上 下
94 / 229
混沌の北ゲート編

第94話 予期せぬ夢への第一歩

しおりを挟む
ムー「この世界にはあらゆる属性魔法が存在する。基本的な五属性とそこからの派生系、創造系、融合系、、、、その数は無限大である。しかしそれら全ては表の属性魔法として知れ渡っていて、属性魔法には実は裏と言われている二種類が存在するらしい、それが太陽の魔術と月の魔術だ。ここを見てくれ」

ムーは本を広げ、マイカへと説明を続ける。

ムー「ここだ、召喚魔法についての記述がある。召喚魔法は全て属性魔法の中の一つである。召喚魔法を使用する際は特定の属性魔法の発動によって成り立つ。しかし太陽と月に関しては例外である。これら二つの属性による召喚魔法では特定の属性として当てはまらないため、初回の召喚の際は不認知の属性として発動せざるを得ない。よって、裏属性魔法と呼ばれていて、この二つの属性を認識することは難しい」

マイカ「ほう、なるほどね」

ムー「更に本の最後の文章はこうだ。裏属性魔法の習得に決まった道は無い、よって扱える者は少ない。この本を手に取ったあなたは私のことを妄言者と判断するか、または魔法の極地へと至った者だと判断するはずだ。私はよく妄言者と非難された。それでもこの裏属性の存在を追求することが出来たのは、私自身が適正属性無しの人間であり、酷くバカにされた過去があるからである。今なら自信を持って言える、私には裏属性の適正があるが故に表の適正属性は無かったのだと」

ムーはニヤリと笑った。

ムー「要するに僕が言いたいことはこうだ。あの時、僕は特定の属性魔法を使用して八岐大蛇を召喚したわけではない、不認知の属性を自分の中で感じ、発動した。この本の内容を信じるとすれば、八岐大蛇は裏属性の可能性がある。信憑性を高めるのはこの最後の文章、筆者も適正属性が無かったということだ」

マイカ「え、なんかワクワクするねぇ!その仮説!確かめてみようよ」

ムー「ああ、当分は裏属性の研究に時間を使おうと思う。まだあの感覚は残っているからな」

マイカ「裏属性かぁ、考えたこともなかったなぁ。私も何か分かったら共有するよ」

ムー「ふん、まぁ天才魔術師である僕なら、そう時間はかからないだろう」

マイカ「否定出来ないのが腹立つわ」

ムー「ところでマイカ姐さん、今後僕達はどう動くつもりだ?ある程度外の世界でも戦えることを証明出来た、そろそろ次のアクションを起こすべきなんじゃないか?」

マイカ「そうね、、、、一つ考えていたのは、物理的に教団に近付こうと思うの。教団に近づけば近づくほどに変異体は強力になっていく、奴等は濃厚な魔力を好むから教団に集まるの。あの骨竜も何故ここに現れたかというと、ムーの五属性の強大な魔力を感知してやってきたんだと思う」

ムー「追放者を保護するには教団に近付くのは必須だな」

マイカ「うん、ここから散策するには限界があるからね。どうして五年もそうしようと思わなかったのか分からないけど、今なら踏み出せそうなんだ」

おそらく、弟さんの死がマイカ姐さんの行動を抑制していたのだろう。そのトラウマは幸か不幸か、記憶と共に消え去った、だから今なら踏み出せるのだろう。

ムー「そうと決まればすぐ行動だ、僕は五年も優雅に暮らす気はねぇからな」

マイカ「くぅ~言ってくれるね。この間までは先生のつもりだったんだけど、今となっては頼れる相棒だよ、ムー」

ムー「いや、まだまだマイカ姐さんには勝てねぇ。学ぶことはまだあるが、五属性Sランク達成の僕の夢は一つ叶ったわけだ。次はマイカ姐さんの夢の実現に向けて行動したい」

マイカ「ありがとう、じゃあ早速この家を畳もうか」

ムー「畳む?」

ムーはマイカに促されるまま外へと出る。

マイカ「木属性魔法展開!!木の葉還り!!」

マイカの詠唱によりカメレオンドーム諸共煙に包まれた。

ムー「ゴホッゴホッ!!、、、、なんだ?」

マイカ「これにて一件落着、引越し完了!」

マイカの手には一枚の木の葉が握られていた。

ムー「建物、家具、全てがその一枚の木の葉に収納されているのか」

マイカ「そーゆーこと、さぁ行こう」

二人は教団へと向かった。

~~~~~~~~~~~~~~~

ムー「おいおい、どーなってやがる」

教団外壁は人で溢れかえっていた。

泣き叫びながら壁を叩く人や静かに座り込む人、各々がパニックに陥っていた。

マイカ「私達が今このタイミングでここに来たのは、運命なのかもしれない。どうしてこうなっているのか理由は分からないけれど、今彼等を助けられるのは私達二人だけだね、ムー」

ムー「ふん、外の世界の生き方ってやつを叩き込んでやる」

マイカ「よし、手分けして皆を落ち着かせよう。冷静になれば夜までには全員生き残れる」

ムー「良いだろう」

「邪魔だ!!!!どけ!!!俺が壁を破壊してやる!」

遠くの壁から叫び声が聞こえた。

ムー「あっちは僕に任せろ、マイカ姐さんは他を頼む」

マイカ「うん、頼んだ」

ムーは声のする方へと駆け出した。






「炎術、プロミネンスフレア!!!」

S級属性魔法を展開しようとしている青年を見つけ、ムーは急いで接近する。

こんな大勢の人がいる場所でS級を放てば、怪我人が出る。

ムー「水術、アクアリウム!!!」

ムーは青年よりも早く水術を展開し、出だしの炎を鎮火した。

「何のつもりだ?」

ムー「その程度の魔術では教団の壁を破壊することは不可能だ。壁は壊せず多くの怪我人が出るという最悪の事態を防いでやったんだ、僕に感謝するんだな」

「お前何者だ」

ムー「天才魔術師、ムー様だ。そーゆーてめぇは何者だ」

サイラス「教団炎術部隊所属、サイラスだ」

ムー「ほう、何故てめぇのような正式な教団出身者が追放されてるんだ?」

サイラス「こっちが聞きたいね。今日の朝、大勢の人々が教団内で殺された、突然の出来事だった。上層部以外の者は全て追放されたようなもんだ」

ムー「そんな横暴はヤオウ大司教が許さねぇだろ」

ヤオウ大司教は教団のトップの人物である。
老年ではあるが魔術で勝てる者はいないと言われ、長い歴史のあるこの教団を現在導いている人物だ。

サイラス「そのヤオウ大司教が始めた横暴だ!!今教団内はヤオウ司祭の召喚魔法によるモンスターで溢れている。俺の妻も、、、、、やられた」

サイラスの後ろの少女が不安そうな表情でムーを見つめていた。

ムー「妻を殺され、娘を連れて逃げてきたって感じか」

サイラス「、、、、、、、、」

ムー「とにかく今は落ち着け、教団の壁を壊す術は今はない。それよりも明日を迎えるための行動をしなければ、ここで全員が死ぬ。僕はこの外の世界で生き抜く術を知っている、生きたければ僕に従え」

サイラス「、、、、、ああ、分かった」


徐々に協力者は増え、民衆は一箇所に集まった。

小高い青い木からマイカは民衆を見渡す。

ざっと五千人はいるだろうか。

きっと追放されたのはこれだけではない、もうすでに遠くへ行ってしまった人もいるだろう。

集めるだけで時間がかかり過ぎた、もう少しで夜が訪れる。

ムー「カメレオンドームで全員を包むことは可能か?」

マイカ「流石に全員は不可能、それにこの術は私が外の世界で作り出したオリジナルの魔法だから扱える者もいない」

ムー「じゃあどうする、もう夜が訪れちまうぞ」

マイカは魔法を使い、声を反響させた。

マイカ「この中で創造系の魔法を使える人は前へ!!」

ぞろぞろと人々が動き出し、前に出てきたのは五百人。

マイカ「外の世界では夜になると強力なモンスターが私達を襲います!!!皆で協力して、要塞を立てましょう!!」

マイカは五百人をまとめ、咄嗟に思いついた計画を話す。

全員で巨大な要塞を作るつもりだったがそれは難しかった、仕方なく各々が作れる最大の大きさの建造物を作ってもらうことになった。

創造系魔術師達は散り散りになり、各々建造物を建てた。

出来上がると人々はその建造物へと雪崩れ込んだ。

マイカ「待って!十人ずつ入れば全員入れるから!!」

しかしパニック状態の民衆は動きを止めない。

ムー「クソ、、、頭悪いのかこいつらは!!」

ムーも怒りをあらわにした。

マイカ「皆!!!落ち着いて!!!」

しかし、そうこうしているうちに夜が訪れた。

「ガァダァァァァア!!!!!」

空から、地面から、巨大な変異体が姿を現す。
明らかに昨日まで相手にしてきたものとはサイズが違っていた。

ムー「時間切れだ、マイカ姐さん!!!戦うしかねぇな!!」

マイカ「でも、、、夜通し戦うなんて無謀だよ」

ムー「それでも他に生き残る方法がねぇだろ!!」

ムーは八岐大蛇の召喚を試みるが出来そうもない。

ムー「クソ、、、やっぱり普通に殺るしかねぇか」

巨大な変異体はすぐに大勢やってきた。

建造物は簡単に破壊され、民衆は虫のように簡単に惨殺されていく。

ムーは目の前の変異体に魔法を放つ。

確実にダメージは入り、弱ってはいるが、変異体はムーへと襲いかかってきた。

ムー「S級魔法でも一撃で仕留められないか」

サイラス「プロミネンスフレア!!!」

強力な炎術により変異体は意識を失った。

ムー「ふん、やるじゃねぇか」

サイラス「あんたほどじゃないさ」

ムー「朝まで戦い続けることになりそうだが、大丈夫か」

サイラス「問題ない」

しかし五千人いたはずの民衆はたった数分で既に二百人ほどに減っていた。

マイカ「私が甘かった、ごめん!!皆集まって!!カメレオンドーム!!!!」

マイカは出来る限り範囲を広げ、今生きている者達をカメレオンドームで包み込んだ。

変異体達は匂いを嗅ぎまわりながらカメレオンドームの周りを捜索し出した。

ムー「とりあえず今日は眠れるらしい」

ムーは一息ついて魔法を消した。

サイラス「どっちにしても、今日俺は眠れそうにないさ」

サイラスの目から涙が溢れる。

「パパ」

娘が心配そうにサイラスの顔を覗き込み、サイラスは娘を抱きしめて嗚咽しながら泣いていた。

大切な人を失うのは、きっと、とても辛いことなんだろうとムーは改めて思った。


しおりを挟む

処理中です...