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第一Q 隻腕の単細胞
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ルールも細かく色々あるようで、オフェンスの際、シュートを決めるならゴールの近くにいればいいと考えた雪之丞がゴール付近に立っていると、笛を鳴らされた。
「三秒! バイオレーション!」
どうやら何か反則をしたらしく、よくわからないうちに相手ボールになっていたのだ。ボールを持たずとも足を引っ張る不甲斐ない自分に、雪之丞はだんだん焦ってきた。
相変わらず雪之丞のディフェンスはザルで、スタメンチームは岡村にパスを出そうと思えばいくらでも出せたはずだ。しかし自分たちの個々の力を見せつけようとしたのか、スタメンチームはあえて岡村ではなく、戸部の3ポイントで勝負を仕掛けてきた。
「……! うおらああああ!」
自分がなめられていると察した瞬間、雪之丞は驚異的な力を見せた。雪之丞は戸部に詰め寄り、シュートを阻止するために跳んだ。一瞬にして戸部まで間合いを詰める雪之丞の脚力と、シュートコースを完全に塞ぎきる跳躍力に、戸部は勿論宇佐美や久美子、部員たちは皆一斉に驚いた。
しかし、戸部のテクニックは雪之丞など軽く凌駕する。戸部はシュートを打たずに、地に足のついていない雪之丞をドリブルであっさりと抜き去り、フリーになっている岡村にパスを出した。最後は岡村がきっちりとゴールを決め、成すすべもなく着地した雪之丞の耳に「ナイッシュ―」という敵の声が届いた。
「……くそ! ぜってー取り返してやる!」
悔しさを胸に意気込んだはいいものの、Bチームが運んでいたボールはフロントコートを越える前に廉にカットされ、ボールが外に出たタイミングで雪之丞は次の一年生と交代となった。
今まで部活をやったことのない雪之丞は、自分が誰かの足を引っ張ることも、足りない実力に心の底から悔しくなることも経験したことがなかった。あまりに何もできなかった自分にショックを受けていると、宇佐美がやって来た。
「まあ、最初はこんなもんだ。あまり気を落とさなくていいぞ」
「……ウス」
そうは言っても、とても満足できる結果ではなかったし、悔しくないはずがない。雪之丞は拳を強く握り締めた。
「鳴海の物怖じしない性格はスポーツに向いていると思うぞ。……まだまだ練習が必要だが、お前は上手くなると思う。これから頑張りなさい」
雪之丞の心に、宇佐美から言われた言葉が深く刺さった。
事故で左手を失って以来、多くの人にスポーツをすることを反対されてきた雪之丞にとって、とても嬉しい言葉だったのだ。
「ウス! 頑張るっす! ……うおっしゃー! やるぞー!」
湧き上がってくる気持ちを、口に出さずにはいられなかった。
やる気を滾らせる雪之丞を見て、宇佐美は楽しそうに笑った。
◇
試合は最終的に、スタメンチームが二十点差をつけてBチームに勝利した。その結果を踏まえ、宇佐美はミーティングで今日の試合内容について総括した。
「一年もニ、三年も皆、お疲れさん。今日のゲームは一年にとっていい経験になったと思う。自分に足りないものに気づき、自ら積極的に努力を続ける者だけが上達できる。明日からも集中して練習に取り組んでいこう」
「「ウス!」」
部員全員の声が揃った。皆、素直に宇佐美の話に耳を傾けている。
「……で、五月十六日の土曜日、洛央高校と練習試合をすることになった。インハイ予選前の貴重な練習試合だ、心して臨むようにな。それと、一クォーターだけ一年同士で対戦させてみようと先方と話しているから、一年はこの試合は自分たちに関係ないなんて思わず、六月のインハイ予選で背番号をもらえる最大のアピールの場だと思って気合を入れるように」
宇佐美がそう言った瞬間、その場がどよめいた。誰だって試合に出たいと思っているが、試合に出られる可能性があるのは、背番号を与えられてベンチ入りできた部員だけなのだ。
一年は大いにやる気になった。
「おお、また試合に出られるのか! 監督! 俺、張り切りますよ!」
雪之丞も例外ではなく盛り上がっていたのだが、
「さすがにあんたはもう少し上手くならないと、難しいと思うわよ?」
久美子から冷静な指摘をくらった。
「ぐっ……! もう少し上手くって、具体的にはどれくらいっすか!?」
「そうねえ……せめて人並みにドリブルとパスができるようになって、ゴール下で確実にシュートを決められるようになったらかしら?」
久美子の言った合格ラインは今の雪之丞にとっては非常にハードルが高く、練習試合までの一ヶ月でモノにできるようなメニューではなかった。
「……練習あるのみ、か……うし!」
ただそれは、諦める理由にはならない。
何がなんでもチャンスを掴んでみせると、雪之丞は闘志を燃やした。
「三秒! バイオレーション!」
どうやら何か反則をしたらしく、よくわからないうちに相手ボールになっていたのだ。ボールを持たずとも足を引っ張る不甲斐ない自分に、雪之丞はだんだん焦ってきた。
相変わらず雪之丞のディフェンスはザルで、スタメンチームは岡村にパスを出そうと思えばいくらでも出せたはずだ。しかし自分たちの個々の力を見せつけようとしたのか、スタメンチームはあえて岡村ではなく、戸部の3ポイントで勝負を仕掛けてきた。
「……! うおらああああ!」
自分がなめられていると察した瞬間、雪之丞は驚異的な力を見せた。雪之丞は戸部に詰め寄り、シュートを阻止するために跳んだ。一瞬にして戸部まで間合いを詰める雪之丞の脚力と、シュートコースを完全に塞ぎきる跳躍力に、戸部は勿論宇佐美や久美子、部員たちは皆一斉に驚いた。
しかし、戸部のテクニックは雪之丞など軽く凌駕する。戸部はシュートを打たずに、地に足のついていない雪之丞をドリブルであっさりと抜き去り、フリーになっている岡村にパスを出した。最後は岡村がきっちりとゴールを決め、成すすべもなく着地した雪之丞の耳に「ナイッシュ―」という敵の声が届いた。
「……くそ! ぜってー取り返してやる!」
悔しさを胸に意気込んだはいいものの、Bチームが運んでいたボールはフロントコートを越える前に廉にカットされ、ボールが外に出たタイミングで雪之丞は次の一年生と交代となった。
今まで部活をやったことのない雪之丞は、自分が誰かの足を引っ張ることも、足りない実力に心の底から悔しくなることも経験したことがなかった。あまりに何もできなかった自分にショックを受けていると、宇佐美がやって来た。
「まあ、最初はこんなもんだ。あまり気を落とさなくていいぞ」
「……ウス」
そうは言っても、とても満足できる結果ではなかったし、悔しくないはずがない。雪之丞は拳を強く握り締めた。
「鳴海の物怖じしない性格はスポーツに向いていると思うぞ。……まだまだ練習が必要だが、お前は上手くなると思う。これから頑張りなさい」
雪之丞の心に、宇佐美から言われた言葉が深く刺さった。
事故で左手を失って以来、多くの人にスポーツをすることを反対されてきた雪之丞にとって、とても嬉しい言葉だったのだ。
「ウス! 頑張るっす! ……うおっしゃー! やるぞー!」
湧き上がってくる気持ちを、口に出さずにはいられなかった。
やる気を滾らせる雪之丞を見て、宇佐美は楽しそうに笑った。
◇
試合は最終的に、スタメンチームが二十点差をつけてBチームに勝利した。その結果を踏まえ、宇佐美はミーティングで今日の試合内容について総括した。
「一年もニ、三年も皆、お疲れさん。今日のゲームは一年にとっていい経験になったと思う。自分に足りないものに気づき、自ら積極的に努力を続ける者だけが上達できる。明日からも集中して練習に取り組んでいこう」
「「ウス!」」
部員全員の声が揃った。皆、素直に宇佐美の話に耳を傾けている。
「……で、五月十六日の土曜日、洛央高校と練習試合をすることになった。インハイ予選前の貴重な練習試合だ、心して臨むようにな。それと、一クォーターだけ一年同士で対戦させてみようと先方と話しているから、一年はこの試合は自分たちに関係ないなんて思わず、六月のインハイ予選で背番号をもらえる最大のアピールの場だと思って気合を入れるように」
宇佐美がそう言った瞬間、その場がどよめいた。誰だって試合に出たいと思っているが、試合に出られる可能性があるのは、背番号を与えられてベンチ入りできた部員だけなのだ。
一年は大いにやる気になった。
「おお、また試合に出られるのか! 監督! 俺、張り切りますよ!」
雪之丞も例外ではなく盛り上がっていたのだが、
「さすがにあんたはもう少し上手くならないと、難しいと思うわよ?」
久美子から冷静な指摘をくらった。
「ぐっ……! もう少し上手くって、具体的にはどれくらいっすか!?」
「そうねえ……せめて人並みにドリブルとパスができるようになって、ゴール下で確実にシュートを決められるようになったらかしら?」
久美子の言った合格ラインは今の雪之丞にとっては非常にハードルが高く、練習試合までの一ヶ月でモノにできるようなメニューではなかった。
「……練習あるのみ、か……うし!」
ただそれは、諦める理由にはならない。
何がなんでもチャンスを掴んでみせると、雪之丞は闘志を燃やした。
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