立日の異世界冒険記

ナイトタイガー

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0008.野獣の最期

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「ここまで来れば大丈夫だろう。」
 健は先程いた場所からは500メートルは離れた場所にある木の下に座りこんだ。かなり離れている上に能力を使えば僅かな音から新手の集団の動きも確認可能だ。健は逃げる時に咄嗟に鷲掴みして持ってきたジャガイモ味の果物を貪り食い始めた。やっとまともに食事ができる。
 遠く離れているために常人であれば決して聞きとることのできない微かな音に集中し、元いた場所の状況を分析する。野獣ブルレートの恐らく最期の断末魔と、新手の集団の狂乱に満ちた雄叫びと、から判断するに目と耳の封じられた野獣は新手の集団にトドメを刺されたようだ。新手の集団は、人間型の生き物のようだが、知能は低そうだ。健の推察通り、新手の集団は人間型のゴブリン達であった。
 まともに戦えば簡単に倒すことはできない野獣の極上の肉とおまけに沢山の果物まで手に入れたせいか、ゴブリン達の狂乱の興奮はなかなか収まらない。まあだが、奴らはこっちに来る様子はなさそうだ。健は今度は油断をせずにしばらく待機することにした。
 それから約1時間ほど経過し、ようやくゴブリン達は大量の戦利品を引っ下げて戻って行ったようだった。
 次から次と巻き起こる嬉しくないイベントのせいで健はもうクタクタだった。
「早く寝る場所を探さないと。」
 精神的にも肉体的にも疲弊し切っていていつ意識を失ってもおかしくない。だが、先程の野獣といい、ゴブリンといい、森の中には危険が山ほどあると思い知っている。できるだけ安全に木の上か、どこか洞穴のような場所がいい。しかし、健は疲労がひどく、木の上に登る体力はもはや残っていなかった。
 健は再び目を瞑り集中力を高めつつ、周囲の風の音を頼りに洞穴がないか探し始めた。何とかそれらしい音のする場所がある。健は気力を振り絞ってそこに向かった。人1人が何とか入れそうな小さな洞穴は岩場の下にあった。幸いにして岩場の前には下草が生えており、うまいこと隠されている。さらに幸運なことにその中に動物等の先客はいないようだった。
 健は洞穴の中に倒れ込むと深い眠りに落ちた。森の中は暖かく、時たま洞穴に入りこんでくる風もとても快適であり、疲れきった健を優しく包みこんだ。そして、徐々に陽は落ちて辺りは次第に暗くなっていった。
 夢の中で健はテーブルいっぱいのご馳走を食べていた。両脇にはスタイルの良い絶世の美女2人がピッタリとくっついてボディタッチしてくる。どうやら健は大富豪のようだ。テーブルに上品で身なりの良い老人が近付いて来た。見るからに優秀な執事だ。
「健様。ご入浴の準備ができました。すぐに入られますか。それとも後にされますか。」
「よし。すぐ入るよ。」

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