフライパン代わりにもなるんじゃないか? 海で釣った魚をここで焼いて食べるのも、いいな……。
けど、あそこで海鮮バーベキューなんてやったら通報されそうだ。手近にあんな石があるとも思えない。どこかで譲ってもらえないかなぁ。
そんなことを考えていると、前方に走ってくる人が見えた。あれは柴史さんか。
同じ海美活動団員でトラック運転手さんだ。
「柴史さん」
俺は手を振って声をかける。
「あ、藍原君!」
なんか様子がおかしいな。焦ってる?
俺の前で走りを止め、前かがみになると、両膝に手をついてぜえぜえと息をする。
「どうかされたんですか?」
ここまで走ってきたのか。柴史さんの額や首には大粒の汗がうかがえる。柴史さんは生唾を呑み込み、息を整えた。
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