幼馴染が国を救う英雄になるまで俺が人質って本当ですか!?

シン

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14. 決断




「ちょっと待ってウィル、一緒に逃げるために迎えに来てくれたんだろ?」
「そうだ、お前を助け出そうと思ってここまで侵入した。けど気持ちが変わった。今決断したんだ、騎士団に入ろうって」
「俺が逃げ切れないから、俺を解放してもらうために騎士団に入るのか? そんなのだめだ!」
「これは俺自身のためだ。お前が気に病むことはない」

 ウィルは自分の住んでいた集落に王立騎士団の第一部隊が攻め込んで来たのを目撃している。藍色の隊服を毛嫌いしていたし、第一部隊の名を耳にすることすら嫌がっていたのに。俺のために入隊するというなら、それは到底賛成できない。

「お前が攫われたとき……いや、本当はずっと前から考えていた。俺はなんて無力なんだろうって。魔術のことを学んで強くなるべきなんじゃないかって」
「そんな自分を卑下するようなこと言うなよ。銃が上手くて狩猟の腕も良いし、リヒターさんはお前のことを頼ってる。ウィルの魔術で便利な思いさせてもらうこともあるし。それに、俺はお前に助けられてばっかりだ」
「違うんだ、ルカ。助けられてるのは俺の方なんだ」

 ウィルが俺に向かって笑いかけるが、その笑顔はどこか自嘲めいていた。眉を下げながらウィルが言葉を続ける。

「今回のことで痛感した。いくら大きな魔力を持っていても正しく使う方法を知らなければ意味がない。お前が連れて行かれた時だって、指を咥えて見ていることしか出来なかった。今も、この首輪ひとつ外してやれない」
「けど、転移魔法は自力で使えるようになったんだろ? 騎士団なんて入らなくったって……」

 ウィルの言葉に食い下がるが、本当は分かっていた。しっかりと俺を見つめる双眸はもう既に決断している。俺が何を言ったってウィルはもう決めているのだ。その瞳はの彼の母親とそっくりだった。

「この国を厄災から救うとか、そんな大それたことは正直ピンときてない。けど、少なくとも、お前やあの村に何かあった時に守れる存在でありたい。強くなりたいんだ」
「ウィル……」

 俺は別に、ウィルの気持ちを否定したい訳じゃない。純粋な不安と心配が大きいだけだ。こうなったらもう見守ることしか出来ないだろう。

 わかった、と口を開こうとしたその時、ウィルの背後でがちゃりと扉の開く音がした。

「その言葉を待っていたぞ、サフィルス」

 ウィルの肩越しに扉を見るとシュナイダーが小屋に入ってくるところだった。背後には小柄な青年が肩身が狭そうに立っている。

「王立騎士団第一部隊はお前を歓迎する、ウィルフリード・サフィルス。……いや、」

 にこやかにしていたシュナイダーは言葉を切ると、顎に手を当て何かを逡巡した。

「サフィルスの姓は伏せてリヒターの方を名乗れ。ウィルフリード・リヒター、今日からお前は私の部下だ」

 そう言ってシュナイダーはウィルへ右手を差し出した。その手に応えないままウィルが口を開く。

「ルカを解放しろ」
「口の利き方に気をつけろよ、リヒター。今しがた私はお前の上司になったんだ」
「……こいつを、解放して下さい」

 眉根を寄せ、心底気に食わないという顔をしながらウィルが言った。

「断る」
「お前……どういうつもりだ!」
「入隊したらフォーゲルを解放するなどと誰が言った? こいつを解放するのは、お前が"この国を厄災から救ったとき"だ」

 確かに、俺を攫ったときにシュナイダーはそう言っていた。だとしたら、ウィルがこの国を災厄から救う、その予言が実現するのは一体どのくらい先なんだ?

「ちょ、ちょっと待って! その間俺はずっと地下牢に閉じ込められなきゃいけないってことか?!」
「安心しろ、うちは働かざるもの食うべからずだ。ローズ」

 「はい」と固い返事をして、シュナイダーの後ろにいた青年が一歩前に出た。シュナイダーがオレを指さして指示を出す。

「さっきも言った通り、こいつはお前のところに入れるから面倒を見てやれ。傷の手当てと食事が先だがな」
「承知しました、副隊長」
「ええと、それってどういう……」
「リヒターが訓練を積む間、お前はうちの衛生班に入れることにした。お前は診療所の子だろう? 知識と経験を存分に活かしてくれ」

 人質として連れてこられたのに衛生兵として働かされるなんてどんな横暴だ。……いや、薄暗い地下牢に閉じ込められているよりはよっぽどマシだろうか。それに、牢の中でひたすらウィルの無事を願って迎えを待つよりも、側にいて少しでも彼を助けられる方がいいようにも思える。

「わ、分かった……いえ、分かりました」
「物分かりが良くて助かる。ああ、ただひとつだけ肝に銘じておけ。お前はあくまで人質だ。その首輪がある限り私にはお前の一挙手一投足全てお見通しだ」

 しばらく逃げ出すことは考えずにおこう。俺は腹を括って頷いた。



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