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舞踏会のパートナー
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学院最大の行事──創立記念舞踏会。
上級貴族や有力者が招かれ、社交の場としても注目される華やかな夜。
だが、私にとっては地獄以外の何物でもなかった。
「生徒は教師か保護者に付き添われるのが伝統です」
行事説明でそう言われた瞬間、嫌な予感しかしなかった。
案の定──
「あなたのエスコートは私♡ よろしくねぇ」
にこやかに手を差し伸べてきたのは、例のオネエ教師だった。
「ど、どこがよろしくなのよ!」
「だってぇ婚約者なんだもの。むしろ自然でしょ?」
周囲の生徒たちが「えっ……婚約?」とざわつくのが聞こえる。
耳まで真っ赤になりながら、私は否定する余裕もなく黙り込んでしまった。
⸻
舞踏会の夜。
煌びやかなシャンデリアの下、音楽が流れ、色とりどりのドレスが舞う。
私は母に無理やり着せられた蒼いドレスに身を包み、胸元にはしっかりとサラシを巻いていた。
……動きやすさ優先、という名目の抵抗。
「んまぁ♡ いつもよりずっと綺麗よ、お嬢様」
「っ……!」
エスコートに差し出された先生の手を見つめ、心臓が変に跳ねた。
ふざけたような声色なのに、真剣な眼差しで手を取られると──なぜか逃げ出せなかった。
⸻
曲が変わり、先生に導かれるままダンスの輪へ。
貴族の舞踏は得意なはずなのに、今夜は足がもつれそうで仕方がない。
「リードは任せなさぁい♡」
軽やかにステップを踏む先生に引き込まれ、私は必死に追いつく。
気づけば視線が絡み、距離が縮まって──
「な、なんでこんなに上手いのよ!」
「魔力の制御もダンスのリズムも同じこと♡ 力をぶつけるんじゃなく、調和させるのよん」
耳元で囁かれた言葉に、胸が熱くなる。
……ああ、まただ。
悔しいのに、正しいことを言われてしまう。
⸻
曲が終わり、拍手が湧き起こる。
私はそっと手を離し、息を整えた。
「……別に、楽しかったとか思ってないから!」
「ふふ♡ じゃあ、次の曲も付き合ってくれるわよねぇ?」
「なっ……! 誰が!」
真っ赤になって叫ぶ私を見て、サフィール先生は上機嫌に笑った。
その笑顔に、ほんの少しだけ胸がざわついたのは──絶対、誰にも秘密だ。
上級貴族や有力者が招かれ、社交の場としても注目される華やかな夜。
だが、私にとっては地獄以外の何物でもなかった。
「生徒は教師か保護者に付き添われるのが伝統です」
行事説明でそう言われた瞬間、嫌な予感しかしなかった。
案の定──
「あなたのエスコートは私♡ よろしくねぇ」
にこやかに手を差し伸べてきたのは、例のオネエ教師だった。
「ど、どこがよろしくなのよ!」
「だってぇ婚約者なんだもの。むしろ自然でしょ?」
周囲の生徒たちが「えっ……婚約?」とざわつくのが聞こえる。
耳まで真っ赤になりながら、私は否定する余裕もなく黙り込んでしまった。
⸻
舞踏会の夜。
煌びやかなシャンデリアの下、音楽が流れ、色とりどりのドレスが舞う。
私は母に無理やり着せられた蒼いドレスに身を包み、胸元にはしっかりとサラシを巻いていた。
……動きやすさ優先、という名目の抵抗。
「んまぁ♡ いつもよりずっと綺麗よ、お嬢様」
「っ……!」
エスコートに差し出された先生の手を見つめ、心臓が変に跳ねた。
ふざけたような声色なのに、真剣な眼差しで手を取られると──なぜか逃げ出せなかった。
⸻
曲が変わり、先生に導かれるままダンスの輪へ。
貴族の舞踏は得意なはずなのに、今夜は足がもつれそうで仕方がない。
「リードは任せなさぁい♡」
軽やかにステップを踏む先生に引き込まれ、私は必死に追いつく。
気づけば視線が絡み、距離が縮まって──
「な、なんでこんなに上手いのよ!」
「魔力の制御もダンスのリズムも同じこと♡ 力をぶつけるんじゃなく、調和させるのよん」
耳元で囁かれた言葉に、胸が熱くなる。
……ああ、まただ。
悔しいのに、正しいことを言われてしまう。
⸻
曲が終わり、拍手が湧き起こる。
私はそっと手を離し、息を整えた。
「……別に、楽しかったとか思ってないから!」
「ふふ♡ じゃあ、次の曲も付き合ってくれるわよねぇ?」
「なっ……! 誰が!」
真っ赤になって叫ぶ私を見て、サフィール先生は上機嫌に笑った。
その笑顔に、ほんの少しだけ胸がざわついたのは──絶対、誰にも秘密だ。
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