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マイケルの自空間編
第160話 桜の木の下で
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「大人になったら結婚しようね」
そう言って黒髪の少女が笑っている。
妖魔が度々現れる東の端の村でトゥールはサクラと出会った。
村人達は周囲を警戒し、妖魔から隠れる術を身につけていたがその生活は常に死と隣り合わせだった。
東の端の村には約三百人程の人々が肩身を寄せ合って暮らしていた。
中でもサクラの親の営む茶屋は評判が良く、妖魔の少ない時期に隣町から足を運ぶ人もいたくらいだ。
そこの看板娘であるサクラは整った目鼻立ちも相まって人気者だった。
恥ずかしがり屋なサクラは人混みを避け、いつもトゥールの所へと逃げ込んできたのだった。
幼い頃に親を亡くしたトゥールは孤児が集まって奉仕活動をする寺の中で育った。
トゥール「結婚って、具体的に何をするんだろう?」
サクラ「チューするんだよ?」
トゥール「、、、、」
サクラ「、、、、今のうちに練習しとく?」
トゥール「そうするか、、いや、でも」
思春期の二人にとってチューをするという行為は心臓が破裂してしまう程の破壊力があった。
トゥール「あ、じゃあ目を瞑って」
サクラ「うん、、、」
~~~~~~~~~~~ー
花の都内には桜が咲き並んでいる。
その下で、トゥールは昔を思い出しながらサクラを待っていた。
トゥール「あの時チューしときゃ良かったよなぁ~おバカ」
少しだけ話がしたいと茶屋にて言われ、この場所を指定されたのだった。
サクラ「お待たせ」
長い黒髪がサラサラと風に揺れている。
トゥール「赤ん坊は大丈夫なの?」
サクラ「うん、少しだけなら」
口元の右下のホクロが昔と変わらずに彼女を少しだけ大人に見せる。
トゥール「、、、、、」
サクラ「、、、、、」
トゥール「あ、、、」
サクラ「あ、、、」
二人同時に口を開け、二人同時に口を閉じる。
トゥール「あ、いや、、、こんなに近くに住んでたなんて、知らなかったなぁ~と思って」
サクラ「そうだね。私は数ヶ月家の中で過ごしてたからね。でもトゥールの活躍はよく聞いてたよ?それが私の知ってるトゥールだとは思ってなかったけど」
トゥール「そう、俺結構大物になっちゃったんだよねぇ。自分で言うのもあれだけど、、、、」
サクラ「風の刃になるだけでも凄いのに、北風になるなんて本当に凄い!今でも信じられないもの。北風様と二人きりでお話してるなんて」
トゥール「北風様なんて言い過ぎだよ。俺は昔となんら変わらない、ただのトゥールですわ」
サクラ「全然言い過ぎじゃないよ、凄いよ!でも本当に変わってないね。昔のそのままのトゥールで安心したよ」
トゥール「まぁね、でもそりゃ北風ですから。妖魔もちゃんと倒せるように強くなりましたわ」
サクラ「そうなんでしょうねぇ。私が妖魔に襲われた時は、きっと北風様がシュン!っと飛んできて、スパッと倒してくれるんだろうなぁ」
サクラは目を細め、わざとらしく微笑む。
トゥール「そりゃそーだろうさ」
サクラ「絶対だよ?」
トゥール「おうよ」
サクラはニッコリと笑ったが、その後徐々にその笑顔が消えていった。
サクラ「私ね、実を言うと、ずっとトゥールのことが忘れられなかったんだよ」
トゥール「!!!」
真剣な眼差しで呟くサクラの言葉に、トゥールは胸の奥が痛むとはこういうことなのかと悟った。
サクラ「まさか会えるなんて思ってなかったから」
トゥール「た、確かにな」
確かにな、、、他に言うことがないのか、心の中で自分にツッコミを入れる。
サクラと会うために、妖魔に遭遇するかもしれない山道を駆け抜け都に近付いた。
そして足運びとなり都へと出入りすることに成功した。
風の刃となって都に住み、ようやく想い人に出会えたのだ。
忘れられなかったのはトゥールの方だった。
サクラ「こんなこと言ったら困っちゃうよね、ごめんね」
トゥール「いや、、、、、」
サクラの顔が少しづつ近づいてくる。
いや、近付いているのは自分の方か?
これは気のせいではない、どちらが近付いているのか、どちらも近付いているのか。
潤んだその大きな瞳が大きくなっていく。
ゴクリ、、、、
これは念願のチューなのか?チューなのか!?
トゥールは固唾を飲み込んだ。
しかし、脳裏にコケシの顔が浮かぶ。
トゥール「ダ~メだなぁ」
サクラ「え?、、、あ、、ごめんね」
サクラはスッと距離をとった。
もうどうしたら良いのか分からなかった。
自分の心に従うべきか、世の道理に従うべきか。
サクラは黙ったままである。
その時、一人の女性が姿を現した。
コケシ「トゥール様、こんな所で油を売っている場合じゃありません。仕事が山積みなんですよ?」
トゥール「あ~!!ごめん、すぐ行くよ!」
トゥールは急いで立ち上がった。
トゥール「サクラ、ありがとう。俺は北風として頑張るよ。元気でな!」
サクラ「、、、、うん」
歩き出したトゥールだったが一目見ようと後ろを振り返った。
サクラは少し悲しげに笑みを浮かべ、手を振っている。
トゥール「コケシ、待たせたな。今日中に北方角の配置を組むからサポート頼んだ」
コケシ「最初からそのつもりです。ところで今話していた女性は何者ですか?」
トゥール「ただの幼馴染だよ」
コケシ「そうですか。そう安易と民衆と会話するのは」
トゥール「北風としての自覚が足りない、だろ?」
コケシ「分かっているなら良いんです。行きましょう」
これがサクラとの永遠のお別れになるとは、この時のトゥールは思っていなかった。
そう言って黒髪の少女が笑っている。
妖魔が度々現れる東の端の村でトゥールはサクラと出会った。
村人達は周囲を警戒し、妖魔から隠れる術を身につけていたがその生活は常に死と隣り合わせだった。
東の端の村には約三百人程の人々が肩身を寄せ合って暮らしていた。
中でもサクラの親の営む茶屋は評判が良く、妖魔の少ない時期に隣町から足を運ぶ人もいたくらいだ。
そこの看板娘であるサクラは整った目鼻立ちも相まって人気者だった。
恥ずかしがり屋なサクラは人混みを避け、いつもトゥールの所へと逃げ込んできたのだった。
幼い頃に親を亡くしたトゥールは孤児が集まって奉仕活動をする寺の中で育った。
トゥール「結婚って、具体的に何をするんだろう?」
サクラ「チューするんだよ?」
トゥール「、、、、」
サクラ「、、、、今のうちに練習しとく?」
トゥール「そうするか、、いや、でも」
思春期の二人にとってチューをするという行為は心臓が破裂してしまう程の破壊力があった。
トゥール「あ、じゃあ目を瞑って」
サクラ「うん、、、」
~~~~~~~~~~~ー
花の都内には桜が咲き並んでいる。
その下で、トゥールは昔を思い出しながらサクラを待っていた。
トゥール「あの時チューしときゃ良かったよなぁ~おバカ」
少しだけ話がしたいと茶屋にて言われ、この場所を指定されたのだった。
サクラ「お待たせ」
長い黒髪がサラサラと風に揺れている。
トゥール「赤ん坊は大丈夫なの?」
サクラ「うん、少しだけなら」
口元の右下のホクロが昔と変わらずに彼女を少しだけ大人に見せる。
トゥール「、、、、、」
サクラ「、、、、、」
トゥール「あ、、、」
サクラ「あ、、、」
二人同時に口を開け、二人同時に口を閉じる。
トゥール「あ、いや、、、こんなに近くに住んでたなんて、知らなかったなぁ~と思って」
サクラ「そうだね。私は数ヶ月家の中で過ごしてたからね。でもトゥールの活躍はよく聞いてたよ?それが私の知ってるトゥールだとは思ってなかったけど」
トゥール「そう、俺結構大物になっちゃったんだよねぇ。自分で言うのもあれだけど、、、、」
サクラ「風の刃になるだけでも凄いのに、北風になるなんて本当に凄い!今でも信じられないもの。北風様と二人きりでお話してるなんて」
トゥール「北風様なんて言い過ぎだよ。俺は昔となんら変わらない、ただのトゥールですわ」
サクラ「全然言い過ぎじゃないよ、凄いよ!でも本当に変わってないね。昔のそのままのトゥールで安心したよ」
トゥール「まぁね、でもそりゃ北風ですから。妖魔もちゃんと倒せるように強くなりましたわ」
サクラ「そうなんでしょうねぇ。私が妖魔に襲われた時は、きっと北風様がシュン!っと飛んできて、スパッと倒してくれるんだろうなぁ」
サクラは目を細め、わざとらしく微笑む。
トゥール「そりゃそーだろうさ」
サクラ「絶対だよ?」
トゥール「おうよ」
サクラはニッコリと笑ったが、その後徐々にその笑顔が消えていった。
サクラ「私ね、実を言うと、ずっとトゥールのことが忘れられなかったんだよ」
トゥール「!!!」
真剣な眼差しで呟くサクラの言葉に、トゥールは胸の奥が痛むとはこういうことなのかと悟った。
サクラ「まさか会えるなんて思ってなかったから」
トゥール「た、確かにな」
確かにな、、、他に言うことがないのか、心の中で自分にツッコミを入れる。
サクラと会うために、妖魔に遭遇するかもしれない山道を駆け抜け都に近付いた。
そして足運びとなり都へと出入りすることに成功した。
風の刃となって都に住み、ようやく想い人に出会えたのだ。
忘れられなかったのはトゥールの方だった。
サクラ「こんなこと言ったら困っちゃうよね、ごめんね」
トゥール「いや、、、、、」
サクラの顔が少しづつ近づいてくる。
いや、近付いているのは自分の方か?
これは気のせいではない、どちらが近付いているのか、どちらも近付いているのか。
潤んだその大きな瞳が大きくなっていく。
ゴクリ、、、、
これは念願のチューなのか?チューなのか!?
トゥールは固唾を飲み込んだ。
しかし、脳裏にコケシの顔が浮かぶ。
トゥール「ダ~メだなぁ」
サクラ「え?、、、あ、、ごめんね」
サクラはスッと距離をとった。
もうどうしたら良いのか分からなかった。
自分の心に従うべきか、世の道理に従うべきか。
サクラは黙ったままである。
その時、一人の女性が姿を現した。
コケシ「トゥール様、こんな所で油を売っている場合じゃありません。仕事が山積みなんですよ?」
トゥール「あ~!!ごめん、すぐ行くよ!」
トゥールは急いで立ち上がった。
トゥール「サクラ、ありがとう。俺は北風として頑張るよ。元気でな!」
サクラ「、、、、うん」
歩き出したトゥールだったが一目見ようと後ろを振り返った。
サクラは少し悲しげに笑みを浮かべ、手を振っている。
トゥール「コケシ、待たせたな。今日中に北方角の配置を組むからサポート頼んだ」
コケシ「最初からそのつもりです。ところで今話していた女性は何者ですか?」
トゥール「ただの幼馴染だよ」
コケシ「そうですか。そう安易と民衆と会話するのは」
トゥール「北風としての自覚が足りない、だろ?」
コケシ「分かっているなら良いんです。行きましょう」
これがサクラとの永遠のお別れになるとは、この時のトゥールは思っていなかった。
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