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本編
第四十一話 王都での日々②ー4
しおりを挟む伸ばしかけた手を慌てて元の位置に戻しつつ、急いで代金を渡し少女からエプロンの入った袋を受け取った。
「ありがとうございます。あの、良かったらまた来てもいいですか?とても雰囲気が良かったので」
「本当ですか!?そんなに気に入って貰えるなんて私も嬉しいです。是非ぜひ、いつでもお越し下さいね!!心よりお待ちしています♪」
「はい、必ず」
「またのご来店お待ちしています♪お買い上げありがとうございました!」
屈託のない笑顔を向けてくれる少女から品物を受け取り、私達は店内を後にした。
元来た道をノアと共にゆっくりと進んでいく。
「ねぇ、ノア。あのね、私聞いてほしい事があるの」
「ん、どうした?」
「家を出る前話していた事なんだけれど」
そこで一旦深呼吸をしてから意を決してノアと視線を合わせる。
「……さっきはごめんなさい。私ね、あの時ノアにどこにも行かないで欲しいと思ってしまったの。貴方に置いて行かれた事なんて一度もないのに変よね。でも本当に何故かそんな風に思ってしまって。恥ずかしくてすぐに言えなくて……本当にごめんなさい」
「アリア、大丈夫だ。俺はアリアを置いて何処にも行かない。約束する」
そう言いながらノアは私に手を差し出した。私はノアを召喚してからもう幾度となく行われているこの動作が意味している事を思い出し、その手にそっと自分の手を重ねた。
これはノアが私の為にかけてくれるおまじないだ。
王都に来てから何度も不安になる私に、その度のこうして手をとっておまじないをかけてくれる。
「本当に……本当に私を置いて行かない?」
「あぁ、ノア・サィエル・デモーネンヴェルト。俺の名にかけて約束する」
「それがノアの真名なの?」
「そうだ。俺達悪魔は何か強い誓約を結ぶ際、名前で自分や相手を縛る事がある。だから他人に対して無闇に真名を教える事は決してしない」
「ちょ、ちょっとまって、そんな大切な名前を私に教えたりしたら!!」
「ああ、だからアリアしか知らないし、アリアしか俺の本当の名は呼べない」
どうしよう……私今とても不純な事を考えてる。
ノアが私に、私だけに名前を教えてくれた事がこんなにも嬉しいなんて。
私はあと一年半後にノアに命を捧げる身なのに、心が震える程嬉しいだなんて。
例えこの想いを二度とノアに伝えられなくてもいい。
残された私の時間にはノアがいる。
もうその事実だけで充分だった。
「ノア……ありがとう。私とても嬉しいわ」
「嬉しいなら、俺も何かアリアの“特別”が欲しい」
「私の“特別”?」
「ああ、そうだ。確か人間は親しくなると“愛称”で呼び合うんだろ?なら俺も、アリアの“特別”になりたい」
私の“特別”……。
「アリアは俺に“特別を”あげるのは嫌?」
「嫌じゃないわっ」
「じゃあ、愛称で呼んでいいか?」
「私、ノアに愛称で呼んで欲しい」
「っ!!良かった、断られたらどうしようかと思った」
目の前でこれでもかというくらい喜んでいるノアに、私も喜びを隠す事が出来そうになかった。
だって彼に私の愛称を呼んでもらえるという事実が飛び上がる程嬉しいのだ。
物心ついてからただの一度も……家族にすら呼ばれた事のない私の愛称を呼んでもらえる日が来るなんて、少し前の自分では想像もつかなかった。
「リア」
ノアに愛称で呼ばれた瞬間、まるで心臓が鷲掴みされたように苦しくなった。
どうしていいか分からず、私は返事をする事が出来なかった。
ふと今の自分は、まるで迷子の子どものようだと思った。
知らない場所で立ちすくみ、これからどうしたらいいか、何処へ向かっていいのかも分からない、たた一人で寂しく迎えを待つ……そんな子どものようだと。
「リア、俺がいる。一人じゃない」
「ノア」
私が重なる手に力を込めると、ノアは何も言わず握り返してくれた。
「家に帰ろう、リア」
「ええ、家に帰りましょう」
どうか、少しだけ。ほんの少しだけでいいから。
あと少しだけ、この時間が続きますように――。
誰に向けた祈りなのか、自分自身にも分からない。
それでも今の私には願わずにいられなかった。
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