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マイケルの自空間編

第165話 コヘの最期

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都へと辿り着いたトゥールとコヘは、地獄のような光景を目の当たりにする。

溢れかえる妖魔と逃げ惑う民衆。

そこに風の刃の姿は無く、風を扱えない侍達が命を削って妖魔と対峙していた。

トゥール「何が起こってるんだ!?」

トゥールは倒れる一人の若者へと声をかけた。

「巫女様が連れ去られて、、、、風の刃は皆、、巫女様の救出に、、、」

コヘはその言葉を聞いて呟いた。

コヘ「ミドリが判断を見誤るわけがない、おそらく敵は全員で立ち向かわなければ勝てないほどの実力があったんじゃないかな?」

トゥールもコヘの推測は正しいと思った。
民衆嫌いのコケシだが、状況を正しく把握し、出来るだけ多くの者を救おうと動くはずだ。

コヘ「ちなみに巫女様はどこに連れ去られたんだ?」

「北です、、、北に行きました」

コヘ「皆無事だと良いな、どうする?トゥール」

トゥール「、、、、、、」

本来ならば風の刃として巫女様の救出に向かうのが最優先事項だろう。
敵が強者だと推測出来るのであれば尚更である。

しかし、トゥールは迷っていた。

この目の前に広がる地獄を無視することが出来なかったのである。

いや、もしかすると、自分は、、、、

コヘ「とりあえず、俺は巫女様を追うよ」

トゥール「、、、ああ、、、悪いな」

コヘ「トゥール!迷ったら君の自慢のスピードも決断力も台無しだよ。やるならやれ、じゃあまた後でな」

コヘは北へと向けて駆け出した。

コヘの言う通りだ。
考えて、悩んで、迷って、、、、、
そうこうしている間に救える命もあるだろう。

トゥールは刀に手をかけ、高速移動をしながら妖魔を斬り裂いた。

とにかく少しでも被害を少なくしなければ、闇雲に妖魔を討伐しているつもりだったが、無意識にその足取りはとある場所を目指していた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~

北へと進むコヘ。
その道の途中には風の刃の者達の死体が転がっていた。

人はいつか死ぬ。
理由があろうがなかろうが、小判を持っていようが持っていなかろうが、人は等しく死ぬ。
死について大した興味がないコヘにとっては感情的になるような問題ではなかった。

「あ、、、アぁあ、、、、」

しかし、コヘの目の前に現れたのは虚な目をした同胞達の姿だった。

コヘ「、、、?」

彼は目の前で刀を抜き、こちらへと襲いかかってきた。

瞬時に矢を放ち、その者の心臓を撃ち抜いた。
コヘの手に迷いはない。

だが、嫌な予感が頭をよぎる。

コヘ「敵は、操る能力があるのか。それは厄介だな」

コヘは風迅速を加速させた。

その後も虚な目をした風の刃が襲いかかってきたが、コヘの敵ではなかった。

コヘはトゥール以外とほとんど交流がなかったため、殺した者に知った顔はなかった。

その時、横から何者かが飛んできた。

すぐに弓を構えたコヘだったが、その顔を見て弓を下ろした。

コヘ「ミドリ」

それはコヘの妻であるミドリだった。

胸には風の矢が刺さっていた。
風の矢は時間経過で空気中に霧散する。
そして血がとめどなく流れ出る。

ミドリ「ごほっ、、ごほ、、」

心臓を撃ち抜かれたミドリはそのまま息を引き取った。

コヘ「ごめん。遅かった」

コヘはミドリが飛んできた方向へと弓を構え、迫り来る脅威に備えた。

現れたのは虚な目をしているコケシだった。

コヘ「、、!!!」

コケシは弓を構え、コヘを狙っていた。

互いに風迅速で素早く動きながら弾道をずらし合う。

高度な弓士同士の駆け引きの末、コヘの矢がコケシの胸を貫いた。

コヘはすぐに倒れたコケシの元へと駆け寄る。

血を吐くコケシを抱き寄せ、青白い顔を覗き込んだ。

コヘ「コケシ!、、、何があったんだ」

コケシ「あ、、トゥール様、、来てくださったん、、ですね」

どうやらコケシは視力も聴力も失っている様子だった。

コヘ「、、ごめん」

コヘは強くコケシを抱きしめた。

コケシ「最後に、、、トゥール様が、、来てくれ、、て、、私は、、幸せ、、で、、」

コケシはそのまま目を閉じた。

ああ、流石にこれは悲しいよ。

コヘの目から一筋の涙が流れた。

コヘはすぐに気持ちを切り替えて、巫女様を追った。

それからは襲ってくる風の刃の者はいなかった。
死体すらも見当たらなかった。

きっとミドリとコケシが最後の生存者だったのだろう。

だとすると巫女様の元へと辿り着くのは自分だろう。

そんなことを思っていると、その時は案外早くやってきた。

まだ北側の中腹付近だろうか。

少し開けた丘の上に、知らない老人と身動きを封じられた巫女様がいた。

老人「クックック、、、、やはりお主が生き残ったか。南風のコヘよ」

コヘ「お前は誰だ?」

無の神「儂は無の神。この世界を救済する者である」

巫女「コヘよ、やはり来てしまったか」

巫女様は悲しそうに俯いた。

無の神「予言の巫女、そして最強の戦士が揃った。もうこの大陸に用はない。さて予言の巫女よ、儂の行く先の終着点はどうなっているのか、予言せよ」

巫女様は笑い出した。

無の神「笑える結末か、それは面白そうじゃ」

巫女「ああ、存分に笑えるぞ。無の神である貴様が無に還るのだからな」

その言葉に無の神の表情が変わった。

無の神「ほう?この儂が死ぬとな?」

巫女「死ぬぞ。殺されると言った方が正しいか」

無の神「儂を殺せる者など、この世界に誰一人としておらぬわ」

巫女「いいや、貴様は殺される。過去と未来、全ての人の期待と願いを背負った一人の男に一刀両断にされるのじゃ」

無の神は笑い出した。

無の神「クックック、、、そうか、貴様は予言の巫女などではない。用済みだ」

無の神が巫女の頭を掴もうとしたその時。

風の矢が無の神の腕へと放たれた。

しかし、矢は無の神の腕へと命中する前に消え失せた。

無の神「おっと、儂に攻撃は効かぬ。お主は優秀な戦士じゃが、儂に勝つことは不可能じゃ」

コヘ「強射、、、旋風、、、魔王!!」

強烈な一撃が無の神を襲ったが、それもまた無の神の前で霧散した。

巫女「妾は全ての結末が見えておる。故にタケルが何をするのかも知っていた。すまんなコヘ、其方には損な役回りを任せてしまって」

コヘ「いえ、別に良いですよ」

コヘは弓を背負い、地面に寝転んだ。

コヘ「眠くなりました」

巫女「、、、分かっておる。次に其方が何をするかも。すまんな、苦労をかけた」

巫女様は静かに泣いていた。

コヘ「全ての人の期待と願いを背負えるような男を俺は知っているよ。まぁ残念ながら俺はその人じゃない」

無の神「それで良い、お主は儂と共に覇道を歩むのじゃからのぅ」

コヘ「いいや、それも違う。俺は食って寝て、平和な世界を満喫したいだけなんだ。そのためにもお前を倒したかったんだけど、どうやらそれは本当に無理らしい。それにその~世界に平和をもたらす男はね、とっても心優しい人なんだよ。無の神さんは人を操る能力があるんだよね?」

無の神「流石に隠せないのぅ。もちろん、操ることなど簡単なことじゃ」

コヘ「だったらダメなんだよ。その男はさ、優し過ぎて、色んな人のことを考えて、迷うと何も出来なくなるんだ。俺が操られてしまったら、きっと彼は戦うことを諦めてしまうだろうから」

コヘは右手に風を集めた。

巫女「コヘよ、跡形もなく、逝け」

巫女様は静かに呟いた。

コヘ「そのつもりですよ」

コヘは風の矢を自分の心臓へと突き刺した。

そしてその矢は爆散し、コヘの身体は跡形もなく弾け飛んだ。

弾け飛んだ血飛沫を浴びて、巫女は目を閉じた。

無の神「そうか、粉々になっても繋ぎ合わせて手駒にする技術が今後必要じゃな。優秀な個体は残しておきたい。さて、最後に言い残したことはあるか?」

巫女「お前の負けだ、無能な神よ」

巫女は首を切られ、その場に転がった。












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