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マイケルの自空間編

第159話 結婚

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次の日。

北風になったトゥールのもとを一人の女性が訪ねてきた。

コケシ「今日から次北風となります。コケシです。よろしくお願いします」

長身でスタイルが良く、ハキハキとした話し方にトゥールは圧倒された。

トゥール「えーと?次北風ってことは」

コケシ「今日からトゥール様の配偶者となり、共に北方角の妖魔を討伐することになります」

トゥール「え!?こんなあっさり決まるものなの?なんか挙式というか儀式というか、そういうのないの?」

コケシ「ありません。トゥール様は突然の推薦だったのでしょうけど、私はずっと前から次北風になることが決まっていましたので。ところでいつ頃から子作りを始めますか?」

コケシの問いかけにトゥールは笑い出した。

トゥール「んじゃ今から始めますか~」

コケシ「分かりました」

コケシは上着を脱ぎ出した。

トゥール「ちょちょちょちょっと待って!冗談だと思ったわ」

コケシ「風に選ばれた者は子を作る義務があるのですよ。ならば早い方が良いと思いますが?」

トゥール「あ、そんな義務があるの?全然知らされてないんだけど!!」

コケシ「暗黙の了解ですよ。強い者と強い者とで子を作ることによってより強い風が生まれる」

トゥール「そんな話をコヘから聞いたことがあったような、ないような~」

コヘの名前を出した途端、コケシの表情が変わった。

コケシ「ええ、そうですとも!あのバカ兄貴は父上と母上からもらった力のみで贅沢な生活を送っている。努力なんて言葉を知らないのでしょうね、一族の恥晒しです!」

バカ兄貴、コケシは確かにそう言った。

トゥール「え!コケシって、コヘの妹??」

コケシ「その通りです。一族の汚名を返上するためにも北方角の妖魔討伐に心血を注いで参ります!」

よく見るとコケシの背中にはコヘと同じような和弓が背負われている。

トゥール「兄妹なのに性格は真逆なんだなぁ。あ、あと心血は注がなくて良いよ、皆で協力すれば血なんて流す必要ないさ」

コケシ「そんな甘いことを言っていてはいけません。トゥール様は北風なのですから!!ちゃんと自覚をしてください。あんなバカ兄貴なんかと交友があるからダメなんです」

トゥール「そう言われてもなぁ、コヘは確かにマイペースな奴だけど良い奴だよ。それにあんなに強い奴を俺は見たことがない。超大型妖魔が現れた際は北風と南風が討伐にあたるんだろ?要するに俺とコヘは相棒ってわけだ、交流があった方が連携も取りやすいってもんだ」

コケシはムッとした表情でトゥールを見つめた。

コケシ「あまり花の都で民衆達と戯れ合わないようにしてください。品位に関わりますので」

バタン!!

コケシはそのまま部屋を出た。

トゥール「困ったもんだなぁ」

~~~~~~~~~~~~~~~

花の都のとある茶屋。

この茶屋は足運びをしていた頃にトゥールを頼って手紙を渡したお婆さんの息子が営む茶屋である。

トゥールとコヘはこの茶屋の団子を食べに定期的に足を運んでいた。

外にある長椅子に並んで、今日も団子を頬張っている。

コヘ「あっはははは!!!コケシが次北風か、そういえばそうだったなぁ」

トゥール「兄妹なのにそういう話しないのかよ」

コヘ「もういつから顔を合わせてないかすら覚えてないよ。そうか~コケシがトゥールの妻になるのか」

トゥール「おいおい、随分と人ごとだな」

確かによく見ると、端正な顔立ちは似ている。
戦闘力はコヘの方が上だが、身長は妹にとられてしまったようだ。

コヘ「あの通り堅苦しい人間なんだ。良い意味でトゥールが適任だな」

トゥール「どういうことだよ」

コヘ「前に言ったかもしれないけど、俺もコケシも名家の出なんだ。弓の元祖であり最強と言われた父とこれまた最強と言われた母から生まれ、幼い頃から厳しい訓練を積み、名家の名に恥じぬように指導されて生きてきた。俺はどうやら戦闘のセンスだけはあったらしく、苦労したことがなかったけどコケシは随分と苦労したようだ」

トゥール「そうなのか」

コヘ「育ってきた環境故に、民衆を下に見てしまっていたり、高価な食べ物しか喉を通さないようないらないプライドがコケシにもある。だから、トゥールが適任ってわけ」

トゥール「いや、コヘはそんなにこだわりが強くなかったじゃん?」

コヘ「まぁね、俺はその教えが面倒だからさっさと南風になって家を出たからね。大型だけ倒せばあとは何もしなくても良いと巫女様から言われて、こんな最高な環境はないと思っていたけど。トゥールに出会って、今までの自分は勿体無いことをしていたんだなぁと思ったよ。外にはこんなに素晴らしいものが眠っているんだから。部屋で眠っている場合じゃないってね」

コヘは美味しそうに胡麻団子を頬張っている。

トゥール「でもさ~いきなり配偶者になるって難しくないかぁ?」

コヘ「俺の時もそうだったよ」

トゥール「どーなの?この制度。なーんか違和感あるんだけど!愛があってこその結婚だろ?」

コヘ「そうかな?俺は別に良いけどね。だって勝手に結婚相手を選んでくれた方が楽だよ。そうでもしなきゃ俺は結婚なんてしないしね。むしろ良い制度だと思うよ」

トゥール「そうかぁ~?」

茶屋の中からお婆さんが顔を出した。

お婆さん「今日も来ていたんだね」

トゥール「団子が美味しくてね、気付いたらここにいるんだ」

お婆さん「そうだそうだ、私にも孫が出来てねぇ。北風様と南風様の顔を拝ませておくれよ」

トゥール「お、是非とも」

部屋の奥からお婆さんと赤ん坊を抱いた若い女性が出てきた。

その女性の顔を見て、トゥールは言葉を失った。

トゥール「、、、、サクラ」

サクラ「え!?トゥール?」

お婆さん「なんだい、あんたたち知り合いだったのかい」

トゥール「ずっとここにいたのか?」

サクラ「うん、お産が少し大変でね。トゥールが風の刃に、北風になってるなんて驚いた」

トゥール「、、、、まぁね」

コヘ「トゥール!見ろよ、マジで赤ん坊だ」

トゥール「うわ~めんこいなぁ」

その目鼻立ちはサクラにそっくりだ。

お婆さん「さてさて、そろそろ中にお入り!妖魔が現れたら大変だからね」

サクラ「あ、トゥール。また今度ゆっくり話そうね」

サクラは微笑みながら手を振り、茶屋の中へと入った。

トゥール「、、、、、、、」

コヘ「もしかして、前に言ってた恋人って」

トゥール「そう、今赤ん坊を抱いていた女性だよ」

コヘ「あっちゃ~、、、、、ドンマイだな」

トゥール「まぁ、、、俺も最早結婚してるわけだし。これで良かったんだよね」

コヘ「全然良くないって顔に書いてるぞ」

トゥール「いや、良いんだよ。良いに決まってる」

コヘ「探していた人にようやく会えたってのに、こんなこともあるんだなぁ」

トゥール「だーからよ。こんなに近くにいたなんてなぁ、もっと早くに会えていれば」

コヘ「会えていれば?」

トゥール「いやいやいや、風の刃である以上、会えていても!!だよな」

コヘ「俺が言うのもなんだけど、本当に諦めて良いの?」

トゥール「そうするしかないからね。まぁそれに、一番好きな人を想い続けて死ぬのも幸せなことかもなって思う。いやいや、もちろんコケシのことを一番に大切にするけどさ」

コヘ「そうかぁ。トゥールがそれで良いなら良いけどさ。規則なんてものは意外と簡単に破れるものだよ。風の刃の規則も、所謂世の中の結婚なんて規則も、全て破り捨てて二人で大陸の端っこで生きていくなんてことも出来るじゃん?」

トゥール「確かにな、今となっては妖魔と戦えるわけだし、、、、って、、ダメだダメだ!!何を言ってるんだコヘは!お前クレイジーだな」

コヘ「え?そうかい?割とトゥールっぽい思考回路で言ってみたんだけど」

トゥール「俺そんなにぶっ飛んでる?」

コヘ「結構変わり者だと思うよ」

トゥール「お前に言われたかねぇよ。とにかくこれで良いの、結果オーライ。俺は北風として生きていくと誓ったんだから」

光に反射する神刀夜桜を見つめ、トゥールは心を落ち着けた。



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