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マイケルの自空間編
第163話 キムキムの遺言
しおりを挟む霧がかかる西の山岳地帯を風迅速で駆け抜けるトゥール。
遥か遠くに黒い巨影が浮かび上がっている。
トゥール「大型は村をひと踏み出来るサイズだった。超大型は、、、、あれだと言うのか?」
あの巨影が実際のサイズだとすれば、あれが歩くだけで西側の大陸は無くなってしまうだろう。
その時、耳に聞き覚えのある風鈴の音が入ってきた。
チリンチリン
トゥールは音の鳴る方を見た。
木陰に血だらけで座り込むのは、正真正銘キムキムだった。
トゥール「キムキム!?何があった!?」
キムキム「あ、、あぁ、、やっぱり来てくれたか、トゥール」
キムキムは掠れた声でニヤリと笑った。
トゥール「一人の風の刃が都を訪れた、カミヤさんとタケルさんがやられたってのは本当なのか!?」
キムキム「いや、、、それは嘘だ。。。皆を混乱させたくなかった、、からね」
キムキムの口から血が溢れ出す。
よく見ると、その腹部には刀の斬り傷がある。
トゥール「、、、キムキム、もう喋らなくて良い。すぐに都に戻るぞ」
キムキム「ダメだ!!、、、、トゥールはこのまま超大型を、、止めてくれ」
トゥール「でも、、、」
キムキム「俺は大丈夫、、それよりも都が危ない、、、無理を承知で頼むが、、超大型を、、倒したら、、すぐに都に戻ってくれ、、、その時は俺を置いて、、全速力で、、、」
トゥール「、、、、キムキムを連れて行くかどうかは、その時の俺が決める!!都にはどんな脅威が迫ってるんだ?」
キムキムは腹の傷を押さえながら答えた。
キムキム「タケルだ、、、、、俺は奴の動向をずっと監視していた、、、不用意に人間を殺すのが、、不自然に思えたからだ。昔はそんなことを思わなかった、、でもトゥール、、お前に出会って、、ゴホッ!!」
トゥール「長く喋るな、頼むから!!生きてくれよ、頼む」
キムキム「、、、出来るだけ頑張るよ、、、単刀直入に言う、、カミヤくんを殺したのは、タケルだ!、、、俺も奴に斬られた、、、、」
トゥール「!!!」
キムキム「奴の刀は、、、、妖刀朝焼け、、、切ったものの力を奪い取る、、とんでもない刀なんだ」
トゥール「、、、、、でも、刀は巫女様から」
キムキム「、、ああ、、、、、トゥール、、、、俺たちで都を、、皆を救うぞ、、、、」
トゥール「分かった、、分かった!!都は大丈夫だ、コヘがいる。コケシもいる!!俺はあのデカブツをぶった斬る。そしてキムキム、お前を連れて都へ帰る!!それまでそこで寝てろ、絶対に死ぬなよ、諦めるなよ!!俺は頑張るぞ、超大型がどんなに強くても。だから、、、俺が頑張って良かったって思えるように、生きろ!!耐えろ!!死ぬな!!」
キムキムは微笑み、静かに答えた。
キムキム「ああ、、、トゥール、、、俺は君のような人間に、、出会えて、、、」
トゥールは涙を拭い去った。
分かっている、キムキムはきっと死んでしまうのだろう。あの血の量では助かる見込みは薄い。
おそらく最後になるのであろうキムキムの言葉を聞かずに走り去った。
それがトゥールの運命への抵抗だった。
近づくにつれてその巨影は視界に収まりきらなくなっていく。
「ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!」
地鳴りのような衝撃を正面から感じながら、トゥールはその巨影へと距離を詰めた。
刀を振り下ろし、風で霧を吹き飛ばす。
すると、巨影が実体となって現れた。
その姿はとてつもなく大きな亀だった。
動きは遅いが、巨大過ぎるが故にその一歩は数百メートルもの距離を行く。
目の前の山を一飲みしてしまう大きな口で、止まることなく都へと歩き続けている。
トゥール「止めなければ、今すぐに」
トゥールは高速で動き、その太過ぎる手足に切り傷をつけていく。
しかし亀にとってはおそらくちょっとした引っ掻き傷程度のものなのだろう。
亀は表情一つ変えずに突き進む。
トゥール「止まれ、、、止まれ!!!!」
トゥールはあらゆる技を繰り出すも、超大型妖魔はまったく動じない。
トゥール「この一撃に全てをかける!!!居合、、、旋風、、、、」
自分が習得している技の中で一番の殺傷能力のあるこの技に込められるだけの風を込め、その手足をぶった斬る。
トゥール「獺祭・極!!!!!」
一瞬の静けさの後、広範囲の木々は真っ二つになり、後ろの山は土砂崩れを引き起こしている。
亀の手足からは多量の血が流れ、一瞬動きが止まる。
トゥール「はぁ、、はぁ、、効いてるようだな、、だがまだ歩けるんだろ?もう一度だ、、、、」
刀を握る手が震えている。
おそらく一瞬にして力を使い過ぎたのだろう。
だが止めるわけにはいかない。
トゥール「居合、、、旋風」
風が鞘へと集まっていく。
トゥール「獺祭・極!!!!」
全てをぶった斬るその風の斬撃は迫り来る災害の動きを一瞬止める。
しかし亀はまたすぐに歩き出す。
トゥール「はぁ、、はぁ、、、、」
トゥールは地に膝をつき、地面を見つめた。
この超大型妖魔を倒す術がない。
あの太い手足をぶった斬る力は自分にはない。
しかし止めなければならない。
早く都に帰らなければ。
皆を助けなければ。
大好きな皆を守らなければ。
全てを投げ出してでも、妖魔を殺す力が必要だ。
胸の奥の暗い何かが弾けそうになったその時。
ふと肩に何者かの手が触れた。
トゥールは顔を上げた。
コヘ「おはよう」
そこには先程まで寝ていたのだろう、寝癖をつけたコヘがいつもの眠たげな顔でトゥールを見ていた。
トゥール「コヘ!!!どうして!!」
コヘ「トゥールが一人で飛び出したって、あのコケシが泣きながら俺のところにやってきたから。これはきっと只事じゃないなぁ~と思って」
こういう時のコヘはいつもと違って大きく見える。
コヘ「この亀さんを、消せば良いんだよね?」
トゥール「ははは、、簡単に言うけどな」
コヘ「楽勝だよ。なんてったって都で評判の南風と北風が肩を並べちゃったんだから」
さっきまでの絶望はいとも簡単になくなった。
トゥール「ああ、間違いねぇわ!!!」
二人の身体から強風が流れた。
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