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10. 虜囚①
『狼の生き残りが青き装飾を身に纏いこの国を厄災から救う』ーー長髪の魔術師が言った言葉が頭の中をぐるぐる回っていた。
*
冷たくて湿った風が頬にあたる感触がして、俺はゆっくりと瞼を持ち上げる。数度瞬きをして目線だけであたりを見渡すと、目に入るのは石でできた壁と天井、頑丈そうな鉄格子、粗末な便器、俺が寝かされた固くて粗末なベッド……それだけだった。窓はなく、光源は鉄格子の向こう側の通路に掛けたれたランプだけだ。気温も低いし、地下牢だろうか。
「はぁ、最悪だ」
ため息を吐いてごろりと転がりベッドに仰向けになると、左の足首に冷たい重みを感じた。上体を少しだけ上げて見てみるとそこには案の定足枷が嵌められていて、枷から伸びた鎖が床から生えた金具に繋がっていた。牢に入れた上に足枷までするなんて厳重すぎないか。
「何が最悪なんだ?」
俺は突然掛けられた声にびくりと肩を振るわせた。鉄格子の向こうを見ると、そこには俺を連れ去るよう命じた張本人ーーレネ・シュナイダーが腕を組んで俺を見下ろしていた。薄暗いせいか、綺麗な白い肌はいっそ青白いと言っても良いくらい温度を感じさせない。改めてまじまじ見ると、人形のように綺麗な顔をした男だ。
というか、いつの間にそこにいたんだ……?
「どの口がそれを言うんだよ」
「お前の置かれた状況はそこまで悪いものではないと私は思うんだがな?」
「悪くない? そんなわけないだろ。俺が捕まったせいでウィルフリードがお前らの言いなりにならなきゃいけないなんて」
両親や仲間を全部奪っていった組織に入りたい人間などいるわけがない。
けれど、ウィルはきっと、俺を助けるために騎士団に入ってしまう。その単語を聞くだけで身体をこわばらせてしまうくらい騎士団のことを憎んでいるのに。
「お告げは絶対だ。厄災は起きるしサフィルスがそれを止める未来は必ずやって来る。この結末が変わらない以上、私たちは"最善の過程”を選ぶしかない」
「……つまりお告げは予言だって、そう言いたいのか。どのみちウィルは騎士団に入るしかないって」
「理解が早くて助かるよ」
シュナイダーは鉄格子にかかった錠前に鍵を差し込みひょいと捻った。カシャリという音を立てて錠が床に落ち、扉が開かれる。ゆったりとした歩調で牢の中に足を踏み入れると、彼は後ろ手に扉を閉めた。錠前は床に落ちたままだ。
「おや、そんなに扉を見つめてもお前はここから逃げ出すことはできないぞ」
「そんなこと分かってる」
俺はベッドの上に起き上がり、鎖につながれた左足をじゃらじゃらと振って見せた。
「それで、なぜ俺が人質になってウィルが騎士団に無理やり入れられることが”最善”なんだ」
「まあ、結果的にお前を攫ってきたのはただの思いつきだ」
「俺はそんな行き当たりばったりで誘拐さたのか?」
「ああそうさ。お前を人質に取ったのはそれが一番手っ取り早いと判断したからだ。私の真の目的は、サフィルスを一刻も早く私の手で騎士団に入団させるところにあったからな」
シュナイダーは数歩進み、ベッドに座る俺を至近距離から見下ろした。
「お前のことは調べさせてもらったぞ、ルカ・フォーゲル」
ウィルとは違い、俺は正真正銘田舎暮らしのただの若者だ。王都に少し親戚がいるというくらいで、調べたところでこの食えない男の利になるような情報は何もないだろう。
「フォーゲルは母方の姓だな? フォーゲル家は先祖代々ノルエンデ村で医者をしている家系で、村の顔役も兼ねている。父親は王都から婿に入った薬の調合師……こっちは調べてみて驚いたぞ、ベルトラム家の次男だそうじゃないか」
そう、父さんは王都で名のあるベルトラム家の出身だ。ベルトラム家は薬やその原料を中心に扱う商家で、商売で成功しているだけでなく優秀な医師や調合師も多く排出しているらしい。とは言っても、父さんは次男坊で勝手に田舎に婿入りしてしまったという経緯もあってか、俺はベルトラムの家の人々には二回しか会ったことがない。
「お前は普段実家の診療所を手伝っていたそうだな。では、病人の看病や怪我の手当は慣れているな?」
「そう、だけど」
「図らずも良い拾い物をした。それに」
シュナイダーは不自然に言葉を切ると、俺の身体に覆い被さるようにしてベッドに手をつき乗り上げてきた。急に距離を詰められ動けないでいる俺の耳元に口を寄せる。
「コレは一体どういう能力だ?」
俺の右耳に疑問を吹き込むと、そのまま真っ赤な舌で俺の頬をべろりと舐め上げた。
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