16 / 29
14. 決断
「ちょっと待ってウィル、一緒に逃げるために迎えに来てくれたんだろ?」
「そうだ、お前を助け出そうと思ってここまで侵入した。けど気持ちが変わった。今決断したんだ、騎士団に入ろうって」
「俺が逃げ切れないから、俺を解放してもらうために騎士団に入るのか? そんなのだめだ!」
「これは俺自身のためだ。お前が気に病むことはない」
ウィルは自分の住んでいた集落に王立騎士団の第一部隊が攻め込んで来たのを目撃している。藍色の隊服を毛嫌いしていたし、第一部隊の名を耳にすることすら嫌がっていたのに。俺のために入隊するというなら、それは到底賛成できない。
「お前が攫われたとき……いや、本当はずっと前から考えていた。俺はなんて無力なんだろうって。魔術のことを学んで強くなるべきなんじゃないかって」
「そんな自分を卑下するようなこと言うなよ。銃が上手くて狩猟の腕も良いし、リヒターさんはお前のことを頼ってる。ウィルの魔術で便利な思いさせてもらうこともあるし。それに、俺はお前に助けられてばっかりだ」
「違うんだ、ルカ。助けられてるのは俺の方なんだ」
ウィルが俺に向かって笑いかけるが、その笑顔はどこか自嘲めいていた。眉を下げながらウィルが言葉を続ける。
「今回のことで痛感した。いくら大きな魔力を持っていても正しく使う方法を知らなければ意味がない。お前が連れて行かれた時だって、指を咥えて見ていることしか出来なかった。今も、この首輪ひとつ外してやれない」
「けど、転移魔法は自力で使えるようになったんだろ? 騎士団なんて入らなくったって……」
ウィルの言葉に食い下がるが、本当は分かっていた。しっかりと俺を見つめる双眸はもう既に決断している。俺が何を言ったってウィルはもう決めているのだ。その瞳はあの夜の彼の母親とそっくりだった。
「この国を厄災から救うとか、そんな大それたことは正直ピンときてない。けど、少なくとも、お前やあの村に何かあった時に守れる存在でありたい。強くなりたいんだ」
「ウィル……」
俺は別に、ウィルの気持ちを否定したい訳じゃない。純粋な不安と心配が大きいだけだ。こうなったらもう見守ることしか出来ないだろう。
わかった、と口を開こうとしたその時、ウィルの背後でがちゃりと扉の開く音がした。
「その言葉を待っていたぞ、サフィルス」
ウィルの肩越しに扉を見るとシュナイダーが小屋に入ってくるところだった。背後には小柄な青年が肩身が狭そうに立っている。
「王立騎士団第一部隊はお前を歓迎する、ウィルフリード・サフィルス。……いや、」
にこやかにしていたシュナイダーは言葉を切ると、顎に手を当て何かを逡巡した。
「サフィルスの姓は伏せてリヒターの方を名乗れ。ウィルフリード・リヒター、今日からお前は私の部下だ」
そう言ってシュナイダーはウィルへ右手を差し出した。その手に応えないままウィルが口を開く。
「ルカを解放しろ」
「口の利き方に気をつけろよ、リヒター。今しがた私はお前の上司になったんだ」
「……こいつを、解放して下さい」
眉根を寄せ、心底気に食わないという顔をしながらウィルが言った。
「断る」
「お前……どういうつもりだ!」
「入隊したらフォーゲルを解放するなどと誰が言った? こいつを解放するのは、お前が"この国を厄災から救ったとき"だ」
確かに、俺を攫ったときにシュナイダーはそう言っていた。だとしたら、ウィルがこの国を災厄から救う、その予言が実現するのは一体どのくらい先なんだ?
「ちょ、ちょっと待って! その間俺はずっと地下牢に閉じ込められなきゃいけないってことか?!」
「安心しろ、うちは働かざるもの食うべからずだ。ローズ」
「はい」と固い返事をして、シュナイダーの後ろにいた青年が一歩前に出た。シュナイダーがオレを指さして指示を出す。
「さっきも言った通り、こいつはお前のところに入れるから面倒を見てやれ。傷の手当てと食事が先だがな」
「承知しました、副隊長」
「ええと、それってどういう……」
「リヒターが訓練を積む間、お前はうちの衛生班に入れることにした。お前は診療所の子だろう? 知識と経験を存分に活かしてくれ」
人質として連れてこられたのに衛生兵として働かされるなんてどんな横暴だ。……いや、薄暗い地下牢に閉じ込められているよりはよっぽどマシだろうか。それに、牢の中でひたすらウィルの無事を願って迎えを待つよりも、側にいて少しでも彼を助けられる方がいいようにも思える。
「わ、分かった……いえ、分かりました」
「物分かりが良くて助かる。ああ、ただひとつだけ肝に銘じておけ。お前はあくまで人質だ。その首輪がある限り私にはお前の一挙手一投足全てお見通しだ」
しばらく逃げ出すことは考えずにおこう。俺は腹を括って頷いた。
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
魔性の男
久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。
最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。
そう、思っていた。
楽な片恋
藍川 東
BL
蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。
ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。
それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……
早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。
ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。
平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。
高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。
優一朗のひとことさえなければ…………
【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
続編・番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
王様の恋
うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」
突然王に言われた一言。
王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。
ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。
※エセ王国
※エセファンタジー
※惚れ薬
※異世界トリップ表現が少しあります
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 一月十日のアルファポリス規約改定を受け、サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をこちらへ移しましたm(__)m サブ垢の『バウムクーヘンエンド』はこちらへ移動が出来次第、非公開となりますm(__)m)