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第四章 ヨミ、癒しの姉を抱きしめたい
(二)
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「あ、そうだ。うちのお母さん、ヨミちゃんのところのおばさんにも家事手伝ってもらってたのね。さっき聞いた。ありがとうね」
「ああ、いえ、手伝いに行ってるのは母さんだから、わたしはお礼言われるようなことしていないので……」
こんなことなら、ヨミも手伝いに行けばよかった。ここで胸を張れないことが悔やまれる……なんて、現金な人間だなあと思いつつ。
この喫茶店のアイスコーヒーは、雑貨屋兼コーヒー屋を営む水樹の淹れるコーヒーとはまた違った味だった。どっちかと言えば水樹のコーヒーがヨミの口には合うのだが、あそこでは沙希さんと談笑なんてできないだろう。カウンター席ひとつしかないから座れないし、「うるさい」と水樹に睨まれそうだ。
沙希さんと話すなら、この喫茶店がぴったりだった。
「おばさんの怪我、そんなにひどくないって聞いていたんですけど、沙希さんが帰ってこなきゃいけないくらい大変なんですか? だったらわたしも手伝いに行きますよ」
ヨミが訊くと、沙希さんは笑いながら否定する。
「ううん、けっこう元気よ。わざわざ帰ってこなくてもよかったのに、って言われてるくらいだから。心配しないで」
「それはなによりです」
しかしそうなると、沙希さんはすぐに帰ってしまうのだろうか。ヨミはしゅんと心がしぼんだ。
「沙希さんは、いつまでこっちにいられるんですか?」
「うーん、いつまでいようかなあ。わたしの気が変わるまでかなあ……」
沙希さんの答えは意外とおおざっぱだった。ヨミが目を瞬くと、苦笑を向けられる。
「だってこんなときじゃないと、実家に帰ってこられないじゃない。お正月もお盆も、ゆっくりできてなかったし。こういう言い方はどうかと思うけど、たまには実家に長期滞在したくて、お母さんの怪我を口実にしてるって感じかな」
これ、お母さんには内緒ね、と人差し指を唇に当てた沙希さんは、すこし疲れた顔をしているように見えた。結婚生活にもそれなりの疲労がたまるらしい。こんな沙希さんは、はじめて見る。
たしかに、沙希さんはなかなか地元に帰ってこなかった。ヨミも彼女と会うのが数年ぶりになったくらいだし。もっと帰ってきてくれればいいのに。
「大変なんですね、主婦っていうのも」
「そうそう、そうなのよ」
沙希さんは眉を下げて笑う。そうなのよ、に力がこもっていた。
ヨミは結婚していないし、大学生活の四年間以外は実家で暮らしている。だから実家を離れて新しい家庭を築く沙希さんの気持ちはわからない。でも沙希さんが疲れているなら、一大事だ。とんでもない一大事である。ヨミは力をこめて言った。
「沙希さん。思う存分、ゆっくりしていってくださいね」
沙希さんはぽかんとしてから、小さく噴き出した。
「うん、そうする。ありがとうヨミちゃん」
「なんで笑うんですか」
「だって、あまりにも真剣に言うんだもん」
ころころと笑う沙希さんの顔からは、さきほどまでの苦労の色が薄らいでいた。やっぱり笑顔が一番なのだ。笑われたのはすこし不本意だが、沙希さんが笑顔になってくれるなら、それでいい。
「ああ、いえ、手伝いに行ってるのは母さんだから、わたしはお礼言われるようなことしていないので……」
こんなことなら、ヨミも手伝いに行けばよかった。ここで胸を張れないことが悔やまれる……なんて、現金な人間だなあと思いつつ。
この喫茶店のアイスコーヒーは、雑貨屋兼コーヒー屋を営む水樹の淹れるコーヒーとはまた違った味だった。どっちかと言えば水樹のコーヒーがヨミの口には合うのだが、あそこでは沙希さんと談笑なんてできないだろう。カウンター席ひとつしかないから座れないし、「うるさい」と水樹に睨まれそうだ。
沙希さんと話すなら、この喫茶店がぴったりだった。
「おばさんの怪我、そんなにひどくないって聞いていたんですけど、沙希さんが帰ってこなきゃいけないくらい大変なんですか? だったらわたしも手伝いに行きますよ」
ヨミが訊くと、沙希さんは笑いながら否定する。
「ううん、けっこう元気よ。わざわざ帰ってこなくてもよかったのに、って言われてるくらいだから。心配しないで」
「それはなによりです」
しかしそうなると、沙希さんはすぐに帰ってしまうのだろうか。ヨミはしゅんと心がしぼんだ。
「沙希さんは、いつまでこっちにいられるんですか?」
「うーん、いつまでいようかなあ。わたしの気が変わるまでかなあ……」
沙希さんの答えは意外とおおざっぱだった。ヨミが目を瞬くと、苦笑を向けられる。
「だってこんなときじゃないと、実家に帰ってこられないじゃない。お正月もお盆も、ゆっくりできてなかったし。こういう言い方はどうかと思うけど、たまには実家に長期滞在したくて、お母さんの怪我を口実にしてるって感じかな」
これ、お母さんには内緒ね、と人差し指を唇に当てた沙希さんは、すこし疲れた顔をしているように見えた。結婚生活にもそれなりの疲労がたまるらしい。こんな沙希さんは、はじめて見る。
たしかに、沙希さんはなかなか地元に帰ってこなかった。ヨミも彼女と会うのが数年ぶりになったくらいだし。もっと帰ってきてくれればいいのに。
「大変なんですね、主婦っていうのも」
「そうそう、そうなのよ」
沙希さんは眉を下げて笑う。そうなのよ、に力がこもっていた。
ヨミは結婚していないし、大学生活の四年間以外は実家で暮らしている。だから実家を離れて新しい家庭を築く沙希さんの気持ちはわからない。でも沙希さんが疲れているなら、一大事だ。とんでもない一大事である。ヨミは力をこめて言った。
「沙希さん。思う存分、ゆっくりしていってくださいね」
沙希さんはぽかんとしてから、小さく噴き出した。
「うん、そうする。ありがとうヨミちゃん」
「なんで笑うんですか」
「だって、あまりにも真剣に言うんだもん」
ころころと笑う沙希さんの顔からは、さきほどまでの苦労の色が薄らいでいた。やっぱり笑顔が一番なのだ。笑われたのはすこし不本意だが、沙希さんが笑顔になってくれるなら、それでいい。
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