二面性(リバーシブル)女との恋愛は期間限定

國灯闇一

文字の大きさ
45 / 60
Lesson4 重なる二人の想い出

STEP⑬ 演技

しおりを挟む
 メモに記載されていた住所はけっこう近くにあった。階段があるのだが、少し狭い。階段の脇には小さな四角い看板があり、paletteという文字と二階へという文字が縦並びに印字されている。一階は文房具店のようだ。というか、なんの会社なんだ? まあ、いいや。
「じゃ、中に入ろうか」
「うん」
 俺は女の子の手を引いて階段を上がる。階段を上がって右にドアがあり、paletteの表札を確認した。
 入っていいのか?
 ご用件のある方はインターホンを押してください、とドアの左側にあるプレートに書いてある。その下のインターホンがそれだろう。
 俺はインターホンを押してみる。古そうなチャイム音が中で鳴った。
『はい?』
 プツっとした音がスピーカーから聞こえた後、女性の声が聞こえた。
「あ、あの、こちらで働いている方の娘さんをお連れした者です。えーっと……」
 俺は女の子の名前を言おうとしたが名前を聞いていないのを思いだし、女の子に名前をこうとした。
『はい。ありがとうございます。今ドアを開けますね』
 女性は俺の言葉を待たずに了承してしまった。

 少し待っているとドアが開かれた。
 俺達に応対してくれたのは女性だった。女性は茶色のロングヘアで、いかにも受付の人的な制服を着ていた。綺麗で優しそうな女性だ。
「送っていただきましてありがとうございます。どうぞ、中に入ってください」
「あ、いえ、僕はこれで失礼します」
「お茶だけでも飲んで行ってくださいと、社長から申し付かっておりますので、遠慮しないでください」
「じゃあ、お茶だけ……」

 俺はおずおずと会社の中に入る。モノトーンな室内に六台のデスクが固まっていた。他の従業員の人達はパソコンや何かの資料に向き合っている。しかし、デスクにはいくつか空きがあるようだ。
「どうぞこちらへ」
 事務員らしき女性に、四角い黒テーブルの近くにある椅子に座るよう促された。
「ありがとうございます」
 俺と女の子は向い合わせに座る。
 女性事務員は部屋の隅にある電気ポットに歩いていく。
 俺は従業員の人達を見回す。今この部屋にいるのは俺と女の子以外で男性二人と女性一人。
 これで全員ってことはないだろうけど、異様に少ないな。
「君のお父さんかお母さんはいないの?」
「どこか出かけてるのかも」
「そうか」
 まあ、待っていれば来るだろう。

「どうぞ」
 事務員の方が出してくれたのは、お茶はお茶でも紅茶の方だ。鮮やかな薄紅色が彩る。紅茶なんて初めて飲むな。
「いただきます」
 俺は軽く会釈をして飲む。その瞬間、甘くまろやかな味が舌の上で踊り、柑橘系の香りが鼻孔を刺激する。
「おいしいっ!」
 事務員の女性は嬉しそうに微笑む。
「あ、そうだ。あの、この娘のお母さんとお父さんは今どこにおられるんですか?」
「えーっと、そうですね……」
 事務員の女性は困惑を露わにした愛想笑いで口を濁している。
 あれ、いちゃまずかったかな……。
 俺は少し不安になる。事務員の女性はチラチラと女の子の方に視線を投げている。
「あの……社長? もう、いいんじゃないですか?」

 え?
 事務員の女性が目の前で誰に問いかけているのか一瞬理解が及ばなかった。女性は女の子の座っている方向へ問いかけていると目視で認識。
 ……。
 いやいや。
 俺は心の中で嘲笑する。しかし、女の子の後ろにはそれらしき人物はいない。
 もしかして、社長って俺には見えてないの?
 もしかして幽霊っ!?
「はあ……」
 おもむろに聞こえてきたため息が微妙な空気を裂いた。
満志まんじさん。なんで言っちゃうんですかぁ? せっかく面白い感じでなじんでたのに」
 女の子が急に満志さんと呼んだ事務員と話しだした。
「もうここに来てるんですから演技する必要ないでしょう」
 演技?
「仕方ありませんねー」
 女の子は先ほどの子供らしい口調とは違い、饒舌になっている。女の子は足が地面についていない椅子から下りる。
 え? え!? 何これ。
 戸惑いを隠せずにいると、女の子は満志さんの隣に立つ。
「ご紹介が遅れました。私、本事務所の社長をしています。潤川一香と申します」
 潤川一香と名乗った女の子は、ワンピースのスカートの両端を持ち、優雅にお辞儀したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

お兄様「ねえ、イケナイ事をしよっか♡」

小野
恋愛
父が再婚して新しく出来たお兄様と『イケナイ事』をする義妹の話。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...