セキワンローキュー!

りっと

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第四Q その右手が掴むもの

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 廉が打った3ポイントシュートが外れ、リバウンド勝負になった。激しいブロックアウトの末、岡村が驚異のガッツを見せボールを手中に収めた。しかし沢高ベンチが歓喜の声をあげたのも束の間、岡村が着地した瞬間、それは絶望に変わった。

 難しい体勢からリバウンドに入った岡村は着地に失敗し、その場に倒れ込んだ。すぐにレフェリータイムを取った主審は苦痛に表情を歪める岡村を見て、彼をベンチに下げるよう宇佐美に指示を出したのだ。

 両肩を抱かれベンチに下がった岡村のバッシュを脱がせた久美子は、青ざめた。

「……捻挫です……」

 岡村の足首は尋常でなく大きく腫れ上がっていた。この腫れ方では、とても試合を続けることはできないだろう。
大きな戦力を失う現実を突きつけられた部員たちの顔には、動揺と落胆の色が濃く浮かんだ。

「自分、まだいけます! いかせてください!」

 岡村は必死に宇佐美を説得していた。

「だが、しかし……」

 宇佐美は判断に困っているようだった。岡村に抜けられたら困るのは事実。しかし、岡村の足首は宇佐美の逡巡の間にもどんどん腫れていく。

「……いや、駄目だ。岡村は交代させる。清水、準備してくれ」

 宇佐美は岡村の意思より彼の未来を優先した。納得いかない岡村は喚いていたが、彼を下げることに反対する者は誰もいなかった。

 指名を受けた控えの二年生、清水が緊張した面持ちでジャージを脱ごうとすると、スポーツドリンクを飲んでいた廉が突然「監督」と言って手を挙げた。

「岡村先輩の代わりなら、俺は清水より鳴海の方が適任かと思います」

 廉の提案に一同は唖然とした。インターハイ出場をかけた大切な試合で、チームの中で一番勝利にシビアな廉が冗談を言うとは思えない。廉が雪之丞を戦力として信用しているということに驚いたのだ。

「洛央のPFは運動量があり、堅実なプレーを得意としています。だったら清水よりも体力があって、初心者特有の予想外な動きをする鳴海の方が対応できると思いますけど」

 部員たちは口を閉ざし、雪之丞に視線を送った。雪之丞が試合に出ることに不満や不安を抱く者もいただろうが、廉の言い分も一理あると思ったのか、反対意見は出なかった。後は宇佐美の判断次第だ。

 宇佐美は雪之丞を見た。監督の見定めるような視線に、雪之丞もまた堂々と真正面から対峙して目を逸らさなかった。

「……鳴海、いけるか?」

 宇佐美の問いかけに、雪之丞は迷うことなく頷いた。

「……当然っす!」

 心の底から湧き上がってくる闘志を瞳に宿し、雪之丞はジャージを脱いだ。

 雪之丞がコートに入ると、体育館は大きくざわついた。

 バスケットボールのユニフォームはノースリーブだ。雪之丞の姿を見慣れていない観客からすれば、左肘の少し上から先のない雪之丞に度肝を抜かれるのは当然かもしれない。

 ましてや、そんな男が試合に出ようとしているのだから、信じがたい光景なのだろう。

 憂う者、奇異の目で見る者、知ったかぶって批評してくる者、彼らの様々な声が雪之丞の耳に届いた。

「おい、気にするなよ、プレーで度肝を抜いてやれ……って、そんなことは言われなくてもわかってるって顔だな」

 雪之丞を心配して声をかけてきた多田が笑った。この真剣勝負を前に、雪之丞は自然と口角を上げていたのだ。

「ウス。インハイ出場をかけたこの大舞台で自分が洛央と戦えるなんて、最高っす!」

 興奮気味に口にすると、険しい顔をしていたスタメン陣は肩の力が抜けたように息を吐いた。偏見の目や差別を気にすることなく素直に目の前の勝負を楽しもうとしている雪之丞の姿が、岡村の脱退で気落ちしていた彼らの心に勇気を与えたに違いなかった。

 敵のエースの姿をこの目に焼き付けようと視線を送ると、本人と目が合った。大吾は冷静な表情を保ったまま雪之丞に近づき、

「PFで出るんだろ? ……うちの園田サンは強いぞ」

「強い? そんなことはわかってるよ……それでも、勝つのは俺たちだ」

 残り時間は九分五秒、点差は八点。

 三年生の想い、宇佐美監督の願い、廉の信頼、夏希や紗綾の応援。

 それらすべてを背負い、雪之丞は大きく深呼吸をして右手を握りしめた。
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