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6. 天秤
ウィルがこうして俺と一緒にいてくれるのは嬉しいと思うけれど、反面、果たして本当にこれで良いのか、と不安な気持ちがまた押し寄せる。
村のおばちゃんたちが言っていたことではないが、
ウィルをこのまま田舎の山村に閉じ込めておいては宝の持ち腐れのような気がするのだ。本人が村を離れることを望んでいないから無理強いはできないけれど、ウィルの"村を離れない理由"の一端が俺にあるのは間違いない。自分で言うのもなんだけど。
その俺は来年には薬学の勉強のために王都へ行ってしまう。ウィルも魔術の勉強のために一緒に行ってはどうかと誘ってはみたけれどやっぱり国に魔術師として登録する気はないようで、そうなると魔術師学校へ通うことはできない。それならばしばらく滞在して観光するだけでもどうか? と尋ねたが、魔術師同士はお互いの魔力を感知することができるらしく、野良だとばれるリスクの大きい王都へは行けないということだった。
ウィルは魔力量は多いようだが高度な魔術は使えない。それを教えてもらう前に一族郎党滅ぼされてしまったからだ。彼が使える魔術は小さな頃に習ったものーー例えば小さな火を起こしたり、倉庫の中を明るく照らしたり、そういった日常のちょっとしたことが中心だった。それでもかなり便利だし、何も出来ない俺からしたら十分すごいと思うけど。
猟で山に入った時はついでに大規模な魔術も練習しているらしいけれど、それでも独学では限度があるらしく、彼の母親が使っていた転移術のような高度な魔術は使えないと言っていた。
もしも魔術師登録をして魔術師学校に通ったら、卒業後は彼が憎む王立騎士団に配属されてしまうかもしれないし、そうでなくても王都に残って仕事に就かなければならないことが大半だ。この村で暮らすことができなくなる可能性が高い。代わりに、王都で高い地位と収入を得ることができる。
それが少しだけもったいないと思ってしまうのは、俺が当事者ではないからだろうか。
しばらくウィルの腕の中で大人しくしていた俺だったが、ふと、ぽつりぽつりと水滴が地面を叩く音に気が付いた。
「あ、雨」
「……すまない」
ばつが悪そうに謝りながら、ウィルの両手が俺の身体を解放した。
「急いで帰ろう。走ってもそれなりに濡れるだろうけど、止みそうにないし」
「そうだな。じいさんに忠告されてたのに俺のせいで遅くなっちまって悪かったな」
「いいよ、俺も忘れてたし」
この木の下にいれば生い茂った葉のおかげで雨を凌ぐことができるが、見上げた空は厚い灰色の雲に覆われ雨足も強くなる一方だった。雨宿りでやり過ごすよりも、多少濡れてでも早く帰るほうが良さそうだ。
立ち上がりって尻の砂を払い、傍に置いていた背負い籠を持ち上げ「よいしょ」と背負った。ウィルも並べていた荷物をひとつにまとめ、抱え込みやすいようにしている。走る準備は万端だ。
ちらりとウィルを仰ぎ見て目線で準備が出来たことを伝えたその時、ざり、と背後で砂を踏む音が鳴った。
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