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Lesson4 重なる二人の想い出
STEP⑬ 演技
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メモに記載されていた住所はけっこう近くにあった。階段があるのだが、少し狭い。階段の脇には小さな四角い看板があり、paletteという文字と二階へという文字が縦並びに印字されている。一階は文房具店のようだ。というか、なんの会社なんだ? まあ、いいや。
「じゃ、中に入ろうか」
「うん」
俺は女の子の手を引いて階段を上がる。階段を上がって右にドアがあり、paletteの表札を確認した。
入っていいのか?
ご用件のある方はインターホンを押してください、とドアの左側にあるプレートに書いてある。その下のインターホンがそれだろう。
俺はインターホンを押してみる。古そうなチャイム音が中で鳴った。
『はい?』
プツっとした音がスピーカーから聞こえた後、女性の声が聞こえた。
「あ、あの、こちらで働いている方の娘さんをお連れした者です。えーっと……」
俺は女の子の名前を言おうとしたが名前を聞いていないのを思いだし、女の子に名前を訊こうとした。
『はい。ありがとうございます。今ドアを開けますね』
女性は俺の言葉を待たずに了承してしまった。
少し待っているとドアが開かれた。
俺達に応対してくれたのは女性だった。女性は茶色のロングヘアで、いかにも受付の人的な制服を着ていた。綺麗で優しそうな女性だ。
「送っていただきましてありがとうございます。どうぞ、中に入ってください」
「あ、いえ、僕はこれで失礼します」
「お茶だけでも飲んで行ってくださいと、社長から申し付かっておりますので、遠慮しないでください」
「じゃあ、お茶だけ……」
俺はおずおずと会社の中に入る。モノトーンな室内に六台のデスクが固まっていた。他の従業員の人達はパソコンや何かの資料に向き合っている。しかし、デスクにはいくつか空きがあるようだ。
「どうぞこちらへ」
事務員らしき女性に、四角い黒テーブルの近くにある椅子に座るよう促された。
「ありがとうございます」
俺と女の子は向い合わせに座る。
女性事務員は部屋の隅にある電気ポットに歩いていく。
俺は従業員の人達を見回す。今この部屋にいるのは俺と女の子以外で男性二人と女性一人。
これで全員ってことはないだろうけど、異様に少ないな。
「君のお父さんかお母さんはいないの?」
「どこか出かけてるのかも」
「そうか」
まあ、待っていれば来るだろう。
「どうぞ」
事務員の方が出してくれたのは、お茶はお茶でも紅茶の方だ。鮮やかな薄紅色が彩る。紅茶なんて初めて飲むな。
「いただきます」
俺は軽く会釈をして飲む。その瞬間、甘くまろやかな味が舌の上で踊り、柑橘系の香りが鼻孔を刺激する。
「おいしいっ!」
事務員の女性は嬉しそうに微笑む。
「あ、そうだ。あの、この娘のお母さんとお父さんは今どこにおられるんですか?」
「えーっと、そうですね……」
事務員の女性は困惑を露わにした愛想笑いで口を濁している。
あれ、訊いちゃまずかったかな……。
俺は少し不安になる。事務員の女性はチラチラと女の子の方に視線を投げている。
「あの……社長? もう、いいんじゃないですか?」
え?
事務員の女性が目の前で誰に問いかけているのか一瞬理解が及ばなかった。女性は女の子の座っている方向へ問いかけていると目視で認識。
……。
いやいや。
俺は心の中で嘲笑する。しかし、女の子の後ろにはそれらしき人物はいない。
もしかして、社長って俺には見えてないの?
もしかして幽霊っ!?
「はあ……」
おもむろに聞こえてきたため息が微妙な空気を裂いた。
「満志さん。なんで言っちゃうんですかぁ? せっかく面白い感じでなじんでたのに」
女の子が急に満志さんと呼んだ事務員と話しだした。
「もうここに来てるんですから演技する必要ないでしょう」
演技?
「仕方ありませんねー」
女の子は先ほどの子供らしい口調とは違い、饒舌になっている。女の子は足が地面についていない椅子から下りる。
え? え!? 何これ。
戸惑いを隠せずにいると、女の子は満志さんの隣に立つ。
「ご紹介が遅れました。私、本事務所の社長をしています。潤川一香と申します」
潤川一香と名乗った女の子は、ワンピースのスカートの両端を持ち、優雅にお辞儀したのだった。
「じゃ、中に入ろうか」
「うん」
俺は女の子の手を引いて階段を上がる。階段を上がって右にドアがあり、paletteの表札を確認した。
入っていいのか?
ご用件のある方はインターホンを押してください、とドアの左側にあるプレートに書いてある。その下のインターホンがそれだろう。
俺はインターホンを押してみる。古そうなチャイム音が中で鳴った。
『はい?』
プツっとした音がスピーカーから聞こえた後、女性の声が聞こえた。
「あ、あの、こちらで働いている方の娘さんをお連れした者です。えーっと……」
俺は女の子の名前を言おうとしたが名前を聞いていないのを思いだし、女の子に名前を訊こうとした。
『はい。ありがとうございます。今ドアを開けますね』
女性は俺の言葉を待たずに了承してしまった。
少し待っているとドアが開かれた。
俺達に応対してくれたのは女性だった。女性は茶色のロングヘアで、いかにも受付の人的な制服を着ていた。綺麗で優しそうな女性だ。
「送っていただきましてありがとうございます。どうぞ、中に入ってください」
「あ、いえ、僕はこれで失礼します」
「お茶だけでも飲んで行ってくださいと、社長から申し付かっておりますので、遠慮しないでください」
「じゃあ、お茶だけ……」
俺はおずおずと会社の中に入る。モノトーンな室内に六台のデスクが固まっていた。他の従業員の人達はパソコンや何かの資料に向き合っている。しかし、デスクにはいくつか空きがあるようだ。
「どうぞこちらへ」
事務員らしき女性に、四角い黒テーブルの近くにある椅子に座るよう促された。
「ありがとうございます」
俺と女の子は向い合わせに座る。
女性事務員は部屋の隅にある電気ポットに歩いていく。
俺は従業員の人達を見回す。今この部屋にいるのは俺と女の子以外で男性二人と女性一人。
これで全員ってことはないだろうけど、異様に少ないな。
「君のお父さんかお母さんはいないの?」
「どこか出かけてるのかも」
「そうか」
まあ、待っていれば来るだろう。
「どうぞ」
事務員の方が出してくれたのは、お茶はお茶でも紅茶の方だ。鮮やかな薄紅色が彩る。紅茶なんて初めて飲むな。
「いただきます」
俺は軽く会釈をして飲む。その瞬間、甘くまろやかな味が舌の上で踊り、柑橘系の香りが鼻孔を刺激する。
「おいしいっ!」
事務員の女性は嬉しそうに微笑む。
「あ、そうだ。あの、この娘のお母さんとお父さんは今どこにおられるんですか?」
「えーっと、そうですね……」
事務員の女性は困惑を露わにした愛想笑いで口を濁している。
あれ、訊いちゃまずかったかな……。
俺は少し不安になる。事務員の女性はチラチラと女の子の方に視線を投げている。
「あの……社長? もう、いいんじゃないですか?」
え?
事務員の女性が目の前で誰に問いかけているのか一瞬理解が及ばなかった。女性は女の子の座っている方向へ問いかけていると目視で認識。
……。
いやいや。
俺は心の中で嘲笑する。しかし、女の子の後ろにはそれらしき人物はいない。
もしかして、社長って俺には見えてないの?
もしかして幽霊っ!?
「はあ……」
おもむろに聞こえてきたため息が微妙な空気を裂いた。
「満志さん。なんで言っちゃうんですかぁ? せっかく面白い感じでなじんでたのに」
女の子が急に満志さんと呼んだ事務員と話しだした。
「もうここに来てるんですから演技する必要ないでしょう」
演技?
「仕方ありませんねー」
女の子は先ほどの子供らしい口調とは違い、饒舌になっている。女の子は足が地面についていない椅子から下りる。
え? え!? 何これ。
戸惑いを隠せずにいると、女の子は満志さんの隣に立つ。
「ご紹介が遅れました。私、本事務所の社長をしています。潤川一香と申します」
潤川一香と名乗った女の子は、ワンピースのスカートの両端を持ち、優雅にお辞儀したのだった。
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