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前世の記憶
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「っぅ……!!」
額に鋭い痛みが走った。あまりの痛みに目の前がチカチカと瞬く。
痛みの元に手をやるとぬるりと嫌な感覚が伝わってくる。
どうして、こんなことになったんだろう……。ああ、頭が痛くて考えが上手くまとまらない。
「エイミー嬢っ! 大丈夫か!?」
慌てた声が聞こえて、ゆっくりとそちらに顔を向ける。
さらりと流れる金色の髪と青い瞳には、驚愕と共にこちらを案ずる色が浮かんでいた。
こちらを見つめる瞳があまりにも不安そうで、少しでも安心してほしくて、痛みを堪えながらなんとか絞り出そうとした「大丈夫」の言葉を告げる前に私の意識は闇に落ちた。
それから私は夢をみた。
私ではない私の夢。
その私は今とは全く別の世界で木崎絵美という名で暮らしていた。仕事をそれなりにこなしながら、休日には思う存分に趣味を楽しみ、順風満帆に過ごしていた25歳の社会人。
「リチャード様やばい。好き。まじで推せる。尊い」
その日は学生時代からの友人とお酒を飲みながら、この前プレイした乙女ゲーム「貴方と私で幸せに」についての話を繰り広げていた。
二人ともオタクで乙女ゲームが好きで、そんなきっかけで仲良くなった大切な友達。
大好きなキャラクターについて思う存分に愛を語り、友人も相槌を打ちながらまたお気に入りのキャラクターについて思う存分に語り返してくれる。
あのシーンがよかっただの、あのスチルにときめいただの、オタクとしての楽しいひと時。
「個人的にはライバルキャラのご令嬢との婚約解消のシーンが一番グッときたの! リチャード様の素敵があそこに詰まってる。そこでのライバルキャラの対応がまたね……」
アルコールを入れた舌はいつも以上に饒舌に回る。職場ではオタクを隠している以上こんな話をする相手も目の前の友人以外にはいないからなおさらだ。
そして終電の時間まで思う存分語り明かした。会話がはずみ少し飲みすぎたかもしれないとぼんやりする頭で電車に揺られ最寄り駅のたどり着く。
ふらつく足取りで家を目指して歩いていたその時にそれは起こった。
暗い路地を曲がろうと足を踏み出したその瞬間、目前には自動車が迫っていた。
酔いも手伝い反応が遅れた。戻ることも進むこともできずに立ちすくんだ私の耳につんざくようなクラクションとブレーキの音。
――そして、木崎絵美の人生の幕は下りた。
ゆっくりと浮上する意識とともに、ずきんと額に走る鋭い痛み。
そこに手をやるとあのぬるりとした嫌な感覚は消えていて、代わりにごわごわとした布の感触。
そっと目を開くと、ぼんやりした視界に移る天井は自室のものではなかった。
ここはどこだろう。そもそもどうしてここにいるんだろう。こんなに頭が痛いのは何故だろう。
様々な疑問が浮かぶけれど、何一つとして答えが浮かばない。
「エイミー嬢! 目が覚めたのか!」
強い声で呼ばれ、その声の元へ向けてゆるゆると顔を動かす。
心配そうにこちらを見つめる青い瞳と金色の髪の美少年。この人は気を失う直前にもこうやって声をかけてくれていた。
けれど、今の私はそれ以上にこの人を知っている。
私の知る彼よりも幼い容姿をしているけれど、間違いない。間違うはずもない。
「リチャード、さま……」
擦れた声は前世での最愛のキャラクターの名を紡いでいた。
額に鋭い痛みが走った。あまりの痛みに目の前がチカチカと瞬く。
痛みの元に手をやるとぬるりと嫌な感覚が伝わってくる。
どうして、こんなことになったんだろう……。ああ、頭が痛くて考えが上手くまとまらない。
「エイミー嬢っ! 大丈夫か!?」
慌てた声が聞こえて、ゆっくりとそちらに顔を向ける。
さらりと流れる金色の髪と青い瞳には、驚愕と共にこちらを案ずる色が浮かんでいた。
こちらを見つめる瞳があまりにも不安そうで、少しでも安心してほしくて、痛みを堪えながらなんとか絞り出そうとした「大丈夫」の言葉を告げる前に私の意識は闇に落ちた。
それから私は夢をみた。
私ではない私の夢。
その私は今とは全く別の世界で木崎絵美という名で暮らしていた。仕事をそれなりにこなしながら、休日には思う存分に趣味を楽しみ、順風満帆に過ごしていた25歳の社会人。
「リチャード様やばい。好き。まじで推せる。尊い」
その日は学生時代からの友人とお酒を飲みながら、この前プレイした乙女ゲーム「貴方と私で幸せに」についての話を繰り広げていた。
二人ともオタクで乙女ゲームが好きで、そんなきっかけで仲良くなった大切な友達。
大好きなキャラクターについて思う存分に愛を語り、友人も相槌を打ちながらまたお気に入りのキャラクターについて思う存分に語り返してくれる。
あのシーンがよかっただの、あのスチルにときめいただの、オタクとしての楽しいひと時。
「個人的にはライバルキャラのご令嬢との婚約解消のシーンが一番グッときたの! リチャード様の素敵があそこに詰まってる。そこでのライバルキャラの対応がまたね……」
アルコールを入れた舌はいつも以上に饒舌に回る。職場ではオタクを隠している以上こんな話をする相手も目の前の友人以外にはいないからなおさらだ。
そして終電の時間まで思う存分語り明かした。会話がはずみ少し飲みすぎたかもしれないとぼんやりする頭で電車に揺られ最寄り駅のたどり着く。
ふらつく足取りで家を目指して歩いていたその時にそれは起こった。
暗い路地を曲がろうと足を踏み出したその瞬間、目前には自動車が迫っていた。
酔いも手伝い反応が遅れた。戻ることも進むこともできずに立ちすくんだ私の耳につんざくようなクラクションとブレーキの音。
――そして、木崎絵美の人生の幕は下りた。
ゆっくりと浮上する意識とともに、ずきんと額に走る鋭い痛み。
そこに手をやるとあのぬるりとした嫌な感覚は消えていて、代わりにごわごわとした布の感触。
そっと目を開くと、ぼんやりした視界に移る天井は自室のものではなかった。
ここはどこだろう。そもそもどうしてここにいるんだろう。こんなに頭が痛いのは何故だろう。
様々な疑問が浮かぶけれど、何一つとして答えが浮かばない。
「エイミー嬢! 目が覚めたのか!」
強い声で呼ばれ、その声の元へ向けてゆるゆると顔を動かす。
心配そうにこちらを見つめる青い瞳と金色の髪の美少年。この人は気を失う直前にもこうやって声をかけてくれていた。
けれど、今の私はそれ以上にこの人を知っている。
私の知る彼よりも幼い容姿をしているけれど、間違いない。間違うはずもない。
「リチャード、さま……」
擦れた声は前世での最愛のキャラクターの名を紡いでいた。
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