幼馴染が国を救う英雄になるまで俺が人質って本当ですか!?

シン

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26. 距離




「ウィル! どうしてここに」

 ウィルはずかずかと診察室に入ってきたかと思うと、ベッドに座る俺の両肩をがしりと掴んだ。あまりの力の強さに、俺は思わずびくりと肩を震わせた。

「すまない……怖がらせたか」
「いや、大丈夫。びっくりしただけ」

 ウィルは弾かれたように俺の肩から手を離し、少し間を空けてベッドに腰掛けた。

「副隊長からお前が襲われたって聞いて……何をされた? 怪我は? 誰に襲われた?」

 矢継ぎ早に繰り出される質問に少しだけ気圧されながらも、俺はことのあらましを説明した。

「……ってことなんだけど、副隊長が助けてくれたから本当になんともないよ」
「未遂でも立派な暴行事件だ。許せない」

 そう言いながらウィルが俺に手を伸ばしたが、その手は俺の頬に触れる直前で引き戻され、彼は気まずそうに俺から目線を外した。
 てっきり撫でてもらえると思った俺は肩透かしをくらったような気持ちになって、なせだか少しだけ寂しさを感じた。咄嗟に反応することもできず、俺たちの間に気まずい沈黙が落ちる。

「ウィルフリードくんはお昼食べた?」

 助け舟を出してくれたのはフィリさんだった。明るい声をあげて空気を変えてくれるのはさすがだ。

「……いえ、まだです」
「それじゃあ俺、食堂行って何か簡単に食べられるもの貰ってくるから。ルカくんのことよろしくね。二人でゆっくり話しなよ」

 そう言ってフィリさんは診察室を出て行き、室内にはウィルと俺だけが残された。助けてくれたと思ったんだけど……結局二人でちゃんと話せってことか。
 とは言ってもここに来てから二人でしっかり話す機会もなくて、けれど色々ありすぎて何から話せば良いのか分からない。それはお互い同じだったようで、お互い口をつぐんだまましばらくの時間が流れた。こんなに気まずい思いをするのは十五年一緒にいて初めてだ。

「ええと……訓練はどう? 大変だろうけど体調悪くしてたりしない?」

 この二週間、勤務形態のまるで違う俺たちはほとんど会うことはなくて、たまに食堂や通路ですれ違っても軽く手を振るくらいしかできなかった。
 仕事の合間に実務部隊の訓練を遠巻きに眺めることが何度かあって、見かけた訓練はどれもが高度なものに見えた。

「特に問題ない。全体の訓練に参加するのは半分くらいで、後は特別メニューを組んで貰ってる」
「なら良かった。特別メニューって、魔術の?」
「ああ、魔術が中心であとは剣術と体術も少し」

 大丈夫だというウィルの顔を覗き込むように見てみると、目の下にはうっすらとクマができていた。顔や手には細かい傷やあざがいくつもあって、それなりに苦労している様子がありありと見て取れる。

「……無理すんなよ」
「ルカこそ、無理矢理こんなところて働かされて大丈夫なのか」
「俺? 俺は全然平気だよ。やってることは実家とあんまり変わらないしね」

 実家の診療所よりも随分規模が大きいし、患者の種類も全く異なるが、それでも医療器具や薬などはある程度知識があるから慣れるまでそう時間は掛からなかった。むしろ見たことのない薬などを見かけることもあって勉強になって嬉しいとすら思っている。

「そりゃあうちの実家では見たことないような設備も多くて大変だけど、どうせ働くなら村に帰った時に活かせるように新しいこと沢山覚えようと思ってる」

 元々来年には王都に来て診療所を継ぐための勉強をする予定だったのだ。それが一年早くなったと考えれば良い。

「お前は本当に前向きだよな」

 ウィルは呆れたように笑うと右手を俺の頭に伸ばし、けれどその手のひらは俺に触れることなく引っ込められた。そのまま手をベッドの上につき、ウィルは俺から目線を逸らした。
 多分、頭を撫でてくれようとしたんだと思う。けれどその手が引き戻されたのは、先程俺が怖がる素振りを見せてしまったからだろうか。

「……あのさ、前みたいに撫でてくれないの」

 思わず、どうでも良いことを言ってしまった。まるで俺がウィルに撫でてほしかったみたいな言い方じゃないか。
 しかしふと思い返せば、ここ二週間ウィルは全く俺に触ってこようとしなかった。村にいた頃はあれだけべたべたくっついて来たのに、だ。

「最近、その……俺のこと避けてたりする?」
「いや、そういう訳ではないんだが……」

 目を逸らしたままウィルが言葉尻を濁す。長年の付き合いだからわかる、これは何か後ろめたい事がある時の言い方だ。






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