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25. 用心
扉から出ていく二つの背中を呆れ顔で見送った副隊長は、俺に向き直ると腰を屈めて手を伸ばした。
「立てるか」
「ありがとうございます」
素直にその手を取ると、見かけによらない強い力で引き上げられた。促されるままに立ち上がったけれど、膝が震えてふらついてしまう。副隊長に抱き止められ、初めて自分の全身が震えていることに気が付いた。
「す、すみません……」
「いい。診察室へ行くぞ。今は休憩時間だな?」
「はい、食堂に行くところでした」
副隊長に二の腕を支えられ倉庫を出ようとすると、廊下をばたばたと走ってくる足音が聞こえた。
「ルカくん? どうかした……って副隊長! え、どういう状況?」
開けっぱなしだった倉庫の扉からフィリさんが顔を覗かせた。そういえば彼を待たせたままだったと今になって気付く。
「ルカくん全然来ないしなんか慌てた奴らが走ってくるし、心配になって見に来てみたら……」
「ローズ、丁度いいところに来たな。休憩を潰して悪いがこいつを診察室まで連れて行け」
「それは良いですけど……ルカくん、大丈夫? 震えてる」
フィリさんが俺の背に手を回し身体を支えてくれた。俺は小刻みな震えが止まらず、両手で自分の身体を押さえて俯くことしかできなかった。
「暴行未遂だ。しばらく診察室のベッドで寝かせてやれ。お前たちの上司には私から伝えておく」
「そんな……犯人は走って行ったあいつらですよね」
「ああ。処分はきっちり下しておくから心配するな」
「お願いします。……行こうか、ルカくん。ゆっくりで良いからね」
「すみません、フィリさん。あ、あの! 副隊長も、助けて頂いてありがとうございました」
情けなくも震える声でそう言った俺を一瞥して、副隊長は何も言わずに扉を出て行った。
先程後にしたばかりの診察室に舞い戻った俺は、診察用のベッドに座ってフィリさんに背中をさすってもらっていた。震えはだいぶおさまってきたし怪我をしているわけでもないから、彼に付き添ってもらうことに申し訳なさを覚え始めていた。
「あの、フィリさん。もう大丈夫なので休憩行ってください」
「なに言ってるの。こんな状態で一人にしておけるわけないだろ」
「でも、申し訳ないです。休憩潰しちゃってるのもそうだし、フィリさんに忠告してもらってたのにあんな目に遭った自分が情けなくて」
「そんなの気にしないでよ! 忠告はしたけど、そんなの襲ってきたあいつらが百パーセント悪いんだから、ルカくんが気に病むことはないよ」
そうは言っても、今回の件は自分でも不用心だったと痛感した。俺の能力が"魔術師を惹きつける"ということを知っていても、まるで自覚がなかったから「気をつける」とは言っても全然行動が伴っていなかった気がする。
でも、無理矢理部屋に引き摺り込まれ押さえつけられて、心底実感した。ああなってしまったら俺は無力だ。魔術も使えなければ体術もできなくて、無抵抗のまま良いようにされるしかないのだ。
「……次からは本当に気をつけます」
「うん、そうしよう。俺もできるだけ一緒にいるからさ」
しばらくそうして二人で話していると、コツコツとドアをノックする音が鳴った。フィリさんが立ち上がり「はーい」と言ってドアを開けると、そこには額に汗を浮かべたウィルが立っていた。
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