悪役神子は徹底抗戦の構え

MiiKo

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神殿はインフェルノ

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午後は奉仕活動か。何をするのだろう。涼貴のイメージする奉仕活動は炊き出しであったり街の清掃であったりするのだがこちらでもそれは変わらないのだろうか。教師に先導されて着いた先は外壁に張り付くようにして建つ灰色の建物であった。

中に入ると生ごみの嫌なにおいが鼻をつく。

「今日はここの清掃だ。ごみは全て焼却炉に入れて汚れた床は綺麗に拭き掃除をしなさい。では、始め。」

言うや否や教師は顔をしかめながら外に出てドアの鍵を閉めた。次に彼が迎えに来るまでここで掃除をするしかないのである。フリーズする涼貴をよそに子ども達はテキパキと作業を開始する。いつまでも動かない涼貴にトラ猫の女の子が声を掛ける。

「あのね、お片付けしないと先生に怒られちゃうよ。みんな一緒に怒られるの。だから頑張ろうね。」

まさかの連帯責任か。自分のせいで子ども達が怒られるのはごめんだと涼貴も必死に体を動かした。そして3時間ほどが経っただろうか。ようやく床の清掃に取り掛かれるのではという段階で天井が開き、上から更なるごみが降ってくる。先ほどの3分の1程度の量ではあるが、それでも大量だ。思わず舌打ちをする涼貴とは対照的に子ども達は顔色一つ変えずに再びごみの山に取り掛かる。これに何の感情も湧かない程に慣れた行為なのか。まだこんなに小さいのに。激しい憤りをエネルギーに大人である涼貴は子どもに何もさせない勢いで働いた。

結局教師はその2時間後に戻ってきた。完璧に清掃が終わった内部を見てフンっと鼻を鳴らすと帰りますと言って来た道を戻り始める。子ども達も素直に後をついて行ったので慌てて涼貴も後を追った。

てっきり教室に戻って今日の授業は終わりかと思っていたのだが、次に訪れたのは神殿の裏庭。そこに置かれているのは大きな桶と大量の洗濯物。奉仕活動とやらはまだ続いていたのか。いい加減疲れたしお腹もすいた。

「お腹空いた…。」

ぼそっと呟いた声は意外と響き、それを聞いた子ども達は一様に体をこわばらせる。

「君は初めてだから説明が必要かもしれませんね。アンナ、なんでみんなはまだご飯を食べていないのかな?」

微笑んだ教師に名指しされたのは先程話しかけてくれたトラ猫の子だ。

「はい、先生。ご飯は一生懸命働いた人から食べるものだからです。私たちはまだ奉仕活動を終えていないので食べてはいけません。」
「と、いうわけです。お腹が空いたと言う前にやらなければいけないことをしましょうね。」

働かざる者食うべからずってか。あれは子どもに当てはめていいものじゃないだろう。というか、絶対にこの子達はお前より働いているからな。それでも言い返せない歯がゆさを抱えながら教師に謝る。

「では、洗濯を始めなさい。終わったら体も洗っていいですよ。ごみがついて気持ち悪いでしょう。」

ありがとうございます、先生、と答えて子ども達は服を手で洗い始める。洗い終わった子から残った水で体を洗い流すのを見て俺は心からこの国を憎んだ。彼らを何だと思っているんだ。こんな国がなぜまだ存在できるんだ。

身も心も疲れ果てて自室に辿り着いたらアルが夕食を用意してくれていた。彼は俺の顔も見たくないだろうが今日一日で聞きたいことが増えてしまった。話せる相手が彼しかいない以上申し訳ないが聞いてもらわなくてはならない。

「ねぇアル、もし嫌なら無視して欲しいんだけど、質問をいくつかさせてもらってもいい?」
「構いません。」
「ありがとう。まず、ここにいるみんなは親元を離れて暮らしているの?会いに帰ったりしないの?」
「はい、ここは寄宿学校です。帰省は申請すれば可能かもしれませんが望んで主神様を拒否する者の元へ帰る人はおりません。」
「そっか。アルは高等部にいるんだよね。そこではどんな勉強をするの。」
「初等部で基礎は全て学びますので高等部では奉仕活動が中心です。各々の特性に特化した技術を学びます。」
「そのさ、奉仕活動って何のためにするのかな。」
「より良い人になるためです。我々を受け入れようとしてくださる主神様、神殿や国民の皆さんに感謝をもって奉仕するのは当たり前の行いかと。」
「でも、まだ子どもなのにあんな仕事…」
「慣れればしんどくありません。怠けて罰を与えられるよりマシでした。」
「罰?どんな?」
「はい、先生方の教えに背く子は怒られて罰を受けます。我々のつけている首輪は先生が持っている装置と連動して締め付ける強さが変わる魔道具です。」

他には?と聞くアルにもう一度礼を言って今日はもう帰ってもらった。アルはもう10年近くそうやって教えられてきたから自分の言うことになんの疑問も抱かないんだろうけど俺にとっては衝撃的過ぎて泣きたくなる内容だった。もうそんなの奴隷じゃん。6歳から逆らったら痛みと恐怖が与えられて、自分たちはダメな生き物で周りの人間は自分たちを救おうとしている感謝すべき相手だと信じ込まされるんだろう?親すらも悪だと信じて軽蔑して。本来なら南の土地であの毛並みを風にたなびかせながら自由に生きていた種族だろうに、誇りもあるだろうに。

ベッドにもぐり込んでも眠気なんて来ない。勲美さん、あの子たちだけでもなんとか守りたいのに俺に出来ることはあまりにも限られているんだよ。いつもは撫でるだけの指に爪を食い込ませながら一睡もできずに夜は明ける。
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