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決戦のグレイス城編

第180話 孤独な戦い

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ツグルは足を黒化し、高速でリョーガの背後に回り込んだ。

短剣を首に突き立てたが、華麗な剣技で短剣は弾かれる。

リョーガ「意外とやるようですね」

ツグル「こう見えてもかなり重たいもの背負ってるんでね」

リョーガ「だからですか、恐怖が宿っているのは」

ツグル「なんだと?」

リョーガは二刀流で怒涛の攻めを繰り出す。

ツグルも短剣を剣に変え、左手を翼に変形させて応戦する。

しかし背後から大剣を構えたフルネスが迫っていた。

ツグル「くそ、、」

ツグルは足をバネのように変形させ、上空へ飛び上がった。

リョーガ「フルネスさん、防護膜を」

フルネスはリョーガを守るように空へ向けて手を開く。
すると半透明な膜が出現した。

ツグル「フルネス将軍、、、魔法も使うのか。それでも、貫いてみせる!!」

ツグルは天高く跳び上がり、そのまま全体重を乗せて降下した。

剣は槍へと変形している。

ツグル「貫け!!!!!」

槍から禍々しい黒い魔力が溢れ出している。

矛先が防護膜に接触し、黒い波動が空気を揺らした。

リョーガ「グレイスの守備隊長ですからね。そう簡単に突破されませんよ」

しかし、フルネスは辛そうに片膝をついた。

ツグル「防いでみろよ!!フルネス将軍!!」

防護膜に亀裂が入った。

リョーガ「これは評価せざるを得ませんね。君は弱くない」

リョーガはいつの間にか剣ではなく巨大な盾を構えている。

リョーガ「歴戦の守備隊長、ゴッドウォールの盾で君の攻撃を受けてみせる」

ツグル「ああ、やってやる」

ツグルの身体は黒く染まり、長い尻尾が生えていた。

とてつもない闇の魔力が溢れ出し、その口から鋭い牙が見え隠れしている。

リョーガ「君は本当に怪物だったんですね」

ツグル「そうだ、俺は無の神を殺す。神殺しの怪物だ!!」

フルネスの防護膜は粉々に砕け散った。

ツグル「まずはお前だ」

ツグルの黒い槍がリョーガの巨大な盾にぶつかると、盾に亀裂が入った。

リョーガ「この盾が破られるわけがない」

リョーガは衝撃に耐えながら呟いた。

そして、ツグルの動きがピタっと止まった。

リョーガ「ふん、俺の勝ちのようですね」

次の武器を出現させようとしたリョーガだったが、盾の欠けた部分から黒い鋭い爪が貫通してきたことを確認して中断した。

黒い両手が盾をこじ開け、巨大な盾は真っ二つに割れた。

そこには笑う悪魔がいた。

ツグル「ハハ、俺の勝ちのようですね」

ツグルは長い尻尾を器用に動かし、槍に巻きつけた。

そしてそのままリョーガへと投げつける。

リョーガは瞬時に判断し、空間から大剣を引き抜いた。
大剣で槍を叩き、槍は高速回転しながら地面へと突き刺さる。

その瞬間に槍に込められた闇の魔力が爆発してリョーガとフルネスは吹き飛んだ。

ツグルはゆっくりと地面に刺さっている槍を引き抜いた。

ツグル「まだ終わってないだろ?かかって来いよ」

フルネスは大剣を地面へと突き刺した。

すると辺りに無数の剣山が現れ、ツグルを襲った。

ツグルは獣のような俊敏な動きで地面から突き出る剣先を回避した。

リョーガ「親子の力を見せてもらいましょうか。ノッチー将軍」

リョーガは淡く光る大剣を空へと掲げた。

空から無数の大剣がツグルをめがけてピンポイントに降り注ぐ。

リョーガ「下からも上からも剣が襲いくる。君の赤い血で素敵なサンドウィッチを作ってもらおうか」

ツグル「ご期待には添えそうにないな」

ツグルは回転しながら両手で魔法を放った。

広範囲に巨大な黒い爪のようなものが現れ、辺りを切り裂いていく。

迫り来る剣は刀身を折られ、バラバラと崩れていった。

全ての剣を粉砕し、剣の墓場と化したナイトロードに肩で息をするツグルが姿を現した。

その姿から悪魔色はなくなり、手には小さな黒い短剣が握られている。

ツグル「はぁ、、、はぁ、、、、」

リョーガとフルネスは大剣を構えながら挟み込むようにゆっくりとツグルへと近づいていく。

リョーガ「見事でしたが、どうやらあの姿はかなり体力を消耗するようだ。次の策は考えているんですかね?考えていないのだとしたら、愚策でしたね」

ツグル「くそ、、、はぁ!!、、はぁ、、、身体が、、動かない」

思ったよりも身体への負担が重い。
もう少しあの姿のまま動くことが出来れば、リョーガの首を刎ねることが出来たはずだ。

途端に無力になった自分に焦りを感じ、そして恐怖に襲われた。

ここで死ぬわけにはいかない。絶対に。

今まではいつも隣に誰かがいて、その誰かが助けてくれた。

でも今は独りだ。

歩き出そうとするが、身体が言うことをきかない。

どうすることも出来ないこの状況にツグルは絶望していた。

その時、ツグルの周りに突風が吹き込んだ。

強烈な風に目を細め、リョーガとフルネスは歩みを止める。

ツグルは何が起きたのか分からずに嵐の中で周りを見回した。

「遅くなって悪いな、ツグル」

聞き覚えのある声にツグルは救われたような気分になった。

ツグル「速いくせに、遅いよ」

「お、上手いこと言うじゃんか。速度的には速いのに時間的には遅いってか、やかましいわ!」

どこからかツグルは頭を叩かれた。

「まぁ、遅くなった分ここから巻き返すんで、文句はなしでおなしゃす」

風が止み、目の前には彼がいた。

揺れる袴、月明かりに反射する綺麗な刀を持つその男は、迷いを断ち切った清々しい表情をしていた。











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