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マイケルの自空間編

第161話 妻とのデート

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コケシは毎朝決まった時間に起き、弓を拭き上げる。
そして精神統一を行い、的に向かって弓を射る。

それを百回繰り返し、ようやく北方角の妖魔退治へと赴く。

トゥールとコケシの采配により、最近は妖魔の出現頻度も少なくなっていた。
北方角はもはや無法地帯ではなくなっていたのだ。

ストン!!

今日も的のど真ん中を射抜く気持ちの良い音が響き渡っていた。

トゥール「コケシ、おはよう」

コケシ「おはようございます」

トゥール「たまには二人で街でもブラつくか」

コケシ「な、、何を言ってるんですか?」

トゥールの突拍子もない言葉にコケシは目を丸くしていた。

トゥール「ちなみに北側への指示は既に出しておいた。今日は俺とコケシの出番はない。もう皆十分に動きを把握してるし、その成果は妖魔の数に如実に表れている。ってことでコケシさえ良ければ気晴らしに行こうや」

コケシ「北風と次北風が二人揃って遊んでいては民衆はもちろん、風の刃の者達にも示しがつかないと思います」

コケシは深呼吸をして、弓を引いた。

ストン!!!

矢は真っ直ぐに飛び、的のど真ん中を射抜いた。

コケシはもう一度弓を引いた。

トゥール「それなら心配ないさ。今日は妻とデートだから頼んだよって言ったら、皆ニヤニヤして了承してくれたよ。俺はともかく、常に誰よりも努力してるコケシに文句を言える人なんていないからね」

コケシ「、、!!!!」

ギシ!!!

矢は的を大きく外れ、支柱に突き刺さった。

コケシ「、、、、、」

コケシは何やらソワソワしているように見える。

トゥール「お、コケシが的を外すところなんて初めて見たよ」

コケシ「もう、、集中なんて出来ませんよ」

コケシは弓を片付けた。

トゥール「ごめん、邪魔をするつもりはなかったんだ。気晴らしにどーかなぁと思っただけで、、、」

コケシ「行きます」

トゥール「え?」

コケシ「あなたのせいで集中が途切れたので、責任をとってもらいますから」

コケシは自室の方へと歩いて行った。

トゥール「あれ、怒らせちまったか。でも行くって言ってたな~」

一時間後

コケシ「お待たせしました」

トゥール「思ったより待ったわぁ」

コケシを見たトゥールは驚いた。

コケシ「、、なんでしょうか」

背中にはいつも通り和弓を背負っているが、見るからにいつもとは違う格好をしていた。
しっかりと化粧をして、綺麗な羽織を羽織っている。

トゥール「え、めっちゃ可愛いやんけ」

コケシ「今日はデートなのですから、これくらいは当たり前だと思いますが?」

コケシは目も合わせずに歩き出した。

トゥール「俺も何かこう、お洒落しなきゃ釣り合わねぇわ」

コケシ「トゥール様、風の刃の装衣以外の衣服を持っていないでしょう?」

トゥール「そういえばそうだった」

コケシ「そのままでも十分にかっ、、、か、刀をお忘れなく!あくまでも私達は風の刃なのですから」

トゥール「もちろん、肌身離さずってやつですわ」

トゥールはコケシに並んで歩き出した。

~~~~~~~~~~~~~~~~

街に出ると、珍しい二人組に民衆は歓声を上げた。

「お!!!トゥール!!!コケシ様とデートか!?」

「トゥール~コケシ様を泣かすなよ~」

「トゥールじゃん!!今日はコヘと一緒じゃないんだな」

トゥールが街を歩くだけで人々は笑顔で寄ってきた。

トゥール「おいおい、どう見たってデート中だろってぇ。邪魔すんなよ~?」

トゥールは笑いながら民衆と会話をしている。

その光景がコケシは不満だった。

コケシ「皆さん!!ここにいる方は北風であります。トゥール様ですよ。気安く話しかけられては困ります!」

コケシの声に民衆は一気に静まり返った。

静寂を破ったのはトゥールの笑い声だった。

トゥール「ぷっ、、、はっはっはっは!!!今更俺に様をつけられる奴なんていねぇだろ?いや、でもマジで皆忘れてるべ!!俺が北風だってこと。でもそれで良いよ、それくらいで良い。俺はコケシやコヘと違って名家の出でもない。ただ運良く北風になっただけだから」

「そういや北風様だったな、忘れてた!!悪かったよ」

トゥール「やかましいわ!」

民衆は一斉に笑い出した。

街を歩くにつれ民衆はいなくなり、トゥールとコケシはようやく二人だけの空間を作ることが出来た。

トゥール「確かに今思えば、もはや俺に様をつけてくれるのはコケシくらいなもんだなぁ。風の刃の皆も呼び捨てだし。というか呼び捨てで良いよって俺が言ってるんだけどね。コケシもトゥールで良いのに」

コケシ「断じて否です。トゥール様は北風なのですからもっと自覚を、、、」

トゥール「いや、でも逆に特別感あって良いな」

コケシ「というと?」

トゥール「妻専用の呼び方っぽくて、良いじゃん」

コケシ「な、、、、」

コケシは頬を赤くしながら立ち止まった。

トゥール「なーんか俺も夫専用の呼び方考えるかな」

「お!!トゥール!!!久しぶりだな!」

突然の呼びかけにトゥールは前を見た。

そこには甲冑姿のショーヘイがいた。

トゥール「おおおおお!!!ショーヘイじゃん!!!超久しぶり!!なんだよその格好は」

ショーヘイ「お前の活躍は足運びをしながら耳にしてたよ。それで俺も何か新たなチャレンジをしようと思って、侍になったんだ。今日は運良く都での警備に当たってたってわけだ」

侍とは甲冑に身を包み、街の治安を維持することを目的とする武装集団である。

妖魔を殲滅することが目的の風の刃とは違い、人助けがメインなのだが、風を操る風の刃の力の前にその存在は霞んでいる。

トゥール「そうだったのか!!!」

ショーヘイ「お前北風になったんだって!?凄いじゃん!足運びをやってた頃はそこらへんの常識すら知らなかったけど、今ならその凄さが分かるよ」

トゥール「確かにな~俺もあの頃は風の刃のことも都のことも何も分からなかったからな」

ショーヘイ「ところでそこの女性は?」

トゥール「あ、紹介するわ。俺の嫁の」

コケシ「、、!!!!!!」

コケシは顔から湯気を出し、走り去ってしまった。

ショーヘイ「どっか行ったぞ?」

トゥール「どうしたんだろうなぁ、具合悪いのかな。悪い、ちょっと追いかけるわ」

ショーヘイ「おう!俺も仕事に戻るぜ」

トゥール「妖魔には気を付けろよ!!まぁ俺が全部守ってやるから問題ねぇか」

ショーヘイ「はっ!都を守るのは俺の仕事だっての!じゃあな」

カシャカシャと甲冑の擦れる音を鳴らしながらショーヘイは歩いて行った。

トゥール「コケシ、小便でも我慢してたのかぁ?」

その時、都にとてつもなく大きなドラの音が響き渡った。

「西に超大型妖魔出現!!!皆さん!!外には出ないように!!」

花の城からキムキムの声が風に乗って届いた。

「西風のカミヤ、東風のタケル、出番じゃ」

続いて巫女様の声が届いた。

トゥール「超大型、、、、一旦城に戻るか」

トゥールは急いで城へと戻った。




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