95 / 229
混沌の北ゲート編
第95話 サイラス
しおりを挟むヤオウ大司教の横暴から数ヶ月。
人々は外の世界での生活に慣れてきていた。
そんなある日のこと。
サイラスがムーのもとへやってきた。
サイラス「俺に、魔法を教えてくれ」
サイラスの突然のお願いにムーは驚いた。
ムー「てめぇは十分に魔法を扱えているだろ」
サイラス「ダメだ、この程度のレベルじゃ意味がない」
ムー「変異体を殺し尽くすつもりか?」
サイラス「殺し尽くすのは合っているが、対象が違う」
ムー「というと?」
サイラスは一呼吸おいてこう言った。
サイラス「教団を潰す」
ムー「だとしたら、確かにその程度のレベルじゃ意味がないな」
教団に妻を殺されたサイラスの身になれば、復讐へと走るのも納得がいく。
サイラス「ムー、お前は俺よりも遥かに強い。炎術しか使えない俺には限界がある」
ムー「限界なんてないね。属性適正に縛られているからそんな凡庸な思考になってしまうんだ」
サイラス「俺は適正属性、無しの人間だ。最初に覚えることが出来た炎術をひたすらに鍛えてきただけさ」
ムー「そうだったのか。てっきり炎の適正属性があるのかと思っていた」
ムーはサイラスを誤解していた。
教団に決められた適正属性にしたがって、教団の中でのうのうと生き、教団の敷いたレールの上を進んだだけの凡庸な人間だと思っていた。
ムー「僕に教えられることがあれば教えてやりてぇところだが、僕は人に魔法を教えたことがない。マイカ姐さんを頼ると良い、あの人は僕よりも強い」
サイラス「そうか、分かった」
サイラスは駆け出した。
~~~~~~~~~~~~~~~~
マイカ「その復讐を達成することで、誰かが幸せになれるのかい?」
マイカの質問にサイラスは真顔で答える。
サイラス「俺の心が満たされる」
マイカ「きっと満たされないよ」
マイカは即答した。
マイカ「その復讐は、誰の心も救わないし、君の心も傷つけるよ。ただ人を殺したっていう罪悪感に襲われると思うよ」
サイラス「そんなことはない。教団に恨みを持つ全ての人の心を救い、俺自身はそこで初めて自由になれる。教団を潰すことには大きなメリットがある」
マイカ「うん、実際はやってみなきゃ分からない。でも私は協力することは出来ない」
サイラス「そうですか」
マイカ「私が教えられる魔法は一つだけ、必要であれば習得しておくと良いよ。大切な誰かを守ることが出来るかもしれないから」
マイカは一枚の紙をサイラスへ手渡した。
サイラス「ありがとうございます」
サイラスは背を向けて歩き出した。
ムー「強くなるのに正当な理由が必要か?」
不意の声がけにマイカは振り向いた。
マイカ「あらムー、盗み聞きなんてらしくないじゃない」
ムー「たまにはらしくないこともしなくちゃ面白くないだろ?話を戻すが、強くなるのに正当な理由が必要か?」
マイカ「魔法っていうのはさ、人の人生を変えてしまうほどの力を持ってるんだよ。だからこそ出来るだけ、出来るだけさ、綺麗な心を持った人が使うべきだと思うんだ」
ムー「僕の心は綺麗だという認識で間違いないか?」
マイカ「うん、間違いないね」
ムー「ふん、、、、サイラスが教団に恨みをもつのは必然だ。僕の意見としては彼は強くなるべきで、教団は彼に潰されるべきだ。それに関して僕は興味ないが、サイラスにとっては意味のあることだと思う」
マイカ「うん、分かるよ、分かるけどね。今の彼に教えられることは何もない」
ムー「そういうものなのか」
マイカ「そういうものなの。あくまでも私はね。ムーはムーの思ったとおりにやれば良いんだよ」
ムー「そうか、、、、、僕はやっぱりサイラスの想いを無視することは難しい。やれるだけやってみる」
マイカ「それで良いと思うよ。さて、私は見回りに行ってくるね」
マイカはスキップをしながら家を出た。
ムー「さて、僕は指導プランを練ろうか」
~~~~~~~~~~~~~
翌日
ムー「サイラス、これを見てくれ」
ムーは一枚の紙をサイラスへ手渡した。
サイラスはその紙に目を通し、目を見開いてムーを見つめる。
ムー「見たら分かると思うが、最強の魔術師になるための手順を記載しておいた。大まかに分けて三つのステップからなっている。魔術総量の上限突破や基礎的なことは、もう既に炎術Sランク相当のてめぇには不必要だと判断して省いてやった。そのうえで一つ目のステップは五属性全てをSランクまで使えるようになること。それが出来れば二つ目のステップだ。属性を掛け合わせて融合系、派生系の属性の開発と性質変化をマスターしてもらう。そうすることで元の五属性は洗練され、尚且つ術のバリエーションが段違いになる」
サイラスの目に闘志が宿っているのを感じ、ムーは少しだけ嬉しかった。
ムー「三つ目のステップは裏属性の習得だ、これは僕もまだ到達出来ていない」
サイラス「裏属性とはなんだ?」
ムー「正直なところ分からない。だが存在する、僕は裏属性の魔法を意図せずに使ったことがあるから存在は確かだ」
サイラス「楽しみだな」
サイラスは笑った。
ムー「笑えるのは今のうちだ、僕はせっかちなんでね、ステップ1は十ヶ月で突破してもらう。本気で強くなる気なら、、、、」
ボォ!!
サイラスはその紙を燃やしてしまった。
サイラス「全て暗記した、よろしく頼む、師匠」
ムー「ふん、先生と呼べ」
ムーはこの時、この選択が最悪の事態を招くということを知る由もなかった。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる