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決戦のグレイス城編
第179話 例え一人になっても
しおりを挟むツグルはカナメルを置いて先へと進んだ。
そこはグレイス城内の図書館だった。
円形の広い空間に天井まで伸びる巨大な本棚がズラリと並んでいる。
ツグルは本を読む習慣はないが、カナメルがここにいたら喜んでいたに違いない。
ツグル「邪魔、、か」
その言葉の真意は分からないが、結果的にツグルはカナメルの思惑通りに扉を開けた。
ツグルは強くなったことを実感していた。
ゴッドタワーで戦った時よりも黒竜拳の威力は桁違いに上がっていたはずだ。
しかし、全く歯が立たなかった。
いくらカナメルでも力を手に入れたゼウスに勝つことは難しいだろう。
引き返そうと後ろを振り返ったが、もちろん扉は消えていた。
ツグル「弱気になるな、俺は無の神を倒してセリアを助ける。リキッド達の無念を晴らし、この世界を救う。そのために俺はここに来た。カナメルなら大丈夫だ」
あえて言葉にして自分を奮い立たせる。
その時、巨大な本棚から大量の本が落ちてきた。
それらは落ちてきただけではなく、命を得たかのように自由に羽ばたいている。
硬い本の背表紙が身体の至る所にぶつかってきた。
ツグル「これも行手を阻む魔法の一種か」
本の嵐に襲われ、先へ進むのは困難である。
カナメルがいたら簡単に全ての本を焼き尽くしてくれるのだろう。
思えばツグルはいつも誰かに助けられていた。
フルネス将軍に助けられ、ズミにお世話になった。
そしてトゥールに導かれてグレイスを出た。
隣にはいつもモモとダイス、セリアがいた。
あいつら今どこで何してるかな?
ツグルはふとモモとダイスに会いたくなった。
この戦いを終えて、またあいつらと笑いたい。
いつからちゃんと笑っていないだろうか?
心の底から笑いたい。
だったらここで止まるわけにはいかない。
ツグルは襲いくる本の嵐の中を一歩一歩進み出す。
ヘイスレイブではムーが闇の力の操り方を教えてくれた。
トルコネへの長い旅路ではカナメルとマツに助けられた。
反乱軍のアジトではドラと修行の日々を過ごした。
フォールドーン帝国ではネギッチャと共にゼウスに立ち向かった。
皆、元気かな?
ちゃんとどこかで生きてるのかな?
この戦いが終わったら皆に会いに行こう。
そしてありがとうと伝えよう。
ツグルは全身を黒化し、駆け出した。
リリのヘリコプターでトルコネまで行き、そこでトゥールと戦った。
そしてリキッドに助けられた。
リキッドから真実を伝えられ、また修行の日々が始まった。
そしてカナメルが炎を灯し続けてくれた。
トゥールも今どこかで戦っているんだろ?
状況を好転させるために奔走してるんだろう。
離れていても分かるよ、何となく。
この先誰も助けに来なくても、例え一人になっても、必ず勝ってみせる。
そうしなきゃ、今まで隣にいてくれた皆に合わせる顔がない。
自分の出来る恩返しはそれしかないんだ。
そして最後にセリアを取り戻して、しっかりと抱きしめよう。
ツグルは本の嵐の中、心に誓ったのだった。
弱気になっている場合じゃない。
真っ直ぐに駆け抜けたツグルは遂に出口へと辿り着いた。
ツグル「俺はもう振り返らない」
重い扉を開け、荒れ狂う図書館から脱出した。
、、、、、、
目を開けるとそこには赤いナイトロードが真っ直ぐに伸びていた。
月明かりが照らす城下町は静まり返っている。
リキッドと通った時には誰もいなかった。
だが今回は違った。
ナイトロードの真ん中に誰かいるようだ。
ツグル「誰だ?」
リョーガ「君が噂の黒い少年ですね。グレイス王国攻撃隊長のリョーガです」
そこにいたのはトルコネでリリと戦ったリョーガという男だった。
ツグル「リリに負けて逃げた奴か。だったら勝てそうだな」
リョーガ「見くびられたものですね。戦いというのは引き際が最も肝心なのですよ?残念ながら君には逃げるという選択肢はありませんが」
ツグル「例え逃げ道があったとしても、俺はお前を倒して先へと進む」
リョーガ「果たしてグレイス最強の二人の相手をして無事でいられるかな?」
ツグル「二人?」
奥からゆっくりと歩いてきたのは血肉で継ぎ接ぎだらけのフルネス将軍だった、
ツグル「!!!、、、フルネス将軍、、」
変わり果てた将軍の姿にツグルの拳に力が入る。
リョーガ「フルネスさん、共闘なんて久しぶりですね」
フルネス「、、、、、」
フルネスの半壊した頭部は無表情である。
ツグル「フルネス将軍!!俺だ、ツグルだ!!目を覚ましてくれ」
フルネス「、、、、、」
ツグルの呼び声はどうやら届いていないようだ。
リョーガ「無駄だよ、無の神によって再生されたフルネスさんは迫り来る者を薙ぎ払うだけの人形になってしまったんだから」
フルネスは盾のような大きな剣を構えた。
ツグル「誰が相手だろうと、何人いようと関係ない。俺は必ず無の神まで辿り着いてみせる」
リョーガ「出来ないことは言わない方が身のためですよ」
リョーガの指輪が光った。
空間から二本の剣が降り注ぎ、リョーガはそれらを手にした。
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