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混沌の北ゲート編

第97話 太陽と月

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目が覚めたムーはすぐに駆け出した。

マイカ姐さんが危ない。

ムーは青い森をひたすらに走った。

サイラスは本気だ、それに明らかに強くなっている。

マイカ姐さんが負けるわけがないと思いながらも、ムーの心はざわついていた。






ムーは拠点へ辿り着いた。

カメレオンドームに守られ、二百人の住処となっていた拠点は無くなっていた。

正確には、溶けていた。

沢山あった家々も、人も、皆溶けてなくなっていた。

これはサイラスの仕業だということが、ムーには分かっていた。
何故なら、このグツグツと煮えている魔力はあの時の火球と同じ魔力だからだ。

水じゃ鎮火出来ない焔。

おそらく、サイラスを止められるのは僕しかいない。

そう確信していた。

ムー「マイカ姐さん!!」

ムーはあたりを見回した、しかしマイカ姐さんの姿はない。

ボォォオオオオ!!!

教団の壁付近で火柱が上がっているのが見えた。

締め付けれる肺を酷使しながら、ムーはまた走り出した。












そこには案の定、サイラスとマイカ姐さんが向かい合っていた。

サイラス「鬼ごっこは終わりだ」

ムー「待て!!!」

サイラス「ああ、先生。目覚めるのが早過ぎるよ」

サイラスはニッコリと笑った。

マイカ「ムー!!逃げて!!!こいつは凶悪過ぎ、、」

スパ!!

サイラスの人差し指から伸びる熱線がマイカの胴体を真っ二つにした。

ムー「マイカ姐さん!!!!!!!」

分離した上半身と下半身がバラバラに床へと落ちる。

ムーがマイカの元へと走り出したその時、サイラスの炎術が行手を阻んだ。

サイラス「見ない方が良いですよ、内臓が全て出ちゃってますから。今止めたのは私の優しさです」

ムーは完全に我を忘れていた。
怒りで拳が、身体中が震える。

ムー「全て間違いだった、てめぇとの時間は全て、間違いだった。マイカ姐さんは分かってたんだ、てめぇのそのねじ曲がった人格を」

サイラス「そんなこと言わないでくださいよ、私との時間があったからこそ先生も裏属性へと辿り着けたんじゃないんですか?私達が出会えたのは運命ですよ」

ムー「運命だとしたら、僕は神を呪い殺してやるよ」

サイラス「そうだ、この裏属性に名前をつけたんだ。太陽属性ってのはどうですか?触れたもの全てを溶かす、最強の魔法だ。もう、誰も私を止められない!!!」

サイラスは空へと掌を掲げた。

そこへ大量の魔力が集まり、巨大な太陽球が形作られた。

サイラス「先生言いましたよね?いつでも火球を出せるようにしておけって。出来るようになりましたよ。それにあの時とは威力もスピードも違う!!!いくら先生でも、これを消すことは出来ない!!!これを放てば、先生も教団も全て溶けてしまう!!!は、は、はははははは、ははは!!!!!!!!!!!!」

触れてもいないのに周囲の地面は溶け出している。
サイラスの圧倒的魔力に空間がねじ曲がっている。
その魔法はおそらく、この大陸を溶かすほどの破壊力を持っていることをムーは理解していた。

ムー「もう、守りたいものなんてない。ここで溶けてなくなっても良いかもしれねぇ。もしここにマイカ姐さんがいなければ、諦めてたかもしれねぇ」

サイラス「いなければって、もう死んじゃったじゃないですか!?もういないに等しいじゃないですか!!」

ムー「黙れ、僕は約束したんだ、エリート魔術師になるって!!見せなきゃなんねぇんだ」

サイラス「じゃあ見せてくださいよ!!!全て、終わりだぁぁぁあ!!!!!」

サイラスは太陽球を放った。
それはゆっくりとしたスピードではなく、豪速球で迫り来る。

まだ距離があるというのに皮膚が溶け出していく。

ムー「消すんじゃない、反転するんだ。僕はてめぇのように破壊する魔法を好むが、マイカ姐さんは好きじゃないだろうから」

ムーは太陽球へと手を伸ばす。

ムー「月明かり」

ムーの詠唱と共に強烈な光が目に入り込む、そして巨大な太陽球は一瞬で姿を消した、代わりに紫色の液状の蝙蝠が姿を現した。

サイラス「、、、嘘だ」

蝙蝠はフラフラと飛びながらサイラスへと近付き、皮膚へと浸透していく。

すると

サイラス「ウガァダァダァァァァアァァァア!!!!!」

突然サイラスの身体はグツグツと煮え出し、その場で溶けてなくなった。

ムー「強い魔術師こそ、僕には勝てない」

ムーはすぐにマイカの元へと近寄った。

ムー「マイカ姐さん!!」

マイカはかろうじて動く腕で切断面に治癒魔法を行使していた。

マイカ「、、、、ムー、裏属性、、、習得したんだ、ね」

マイカは手を止めた。

ムー「見せられて良かった、、、、マイカ姐さん、僕はまだ諦めていない。上半身と下半身をくっつける、僕なら出来る、出来るはずだ!!」

マイカ「、、、君なら本当に、、出来てしまいそう、だよ。でも良いんだ、、ムー、、、、」

もはや血の通っていないマイカ姐さんの手を、ムーは握りしめた。

ムー「出来る、何故なら僕は、エリート魔術師だから!!!マイカ姐さんの弟子だから!!!まだあなたを超えられてないんだ!!!だから死ぬな!!諦めるな!!」

マイカ「、、、、君と、、、話せずに、死ぬなんて、、ごめんだったか、ら、、、諦めずに、、繋ぎ止めてみたんだ、、、けど、、、もう、、、そろそろ、、だ、、ムー」

ムー「ダメだ、まだだ!!」

ムーは治癒魔法を行使したがもはや意味がないことは分かっていた。

マイカ「あーあ、、、、話せて、、良かった、、やってみるもん、だね、、、、、最後に、、これだけは、、言わせてよ」

ムーは溢れる涙を無視して、治癒魔法を行使し続ける。






マイカ「あのね、、、、、本、、当に、、、、」






マイカ「出会えて、、良かった」






マイカ「ありが、、、と、、」






マイカは静かに目を閉じた。

ムーの身体から紫色のオーラが溢れ出た。

ムー「、、、、、、、、そうか、治癒魔法じゃダメだ。絶対に助ける」

ムーは闇魔法を行使した。

マイカの上半身と下半身がくっついていく。

ムー「ほら、大丈夫だ!!僕ならやれる」

ムーの左足は黒く染まった。

ムー「まだだ、息をしてくれ、、まだだ」

ムーは闇魔法を行使した。
右足が黒く染まっていく。

しかしマイカはびくともしない。

ムー「まだだ!!!」

ムーは闇魔法を行使した。
左腕が黒く染まっていく。

ムー「まだだ!!!!諦めるな!!!」

ムーが闇魔法を行使しようとした時、後ろから声をかける者がいた。

「闇魔法で人を生き返らせることは出来ぬ、人の死は、誰にも変えられぬ。神でもじゃ」

ムー「てめぇは、、、ヤオウ大司教」

そこにいたのは教団のトップ、ヤオウ大司教だった。

ヤオウ大司教「膿も、いくつもの悲しい別れを繰り返してきた。長年生きると人の死に何度も直面する。生き返らせる術があるとするならば、手にしたいと思うのは必然ではなかろうか?」

ムー「、、、、、、、、」

ヤオウ大司教「まぁ良い、合格じゃ。紫のオーラの発現はオマケ程度じゃがお主の魔力はとてつもない。最後の最後で闇魔法を行使し続け四肢を失ったのは痛いが、手駒としては十分じゃ」

ムー「、、、、、、、」


ムーは意識を失った。

意識を失う寸前にムーの脳裏に蘇ったマイカ姐さんは、いつものように笑っていた。



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