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5. 予感
「うーん、少し採りすぎたか」
荷物をまとめて籠を背負うと、いつもよりもずっしりと重く感じた。採り尽くしてしまわないよう薬草を採取する量には気をつけているのだが、なかなか加減が難しい。こういうとき、俺はまだ半人前だなと思う。
村の入り口にほど近い開けた空き地へ向かうと、中心に立つ大きな木の下にウィルが座っているのが見えた。
「ごめん! 待たせた」
「いや、俺も今来たところだ」
言いながらウィルは自分の横をぽんぽんと叩き、俺に座るように促した。小走りで近寄ると、腕をぐいと引っ張られてウィルのすぐ隣に座らされる。彼の少し後ろを見ると今日の獲物や猟銃がすっかり後処理された状態で置かれていて、どうやらすっかり待たせてしまっていたらしいことが察せられた。
「嘘つくなよ。ずいぶん待っただろ?」
「別にいい。問題ない」
「もう!……いいや、ご飯にしよう」
こいつは俺に甘すぎるし、俺に気を遣わせないための嘘を平気でつく。そういう気の回し方はやめろっていつも言っているけれどまるで聞く耳を持ってくれない。
俺はウィルから少し離れたところに籠を下ろして、サンドイッチの入った包みをふたつ取り出した。そのうちひとつをウィルに手渡して、二人で並んで食べる。
俺たち二人がする話といえば、お互いの仕事の話とか、村の誰かが誕生日だったとか、そういう他愛もない話題ばかりだった。いつも通りに過ごすいつも通りの昼下がりだったけれど、なぜだかウィルはいつも以上に口数が少なかった。第一部隊の話が上がった時は動揺こそしていたが、ここまで考え込むような素ぶりは見せていなかったはずだ。
「ウィル、猟の最中になんかあった? 朝より元気ないだろ」
少しだけ心配になった俺は言葉を選ばず率直に尋ねた。ウィルは言いたくないことはのらりくらりと躱わす質だから、こういうことは真正面から聞いたほうがいいのだ。
「なんでもない」
「変に気を遣うのはやめろっていつも言ってるだろ。思ったことはちゃんと言ってほしい。俺、何かした? それとも何かしてほしい?」
上体を寄せてウィルの顔を覗き込むが、彼の視線はうろうろと地面を這うばかりだった。それでも諦めずにウィルの顔を見つめ、地面についた手に俺の手を重ねて握ってやると、観念したのか彼は渋々といった風に口を開いた。
「……さっき、お前を待っている時にいやな予感がしたんだ。あの時と同じ寒気がした」
あの時がいつを指すのかはすぐに分かった。まだ俺たちが子どもだった頃、一緒に山へ遊びに行ったところでウィルが急に家に帰りたがったことがある。遊び足りなかった俺は渋るウィルを尻目に山へ分け入りーーそこで崖から滑落した。そこまで高い崖ではなかったのだが、落ちるときに足を挫いた俺は自力で登ることが出来なくなってしまった。更に運が悪いことに俺が落ちた先にはソラが密集して生えていた。ソラに近付けないウィルは俺を助けに降りることも出来ず、心の底から悔しい思いをしたと後になって言われた。結局ウィルが俺の両親とリヒターさんを呼びに行って事なきを得たわけだが、ウィルからしたら苦々しい思い出になってしまったようだ。
つまるところ、ウィルの"いやな予感"というのは何か良くないことが起こる予兆なのだ。
「なあ、今日はもう帰るよな?」
握っていたウィルの手がもぞりと動き、俺の手を覆うようにして重ねてぐっと力が込められた。
「うん。もう収穫は終わったし、まっすぐ帰ってソラの葉を蒸さなきゃ」
「一緒にやる。火を起こして火傷でもしたら大変だ」
「ええ? 大丈夫だって。というか、お前だって獲物の処理とかしなきゃならないだろ。それにソラの葉にあんまり近付くとお前体調悪くなるし」
「処理はじいさんに任せるし、体調のことは気にしなくていい。お前が見えないところにいて心配し続ける方がよっぽど心臓に悪い」
「でも……」
俺の手を握るウィルの指に更に力がこもる。黄金色の瞳がじっと俺を見つめていた。俺はその眼にめっぽう弱い。
「しょうがないな」
そう言って息をついた俺な身体をウィルの長い腕が捉える。息苦しいくらいに強く抱きしめられ「うおっ」と情けない声をあげてしまった。
「悪い……でも、今日だけは俺の手の届く範囲にいてくれ」
「分かったって。約束するから落ち着け」
「……少しだけこのままでいさせてほしい」
両腕をウィルの背中に回し、ぽんぽんとリズムをつけて叩いてやる。まるで赤ちゃんをあやしているみたいな気持ちになって、俺はくすりと笑ってしまった。
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