神殺しの怪物と六人の約束

ヤマノ トオル/習慣化の小説家

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フォールドーン帝国編

第66話 VSタカ

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北ゲート。

正門とされる南ゲートの真反対に位置する北ゲートは最も攻め込まれる危険性があり、帝国としても北ゲートと東ゲートに名高い将を配置するということが定石となっている。

西ゲートが最も軽視され易く、正門である南ゲートは厳重に兵を配備しているため、未だに突破されたことが無い。
ムーの八岐大蛇を除いては。

この北ゲートに降り立ったのは、カナメル、タクティス、フルネスの三人だった。


カナメル「瞬間転移!?流石のムーでも不可能な魔術だ、どんなトリックだ?」

フルネス「分からん、しかしあの夜トゥールとムーもゲート前に飛ばされたと言っていた。おそらく飛ばせる場所は四つのゲートの前。他の皆も散り散りになっているはずだ」

タクティス「そうとなればここにこの三人が集まってしまったのは運が悪いな、俺達は分かれるべきだった」

カナメル「確かに、マツとドラは無事かな」

カナメルは何かを考えようとして、やめた。

カナメル「まぁ、大丈夫か」

フルネス「見ろ、ゲート前に誰かいる」

砂埃舞う真っさらな大地に、靡くボロ布を纏う男が仁王立ちしていた。

タクティス「タカ!?」

タクティスは早歩きで男の元へと向かう。

男の姿がハッキリと見える距離まで来て、男が静かにフードを脱いだ。

タクティス「やはりタカか!!無事で良かった。再生の女神が攫われたんだ、助ければタカの指輪も外せる!!お前がいれば百人力だ!」

大喜びのタクティスとは裏腹に、タカの表情は暗い。

タカ「はぁ、、、、どうしてタクティスがいる」

深く溜息を吐き、タカは目を閉じた。

タクティス「どうしてだと?再生の女神を助けに来たんだ」

タカ「違う、そんなことは分かっている。どうしてこの北ゲートにいるのかを聞いている」

タクティス「謎の男に飛ばされてだな」

タカ「ミスか罠か、いずれにしても俺は知ってる顔とは戦いたくない」

タクティス「戦うだと?」

タクティスが首を傾げる。
見兼ねたカナメルがタクティスの巨体を押し退けて前へ出た。

カナメル「要するに、あんたは帝国側の人間なんだろ?」

タカ「ああ、今はな。貸し出し中だ」

カナメル「トルコネの闘技場でのあんたの様子を見るに、あの無の神とやらに何かしらの取引を持ちかけられたな?」

タカ「その通りだ、今は奴の手駒として働いている。目的を達成するために」


フルネスは大剣を抜き、構えた。


フルネス「それで、今は帝国に貸し出されて北ゲートを守っているということで間違いないか?」

タカ「間違いない、だが間違いがあるとすればここには俺の知らない人間が飛ばされてくると聞いていた。タクティスがいるのは誤算だ。もちろん俺も再生の女神とやらには生きていて欲しい、セレスティア様の願いでもあるからな。だが、俺にはそれ以上に大切な目的があるんだ」

タクティス「昔言っていた、同じ部族の者か」

タカは顔色一つ変えずに淡々と語りだす。

タカ「そうだ、この十年間で俺の記憶はほぼ戻っている。俺はとある戦闘民族で同胞を最後の一人になるまで殺す使命があった。そして最後の二人になり、使命を果たすその時、無の神がやってきた。俺の使命はまだ果たされていない」

タクティス「北ゲートを守ることで、その使命を果たすチャンスはやってくるのか?」

タカ「無の神はそう言っている」

タクティス「信じるのか!?奴が俺たちに何をしたか、思い出せ!!」

タカ「全て覚えている。だが、目的を果たすためには無の神が必要だ。すぐにでも俺は使命を果たす義務がある。殺し、血肉としてきた民のためにも」

タカの魔術刻印がギュルギュルと音を立てて動き出す。

フルネス「タクティスさん、戦うしかなさそうだ。トゥールが、セリアが、待っているかもしれない」

タクティス「目を覚ませ!!タカ!!」


タクティスの叫びは虚しく響き、タカの返答は無い。

カナメル「俺に使命は無いけど、野望ならある。あんたの背負ってるものもさぞかし重いんだろうけど、こっちも止まるわけにはいかないんだ」

空間から炎剣カーマインを抜き、カナメルの左手はメラメラと燃え出した。

タカは動く気配が無く、相変わらずその場で仁王立ちをしている。

カナメルが小声でタクティスとフルネスに耳打ちする。

カナメル「ここで俺たちが足止めをくらうわけにはいかない。誰か一人がゲートを突破しよう。残った二人で彼を倒す」

タクティス「タカを倒すのは不可能だ、あいつの戦闘能力は俺たち六人の中でも群を抜いている」

フルネス「それはトルコネで身に染みて分かっている、だからせめて足止めをしよう。彼が他のゲートに援軍に行くことが最も恐るべきことだ」

カナメル「倒せないだって?やってみなきゃ分かんないじゃん」

カナメルはやれやれと言った具合に両手を広げている。

フルネス「善処はする。残るのは俺とタクティスさんだ。おそらくそれが最も生存率が高い」

タクティス「うむ、確かに」

カナメルは面白くなさそうに口を尖らせている。

カナメル「なーんでそう悲観的なんだろうな」

フルネス「それにカナメル、君には飛行型の召喚魔法がある。それはゲートを突破してしまえば使えるはずだ。それでいち早くゴッドタワーの頂上を目指してくれ」

カナメル「なるほど、それなら話は別だ。乗った」

カナメルはニヤリと笑い、左手に炎の魔力を集中させる。

カナメル「全てはただの目眩し、一瞬で良いから彼の動きを止められる?」

フルネス「やってみよう」

フルネスは大剣を地面に刺し、剣を通じて魔力を流し込む。




カナメル「行くぞ!」

掛け声と共に解き放つは無数の火の鳥、それが一斉にタカに襲いかかる。
タカは猛スピードでこちらに向かって来る、小鳥がタカに触れる度、小爆発を起こしているがタカには効いていないように見える。

一直線に向かってくるタカの足元に大きな魔法陣が現れ、タカは咄嗟に空中に飛び退く。

魔法陣から巨大な炎の柱が上がりタカを下から攻めるも、タカは波動拳でいとも簡単に相殺してしまった。

しかし、上空から迫る炎剣カーマインの存在に気付くのが遅れた。
タカは両手でカーマインを受け止め、そのまま地面へ直滑降に落ちていく。

タカ「次から次へと、ムーのような戦い方だな」

タカはカナメルを睨みつけるが、もうそこにはカナメルはいなかった。

後ろを振り返るとゲート前へ転移魔法で移動したカナメルが片方の口角を上げて生意気に笑っていた。

タカはすぐさまカナメルを追おうとしたが、自分が透明な球体の中に閉じ込められている事に気付いた。

フルネス「一応グレイスの守備隊長をしている、カナメルがゲートを破るまで、ここで大人しくしてもらう」

フルネスの超硬式防護膜で球体に閉じ込められたタカ。

タカ「舐められたものだ」

そう言うと、タカの右手に向けて魔術刻印がギュルギュルと流れ出し、右ストレートを放つとその手はなんと防護膜を貫通した。

フルネス「この防護膜は国家レベルの攻撃を防ぐほどの硬度を誇っている。それをこんなにあっさり貫通するとは」

カナメルはゲートの解読に苦戦しているようだ。

フルネス「カナメル!!急げ!」

カナメル「あれ、、、確か北ゲートの暗号はこれだったはずなんだけど、変えられたか」

防護膜を引き裂くため、穴を広げるように力を込めるタカ。

タクティス「俺に任せろ!!!」

タクティスが巨斧レオニダスを地面に叩きつけると大きな地割れが起き、球体ごとタカは地下深くまで落ちて行った。

タクティス「こんなものではお前は数秒後に地上に這い上がってくるだろう、ならば!!」

タクティスは地面に手をつけ、大量の地の魔力を流し込む。

タクティス「ジ・アース!!!」

タクティスの叫びと共に大地は揺れ、割れた地表が徐々に閉じていく。

数秒後には完全に元通りの大地となり、砂が風に乗ってどこかへ飛んでいった。

フルネス「流石ですね、あなた方は本当に恐ろしい力を持っている」

タクティス「褒め言葉として受け取ろう、だがタカは五分もあれば、またここに姿を現すだろう」

一部始終を観戦していたカナメルが小生意気に拍手をしている。

フルネス「解読は済んだのか?」

カナメル「いや、無理」

タクティス「俺が破壊しよう」

タクティスがレオニダスを構えた。

カナメル「いやいや、せっかくなら壊さずに入りたいじゃん?でもまぁいいか」

カナメルは左手をゲートにかざし、呪文を唱える。

カナメル「最大火力、エンハツ」

爆音と共に鋼鉄のゲートが吹き飛んだ。

カナメル「あんまりクールな入場じゃないな」

カナメルは赤いマントをたなびかせながら、フォールドーン内へと優雅に歩いていった。


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