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16. 能力
「どういうことですか?」
俺はとっさに、同じ言葉を繰り返してしまった。魔力を増幅する力、そんなものが自分に備わっているなんて思ったこともないし、そもそもそんな能力が存在することすら聞いたこともなかった。
「握手をしたときもそうだったんだけど、君に触れたところから力が漲ってくる感覚がするんだ。それで多分いつもよりもたくさん魔力が使えて、怪我も完全に治せたんだと思う。首の痣と傷も治してみていいかな?」
自分では分からなかったが、攫われる時に散々絞められた首が痣になっているようだ。首輪を取ろうとして自分でつけた引っ掻き傷も多分たくさんある。
俺がこくりと頷くと、フィリさんは右手を俺の首に当てまた何かを呟いた。ふわふわとした暖かさを感じながら処置が終わるのをじっと待つ。
「あれ、この咬み傷は? 動物に噛まれたみたい」
「それはさっきシュナイダー副隊長に噛まれて……」
「あの人が? また不思議なことを……ああ、そうか」
フィリさんは何かに納得したような声をあげると、俺の首に顔を近付け噛み跡をぺろりと舐め上げた。副隊長といいフィリさんといい、この人たち他人を舐めるのに抵抗がなさすぎるだろう! 俺は両腕を突っ張ってフィリさんの身体を押し返した。
「ちょ、ちょっと何してるんですか!」
「やっぱり、君に触ってるだけじゃなくて君の血を摂取したほうが効果がありそうだな。血というか、体液? なんか良い匂いするし」
「ほんとにやめてください!」
フィリさんは俺の首筋に再度顔を近付けてスンスンと匂いを嗅いだ。昨日からずっと風呂にも入れていないんだから、汗臭いに決まってる。
「あはは、ごめんごめん。そんなに嫌がらなくても」
「魔術師ってみんなそうなんですか? 副隊長も容赦なく舐めてきたし……」
牢での出来事を思い出してげんなりする。
「それにしても、こんな能力聞いた事がないな。先天的なものなのか後天的なものなのか……君の親族に同じような能力を持つ人はいる?」
「いえ、聞いたことないですね。そもそも俺だって言われるまで知らなかったし。指摘された今も自分では実感ないです」
「魔力持ちが君に触れたら気付くとは思うけど、逆に言うと魔力持ちじゃなきゃ分からないだろうから、今まで君自身も能力に気付いてなかったんだろうね」
確かに、俺や家族を始め村の中には魔力を持っている人はいなかったーーひとりを除いては。フィリさんもそれに思い至ったのか、あれ、と首を傾げた。
「ウィルフリードくんは魔力持ちなんだよね?」
「そう、です……ってことは、あいつは気付いてたってことなのか……?」
「彼が君に何か言ったことは?」
「ないですけど、でも……」
思い返すとウィルはやたらと俺にくっついてべたべた触ってくるし、俺が泣いた時は目元にキスをしてくることが多かった。それってつまり、俺に触れたり体液を摂取して魔力を増幅していたのか……?
「そう言われてみるとあいつは知ってた気がする……」
「魔力の少ない俺でもすぐに気付いたんだ、彼は分かってたと思うよ」
そうなると、なんで俺に黙ってたんだろう。俺の能力を勝手に利用して後ろめたかった? 俺が知ったら、利用するのはやめろって言われると思った? 言ってくれれば、もっとウィルのためにしてやれることがあったかもしれないのに。
モヤモヤした気持ちを抱えて押し黙ってしまった俺に、フィリさんが優しく声をかけた。
「次に会ったときに聞いてみようよ。彼なりに何か考えがあったのかもしれないし」
「そうします……能力のことも、他にも何か気付いてるかもしれないし」
「そうだね。それにしてもさ……」
言葉を切ったフィリさんが俺の両手を取り、大きな瞳でじっとこちらを見つめた。
「ルカくん、魔力持ちの隊員たちに近付くときはくれぐれも気を付けてほしい」
「気を付けるって?」
「君に触れてると力がどんどん湧いてくる感じがしてすごく元気になるんだ……なんていうか、病みつきになりそう。樹液に群がる虫みたいに惹きつけられる。第一部隊には強い魔力を持った隊員がいっぱいいるから、そいつらに目を付けられたら面倒なことになるよ」
確かに、さっき廊下で見かけたような屈強な隊員たちに栄養剤替わりにべたべたくっつかれたり舐めまわされては困る。……考えただけでゾッとして鳥肌が立った。
「幸い君に触れるかよっぽど近付いて匂いを嗅がないと分からないから、できるだけ隠しておこう」
「そうします……」
俺はため息を吐きながらフィリさんの言葉に頷いた。
「そうじゃなくても、君、人気者になりそうな見た目してるから」
「人気者……?」
「ああ、そっちも自覚が無いんだね」
俺はまたしても頭にはてなマークを浮かべて聞き返すが、フィリさんはそれには答えてくれなかった。
「それにしてもさ、この能力のことがあるから副隊長は俺を君の教育係に指名したのかもね」
「確かに、魔力がある人じゃなきゃ気付いて貰えなかったですもんね」
「基本的に言葉足らずで冷たく感じるけど、あの人結構良い人なんだよ」
そう言ってニコリと笑うフィリさんに、今のところ俺は賛同することができなかった。
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