二面性(リバーシブル)女との恋愛は期間限定

國灯闇一

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Lesson3 期限切れ

STEP⑩ 別れの一歩

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 館花さんと俺の手には紙袋が握られていた。中には自分が描いた陶器が入っている。陶器は持って帰ることができるのだ。デザインを描いた陶器は焼いてニスのような物で塗られたように光り、本当に小さなお店で売られているような陶器になった。顔についた絵具は熱いおしぼりで拭いて落としたが、まだちょっと絵具の匂いがする。
「夕食はどこ行こっか?」
 そう尋ねると、俺の前を歩く館花さんが「そうねぇ……」と言った後、考え込んでしまった。独り言ように呟いている。
 俺はというと、別のことを考え始めていた。
 このままでいいのだろうか……と。
 館花さんには彼氏がいる。館花さんがイチコイ作戦を始めたのは、館花さん自身が変わるためだ。でも、館花さんの素顔を縣さんは徐々に知ってきているに違いない。いずれは結婚するかもしれない。
 胸を刺す痛みが俺の中でうずく。その道にある障壁を取り除くには……お互い一歩踏みだすこと。今、館花さんの隣にいるべきなのは、あがたさんだ。俺の中で決定的な一つの答えが出た。

 俺は立ち止まった。
「館花さん」
「どこかいいとこ思いついた?」
 館花さんは立ち止まって振り返る。
「終わりにしよう」
「この後また何か予定入れてるの? じゃあ、ここで……」
「そうじゃないよ」
 俺は館花さんの言葉を遮った。
「は?」
「イチコイは、今日で終わりにしよう」
「は? 何言ってんのよ。最後まで続けるって言ったでしょ。十月末にハロウィンパーティーを私の自宅でやるからあんたも――」
「館花さんはもう大丈夫だよ。検証なんてしなくてもやっていける。縣さんとなら」
 館花さんの顔が神妙な面持ちに変わる。外灯がオレンジの道と俺達を照らし、通行人は俺達の横を通りすぎて行く。
「縣さんとは一度しか話したことないけど、その時思ったんだ。館花さんのことが、本当に好きなんだなって……。佳織さんの恋人として言わせていただきたいって、自分から言ったんだよ? ふっ、俺には、そんなカッコいいことできない。きっと、館花さんが猫を被っても、素顔の館花さんでも、大事にしてくれるよ」
 街に流れ込んだ柔らかな風が頬を掠めた。館花さんは腕を組んで目を瞑り、ため息を漏らした。

「……そんなこと、言われなくても分かってるわよ」
 館花さんは静かにそう言った。
「ふん、せっかく私の家に上がらせてやろうと思ったのに。女性の家に上がれるなんて滅多にないのよ? 特にあんたは」
 ″特にあんたは″を強調されてしまった。
「そうだね。俺はモテないから」
 俺は自嘲する。
「そうよ。モテないんだから、ちゃんと甘い蜜は吸わなきゃ」
「うん。でもそれは、本当の彼女ができた時に取っておくよ」
「そう」
 館花さんは真剣な表情で俺を見つめる。
「いいのね? 本当に終わりで」
「ああ」
「なんでこういう時だけ主張するのかしら。ほんと、馬鹿なんじゃないの?」
 館花さんは腰に左手を添えて、悪態をつく。
「馬鹿は余計だろ」
「ふふっ」
 あ、笑った。じんわりと胸を満たしてくる。

「分かったわよ。じゃあさ……」
 館花さんは鞄からスマートフォンを取りだして、俺に見せる。
「連絡先、消しとくわよ?」
「そうだね。あがたさんにも迷惑かけたからね」
 すると、館花さんは俺に歩み寄ってきて、隣に並んだ。ゼロ距離で体を寄せてくるせいで、俺の片側にほんのりと撫でるように温度を伝えてくる。
「な、なに?」
「こっそり連絡先を消してなかったりするかもしれないから監視よ」
「信用無いのな」
「あると思ってたの?」
「少しは……」
「うぬぼれるのも大概にして」
「すみません……」
 なんで最後までこんな感じなんだ。俺はすっかり館花さんの下僕になっている自分に嫌気が差した。
「じゃあ、電話帳の画面出して」
 俺はスマートフォンをポケットから取りだし、館花さんに見せながら操作する。
「はい」
 俺はスマートフォンで連絡帳を開く。館花さんも同じようにスマートフォンの画面を見せてくる。
「はい、消去して」
 館花さんの指示通り、俺達はお互いの連絡先を消去した。消去完了の通知がお互いのスマートフォンの画面に表示された。

 館花さんと俺はスマートフォンをしまった。そして、互いに向き合う。
「けっこう、楽しかったわ」
 館花さんは俺に柔らかい笑顔を向けてきた。
「おかげで色々大変だったけどね」
 俺は微笑で返した。
「家でゴロゴロしてるよりよっぽど有意義だったでしょ?」
「かもね……。ありがとう」
「なんのお礼よ」
「色々」
「ふっ……こっちこそ、ありがとう。色々」
「うん。それじゃ」
 最後は俺から告げた。
「それじゃ……」
 俺と館花さんはお互いに背を向けて歩きだす。夜に溶け込んでいくように、ヒトツキの恋は終わりを告げた。一人歩く俺の背中を見つめる視線など、気に留めることもなく……。
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