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マイケルの自空間編

第147話 託す想い

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タクティスの生還に一同は安堵した。

リリ「おかえり」

タクティス「ただいま戻った」

タクティスの身体を纏っていた緑のオーラが消えていく。

リキッド「あとはトゥールだけだな」

ムー「ところでクソ白衣。どうやってトゥールをこの空間に呼び込むつもりだ?」

マイケル「一人の時を狙うしかないだろうな。この空間へは霊的なモノしか通すことが出来ない、要するに君達六人しか入ることが出来ないということだ。もしツグルやカナメルが入ってしまった場合は、肉体共々次元の狭間に取り残されてしまうだろう。ついでに扉について説明しておこうか」

マイケルは咳払いをして話し始めた。

マイケル「この空間へと続く扉だが、入ることは出来ても出ることは出来ない」

ムー「、、、、テメェは馬鹿なのか?」

ムーは半笑いでマイケルの言葉を聞いた。

マイケル「実に不便だが仕方がない。これは魔法でもなんでもなく、無の神の魔法をコピーした科学技術だ。安定して発動させるためには容量を減らす必要があった」

リリ「じゃあ私達はずっとこの空間から眺めることしか出来ないってこと?」

リキッド「いや、何か考えがあるんだろ?」

リキッドがマイケルに問いかけた。

マイケル「ああ、もちろん。君達をこの空間に閉じ込めるつもりはない。厳密には出ることは出来るが、それは一度しか使えない。出た瞬間に無の神にこの空間の存在がバレてしまうからな、即座に消滅されかねないんだ」

ムー「ほう、じゃあ慎重にそのタイミングを計りたいってわけだな?」

マイケル「その通りだ」

タカ「ならば、トゥールがこの空間に来るのはまだまだ先になるというわけか」

ムー「デストロイヤーを倒すタイミングはいつになる?遅くてもツグルが無の神の前に到達する前に仕留めなきゃならねぇだろ」

マイケル「その通りだ。早いうちに倒してしまいたいが、正直まだ勝率は低い。トゥールに過去と戦ってもらって、、、、全員が全力を出して、五分五分といったところだろう」

タカ「そんなに強いモノなのか?」

タクティス「確かに、俺では全く歯が立たなかった」

リリ「私の最大火力のラジーヌライフルでも、全然効いてない感じだったね」

タクティスとリリは肩を落としている。

リキッド「そうか、二人は一戦交えたのか。タクティスの力も、リリの圧倒的な貫通力も効かないか」

マイケル「なんせ、数億人の魂と肉体が組み合わさったバケモノだからな」

リキッドは何かを閃いた。

リキッド「トゥールにも己の過去と戦ってもらうのであれば早い方が良いだろう。ムー、俺を通してトゥールを凍らせている氷塊を棺桶代わりに使うことは可能か?」

リキッドの突拍子もない発言に一同は驚く。

ムー「、、、、確かに、そもそもテメェの身体に纏わりついていたモンスターの記憶だ。テメェの魔法に残っているデストロイヤーの気配を手繰り寄せれば、、、不可能じゃねぇかもな」

マイケルは今すぐに始めようと言わんばかりにムーへと期待の眼差しを送る。

リリ「ちょ、ちょっと待って!今のトゥールが過去と戦うのは無理だと思うよ?多分あいつ今、闇の中にいるんだよ。よく分からないけど、過去を見てからおかしくなったと思うんだ」

リリがムーを止めた。

タクティス「過去に負ければ消える。そんなリスクを冒させるわけにはいかない」

タカ「迷っているトゥールほど、弱いモノはないからな。まだまだ先の話になるのなら、俺は一旦寝る」

タカは扉へと消えていった。

リキッド「確かにお前達の言うことも一理ある。だが、氷が解けた後のトゥールは果たして味方なのか?一時的だとは思うが敵と判断したから凍らせたんだ。トゥールが迷いを捨てるまで待っている時間はない。敵ならば過去と戦ってそのまま消えた方が世界のためだ」

タクティスがリキッドへと詰め寄った。

タクティス「リキッド、、、その言葉は聞き捨てならないぞ!!」

リリ「ん~、、、流石に酷い言い方だよね。確かにそうなんだけどさ」

ムー「、、、、、、、」

ムーは沈黙していた。

マイケル「仲間を想う気持ちは素晴らしいが、今は友情よりもすべきことに目を向けたらどうかね?」

リキッド「トゥールは甘ちゃんだからな、敵になる可能性も考えるべきだぞ」

ムー「甘ちゃんか、、、、確かにそうだな。だが、厳しさやら冷酷さってもんは、僕やテメェが持っていれば十分だ。トゥールには、トゥールにしか出来ねぇことがある」

最終的にトゥールを過去へと送り込むのはムーの役目であるが故に、決定権はムーにあった。

ムー「確かにテメェらの言うことは全て間違いじゃない。リリやタクティスの言うことも分かる、今トゥールを過去と戦わせるのはリスキーだ。だがマイケルとリキッドの意見も正しい。ツグルが死んじまったらゲームオーバーだ。今は何事も早い方が良い」

リリ「え~、でもさ、、、、」

ムー「だが、テメェらは誰一人、トゥールって奴を理解してねぇ」

ムーの身体から紫のオーラが流れ出す。

ムー「初めて六人が出会った時、記憶はなかったが僕には自殺願望があった。今なら分かるが、自分のせいで大切な人と場所を一気に失っちまったからだ。僕が最初に連続して自我失を起こしたのはそのせいなんだ」

リキッド「そういえば、最初に自我失を起こしたのはムーだったな。その後何度も、何度も」

ムー「そうさ、死ぬまで続けるつもりだった。それを血だらけになってでも最後まで止め続けてくれたのは誰だ?」

タクティス「、、、トゥールだ。俺たちは終わらない戦いに嫌気がさしてムーを置いていこうとした」

ムー「その通りだ、死なせてくれない爽やかな男に僕は問いかけたのさ。[何故そうまでして僕を救おうとする?]ってね」

ムーは笑った。

ムー「その男はこう言った。[ここがどこだか、君が誰だか分からんが、ここで死ぬのは面白くないさ。この白い空間の先に何があるのか、確かめてからでも死ぬのは遅くないだろう?俺はとりあえずこの空間から出る予定だ、んでその後は桜の木の下で昼寝をする予定だ。暇なら一緒に行こうぜ、背負うものなんてないんだから暇潰しには丁度良い冒険だろ?]血だらけの服を着て、笑顔でそう言いやがった」

リリはクスクスと笑った。

リリ「なーんか、トゥールの声で再生されたよ」

ムー「僕は少しだけ、その男の行く先を見てみたくなった。桜という名の植物の下で昼寝をすることがそんなに幸せなものなのか、僕には想像も出来ねぇからな。それから僕は自殺をしようなんて考えたことがない。それは何故か、トゥールが生きてやがるからだ。トゥールがまだどこかに行こうと、何かを掴もうともがいているからだ。確かにあいつは甘ちゃんで泣き虫で、自分じゃない誰かを優先し過ぎて間違った行動をとることもあるが、、、悲観的な未来へと進むような奴じゃない。いつだって未来を好転させるために四苦八苦してんだ」

リキッド「、、、確かにな」

リキッドが目を閉じた。

ムー「トゥールにどんな過去があるのか、僕は知らない。だが、何があったとしてもトゥールが僕達を導くと信じている。その行先に霧がかかっているのなら、僕が晴らしてやる。あいつが真っ直ぐに進めるように。。。」

ムーはリキッドの身体へと魔力を送り込み、リキッドがそれを氷塊へと飛ばした。

タクティス「トゥールの過去の者達も、きっとトゥールに救われていたんだろうな」

リリ「間違いないね、そーゆー星のもとに生まれてきた人なんだよねぇ」

ムー「大丈夫。大丈夫なんだろ?なぁ、トゥール」

ムーは願うように魔力を送った。

トゥールの肉体が棺桶から消えた。



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