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あったかシチューと龍神さま
(十六)
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「穂乃花さん!」
いつの間にか、家についていた。穂乃花はまた気を失っていたらしい。あたりはすっかり薄暗くて、もうすぐ夕飯時だろう。よいしょと龍神の背から下りると、雪斗が玄関からすごい勢いで飛び出してきた。ちりりん、といつもの鈴の音も聞こえて穂乃花はほっとする。
「雪斗さん! ただいっ……」
体当たりされて、声が詰まった。あれだけ見たかった雪斗の顔を眺める暇もなく、きつく抱きしめられる。苦しいのと恥ずかしいのが混ざって、穂乃花は慌てて手をばたつかせる。
「ちょ、雪斗さ、くるし……っ」
「――心配した」
穂乃花は静かになった。雪斗の柔らかい髪が頬に触れて、くすぐったい。苦しい。でも、温かい。触れ合ったところから、身体にも心にも、雪斗の体温がじんわりしみてくる。ここにいる、と実感する。とつぜん、じわっと涙が出そうになった。
「ああ、雪斗さんだあ」
会いたかった。穂乃花は瞳を閉じて、その体温を感じた。
「ごめんなさい、心配かけて。いつもの隣人さんとの戯れですよ、大丈夫です。ちょっと龍神さまに誘拐されただけで」
「誘拐?」
「うん。でもあったかいお風呂に入って、おいしいご飯食べて、不思議なお屋敷を探検して……」
死にかけた。が、そこは秘密にしておこう。
雪斗はまだ穂乃花を抱きしめる力を緩めないで、ん……と頷いた。
「そっか。穂乃花さんが無事なら、よかった。でも隣人さんと遊ぶなら、声かけていってね」
「だって、雪斗さん寝てたから」
ちょっと身体が離れて、むぎゅっと頬をつままれる。
「起こして。とつぜんいなくなるのはやめて。俺は隣人さんのこと視えないから、穂乃花さんに何かあっても分からないし。本当に、心配したから」
その声が寂しそうで、穂乃花は口をつぐむ。視える穂乃花に悩みがあるように、視えない雪斗にだって悩みはあるのだろう。穂乃花には分からない、視えないからこそ抱える彼の悩みが。でも、穂乃花のことをすごく心配してくれたことだけは、痛いほど分かった。
「ごめんなさい、雪斗さん」
「……なんで、半笑いなの」
「え?」
言われて、ぺたりと頬を触る。たしかに、口角が上がっているようだ。
「いや……、申し訳ないと思ってるんですよ、本当に。でも、心配してくれたのが、なんか、嬉しくて」
迷惑をかけたのに嬉しがるなんて、駄目な人間かもしれないけれど。雪斗は仕方ないなあという顔で、穂乃花の頭をぽんと撫でた。
「穂乃花さん、お腹空いてない?」
雪斗の身体が離れると、ふっと温もりが消えてしまう。
「あったかいもの作るよ。俺も安心したらお腹空いてきた。ほら、中に入ろう」
玄関まで歩いて振り向く雪斗は、橙色の灯りを背負って微笑んだ。それがとても優しい光景に見えて、穂乃花はまた、心がじわりと震える。この家に、雪斗のもとに帰ってきてよかったと、そう思える。これからも、ここに帰ってきたい。雪斗のとなりに。
「雪斗さん」
――結婚しませんか。家族になってくれませんか。
「穂乃花さん? どうかした?」
「……ううん! なんでもないです」
言いかけた言葉は、口の中で消えてしまった。ふっと、雪斗の母の声がよみがえったから。今はまだ、踏み出す勇気がない。でもいつか、ちゃんと言いたい。
いつの間にか、家についていた。穂乃花はまた気を失っていたらしい。あたりはすっかり薄暗くて、もうすぐ夕飯時だろう。よいしょと龍神の背から下りると、雪斗が玄関からすごい勢いで飛び出してきた。ちりりん、といつもの鈴の音も聞こえて穂乃花はほっとする。
「雪斗さん! ただいっ……」
体当たりされて、声が詰まった。あれだけ見たかった雪斗の顔を眺める暇もなく、きつく抱きしめられる。苦しいのと恥ずかしいのが混ざって、穂乃花は慌てて手をばたつかせる。
「ちょ、雪斗さ、くるし……っ」
「――心配した」
穂乃花は静かになった。雪斗の柔らかい髪が頬に触れて、くすぐったい。苦しい。でも、温かい。触れ合ったところから、身体にも心にも、雪斗の体温がじんわりしみてくる。ここにいる、と実感する。とつぜん、じわっと涙が出そうになった。
「ああ、雪斗さんだあ」
会いたかった。穂乃花は瞳を閉じて、その体温を感じた。
「ごめんなさい、心配かけて。いつもの隣人さんとの戯れですよ、大丈夫です。ちょっと龍神さまに誘拐されただけで」
「誘拐?」
「うん。でもあったかいお風呂に入って、おいしいご飯食べて、不思議なお屋敷を探検して……」
死にかけた。が、そこは秘密にしておこう。
雪斗はまだ穂乃花を抱きしめる力を緩めないで、ん……と頷いた。
「そっか。穂乃花さんが無事なら、よかった。でも隣人さんと遊ぶなら、声かけていってね」
「だって、雪斗さん寝てたから」
ちょっと身体が離れて、むぎゅっと頬をつままれる。
「起こして。とつぜんいなくなるのはやめて。俺は隣人さんのこと視えないから、穂乃花さんに何かあっても分からないし。本当に、心配したから」
その声が寂しそうで、穂乃花は口をつぐむ。視える穂乃花に悩みがあるように、視えない雪斗にだって悩みはあるのだろう。穂乃花には分からない、視えないからこそ抱える彼の悩みが。でも、穂乃花のことをすごく心配してくれたことだけは、痛いほど分かった。
「ごめんなさい、雪斗さん」
「……なんで、半笑いなの」
「え?」
言われて、ぺたりと頬を触る。たしかに、口角が上がっているようだ。
「いや……、申し訳ないと思ってるんですよ、本当に。でも、心配してくれたのが、なんか、嬉しくて」
迷惑をかけたのに嬉しがるなんて、駄目な人間かもしれないけれど。雪斗は仕方ないなあという顔で、穂乃花の頭をぽんと撫でた。
「穂乃花さん、お腹空いてない?」
雪斗の身体が離れると、ふっと温もりが消えてしまう。
「あったかいもの作るよ。俺も安心したらお腹空いてきた。ほら、中に入ろう」
玄関まで歩いて振り向く雪斗は、橙色の灯りを背負って微笑んだ。それがとても優しい光景に見えて、穂乃花はまた、心がじわりと震える。この家に、雪斗のもとに帰ってきてよかったと、そう思える。これからも、ここに帰ってきたい。雪斗のとなりに。
「雪斗さん」
――結婚しませんか。家族になってくれませんか。
「穂乃花さん? どうかした?」
「……ううん! なんでもないです」
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