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4. 魔力
「ーーそろそろ良いかな」
ぱんぱんと手を払い、背負い籠の中に入れた袋の口を縛った。
ソラは世界でも数カ所にしか自生しない希少な植物だ。膝の高さくらいの背の低い植物で、葉は少し青みがかった緑色をしている。蒸して天日干しした加工品は魔力の回復薬になるらしく、魔術師の間で人気が高い。魔力を持たない人間にとっても疲労回復効果があるため、王都へ持っていけば高値でも飛ぶように売れていく。
この国では唯一、領土北端のこの村の周辺がソラの群生なのだが、王都までは荷馬車で三日ほどかかるため収穫後に一旦村で加工して王都に卸している。収穫してすぐに火を入れないと疲労回復の効果がなくなってしまうのだ。
火を入れて乾燥したものが薬としてが高い代わりに、収穫直後のソラの葉は魔術師たちにとっては毒になるらしい。たぶん効力が強すぎるのだろう。
ウィル曰く、摘みたてのソラの葉の匂いを嗅ぐとひどく酔っ払った時のようにくらくらして気持ち悪くなるらしい。しかもかなり即効性だ。
ソラの葉に現れるように、青色は魔力の色だ。
魔力をもつ物や人は、身体のどこかに青色が発現する。通常、その色が鮮やかだったり濃かったりするほど魔力が高いとされ、高位の魔術師は青色の髪や瞳を持つ者が多い。
俺と兄の瞳は青い放射状のハイライトが入った緑で、兄が生まれた時は「魔力持ちが生まれた」とたいそう騒がれたそうだ。実際は俺も兄も魔力は持っておらず、瞳の色は"青に見える緑色"ということで決着した。つまるところ、青っぽい色を持っているからと言って一概に魔力持ちとも限らないのだ。
逆に、黒い髪に金色の瞳を持つウィルは"魔力持ち"だ。
ウィルの髪は強い光に曝されたときだけ青みを帯びて見える。つまり、彼の髪は黒ではなく"とても濃い青"なのだ。彼の両親がどういう人たちだったか詳しくは知らないが、少なくとも母親は息子を抱えたまま転移術が使えるような高い能力を持つ魔術師だった。魔力の強さは遺伝によるところが大きいらしいから、ウィルが強い魔力を持っていても不思議ではない。
ウィルは「バレにくくていい」といつも言っているが、その実、彼が魔力持ちであることは俺の家族とリヒターさんだけしか知らない秘密だ。
こんな田舎で魔術師なんてそうそうお目に掛かれないし、ウィルも人の前では決して魔術を使わなかったから、村の人たちはウィルが魔力持ちだなんて考えたことすらないかもしれない。魔術師同士はお互いの魔力を感知することができるらしいので、村に魔術師がいないのはウィルにとって幸運だった。
というのも、ウィルは所謂"野良魔術師"という存在だ。
この国の人間は生まれた時に魔力検査を受け、魔力を持っている場合は国に登録しなければならない。
魔術師は国に管理され王立魔術学校へ行くことが義務付けられているし、仕事も国が認めた職にしか就くことができない。ただし、どう転んでも魔術師というだけでかなりの高待遇だ。力を恐れた過去の王が魔術師による蜂起を防ぐために作った制度だと聞くが……。
この仕組みの外にいる未申告の魔術師は"野良魔術師"と呼ばれている。
いくら高待遇で将来が約束されていると言えど国に管理される生活はごめんだ、という層が一定数存在し、ウィルが生まれた村こそがその野良魔術師の集まりだったのだ。ただ、あの村の人たちは王政に対する反逆思想を持っていたわけではなく、ただ自由にのびのびと暮らしていたかっただけだと思うのだが。
両親が魔術師だったウィルも当然のように魔力を持って生まれたが、彼の両親はウィルを国に登録することはなかったようだ。
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