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決戦のグレイス城編
第190話 脅威の帰還
しおりを挟むグレイス城門前
チェルシーの猛攻を避けながら隙を窺う二両の戦車。
チェルシーの身体は砲撃を受け、爆散するもすぐに再生してしまう。
ズミ「そうだよなぁ、死なないなら避ける必要ないもんな」
ズミの低音ボイスがねっとりと響き渡る。
ズミ「さて、そろそろやるかぁ」
ズミは戦車から身を乗り出し、スナイパーライフルを構えた。
それに気付いたヴォルギスが注意を引くためにチェルシーへと近付く。
ズミは躊躇なく引き金を引いた。
バン!!!
弾がチェルシーの足に直撃してその勢いで少女は数メートル吹き飛んだ。
チェルシーはそのまま地面に顔をつけたまま立ち上がらない。
タチキ「お、、、やったのか?」
ズミ「とりあえず、脅威はなくなったかな?」
ヴォルギスが戦車を降りて、チェルシーの状態を確認しに行く。
ヴォルギス「眠っている、作戦は成功だ。一応俺の分の睡眠薬も首に刺しておく」
無線からヴォルギスの声が届く。
ヴォルギスは弾に込められている液体を注射器に移し、チェルシーに投与した。
キャノン「あのさ~眠らせる件について、俺何も知らされてなかったんだけど」
タチキ「いや、言ってただろ!!もし金髪のゾンビ少女がいたら眠らせて、その血を頂くって」
キャノン「言ってたか?」
ズミ「さて、俺はそのお嬢さんに試したいことがある」
ズミが動かない下半身を引きずりながら外へと出ようとしたその時。
ヴォルギス「ぐ、、、、はぁ!!、、、」
ヴォルギスの呻き声が無線に響く。
それを聞いたズミは急いで戦車の中へ戻り、ヴォルギスがいた方向を見た。
するとそこには大鎌に腹を貫かれているヴォルギスがいた。
修道服を着た女がその大鎌を引き抜く。
大量の血と共にヴォルギスがその場に崩れ落ちた。
キャノン「ヴォルギス!!!」
キャノンは得体の知れない敵に砲撃を開始しようとしたがズミに止められた。
ズミ「今撃てば、ヴォルギスが危ない」
タチキ「ヴォルギス、、嘘だろ、、、」
タチキは動揺しながらも咄嗟にハンドルを握りしめ、戦車を動かそうとした。
しかし戦車が動かない。
タチキ「動かない!!どーなってんだ!!」
ズミ「まぁ落ち着け」
キャノン「どうすんだよ!!ズミ君!!」
大鎌を持った女はゆっくりと歩いて近付いてくる。
ズミ「そろそろ撃っても良いぞ、キャノン」
ヴォルギスと敵との距離を見て、ズミがキャノンへと指示を出した。
キャノン「よっしゃー!!!」
キャノンは大鎌を持った女に向けて砲撃を開始する。
しかしその女は回転しながら砲撃を避け、砲弾を真っ二つにしていく。
キャノン「なんだよあいつ!!!」
いくら砲撃を重ねても、砲弾が彼女に当たることはなかった。
ズミ「タチキ、戦車は動きそうにないか?」
タチキ「ダメだ!!全然動かねぇ、、、何かが車体に絡み付いてるみたいだ」
ズミは戦車内部から周囲を見回した。
後方にもう一人、魔女帽を被った女性がいることに気が付いた。
ズミ「動きを止めているのは彼女かぁ」
ズミはその女性への砲撃を指示した。
しかし彼女への砲撃は当たる前に見えない壁に弾かれてしまう。
キャノン「なんなんだよ!!こいつら!!」
ズミ「困ったものだ」
ズミは腕の力だけで戦車から身を乗り出して白旗を振り、降伏することを示した。
しかし次の瞬間、ズミの身体は大鎌によって真っ二つに裂かれ、車内にズミの下半身が落ちて来た。
タチキ「う、、うわぁぁ!!!!!」
ズミの上半身は斬られた反動で宙を舞う。
その後鈍い音を響かせて地面に激突した。
火の玉が戦車の入り口から侵入し、車内で大爆発を引き起こした。
キャノン「ぐがぁぁぁぁあ!!!!!」
キャノンの叫びが響き渡る。
タチキは咄嗟に脱出ボタンを押し、外へと飛び出していた。
ズミの上半身はうつ伏せのまま地面にうなだれている。
燃える戦車の中にはキャノンがいる。
タチキ「く、、、くそぉ!、、、、」
タチキは脂の乗った重い身体を懸命に起こし、立ち上がった。
数メートル先にいる魔女帽を被った女がこちらを見ている。
オダルジョー「ラッキーだね、君」
タチキ「、、、、うるせぇ!!」
タチキは落ちている鉄板を盾にオダルジョーを睨みつけた。
オダルジョー「立ち向かう気なの?君は魔法も使えないんだよね?勝ち目はゼロなんじゃない?」
タチキ「、、、、うるせぇって言ってんだ」
オダルジョー「驚いたよ、戦う武器もないのに圧倒的戦力差を無視して立ち向かってくるなんて。何が君をそうさせるの?」
タチキ「お前みたいな強い奴には分からないだろうな。勝てない相手でも戦わなきゃならないことがあるって」
オダルジョー「うん、意味が分からないよ。勝てないなら戦う意味がないじゃない?」
タチキ「今お前等が殺した二人はな、俺の友達なんだ!!友達がやられたってのに見て見ぬふりなんて出来るかよ!!」
タチキは昔フォールドーン帝国の兵士だった。
辛く厳しく、残忍な帝国のやり方に嫌気が差してキャノンと二人で帝国を抜け出す計画を立てていた。
しかし、帝国の管理体制からは抜け出せない、その計画を実行するのは不可能だと断念したのである。
そこに何処からともなく現れたのがズミである。
ズミは一人で帝国に潜入していた。
あらゆる場所に盗聴器を仕掛け、情報を集めていた。
その時にタチキとキャノンの脱出計画を聞いたのである。
「欲しい情報はなかった。暇だからお前達をここから出してやるかぁ」
そう言ってズミは1から計画を立て直し、ズミの計画によってタチキとキャノンは帝国を抜け出すことが出来たのであった。
オダルジョー「友達、、、か。昔はそういうものもあったのかもしれないけど、もう忘れちゃったのかも」
タチキ「だったら尚更分からないよな!!、、、くそ、、、くそぉ!!!!」
タチキの足は震えている。
オダルジョー「どうして君みたいなただの人がこんなところにいるの?」
タチキ「友達が助けたい奴がいるって言ったからだ」
オダルジョー「君には関係のない人なんでしょ?助ける義理はないんじゃない?」
その言葉を発すると同時にオダルジョーの表情が変わった。
どこか悲しげに頭をおさえている。
タチキ「ズミはトゥールを助けたいから助ける。俺とキャノンはそんなズミを助けたい。それだけの話だったんだ。。。。なのに、こんなことになるなんて!!!」
タチキは鉄板を構えて走り出した。
ホーリー「オダルジョー、どうしたの?」
そこへホーリーがやってきた。
オダルジョー「大丈夫、ホーリーは手を出さないで」
ホーリー「分かった」
オダルジョー「ユメゾウ、、、、なんだか私、、、変な気持ちだよ」
オダルジョーは胸を押さえながら苦しそうに顔を歪めている。
ホーリーは言われるがまま、立ち尽くしていた。
タチキはオダルジョーの目の前までやってきて鉄板を大きく振りかぶった。
しかしタチキの動きがピタリと止まった。
オダルジョー「どうしたの?思いっ切り私を殴れば、当たりどころ次第では私を倒せるかもしれないよ」
タチキ「、、、、こんなことしたってなぁ、、、こんなことしたって、、、二人は戻ってこないんだ。お前にも友達がいるんだろ?そこの大鎌を持ったお姉さんだよ。お前が死んだら、そこのお姉さんが悲しむんだろ?だとしたら俺はお前を殴れない。殴りたいけど殴れない。殺したいなら俺を殺せ、もう俺には生きる意味なんてないんだから」
タチキは鉄板を投げ捨て、その場に座り込んだ。
それを見たオダルジョーは水魔法で戦車の火を鎮火した。
タチキ「、、、、、、」
オダルジョー「生きる意味なんて、最初から誰にもないよ。ふあぁ~なんか眠くなってきたから君は生かしてあげる」
オダルジョーはホーリーと共に歩き出した。
オダルジョー「ねぇホーリー」
ホーリー「どうしたの?」
オダルジョー「これって、愛なのかな?」
ホーリー「これって、どれ?」
オダルジョー「ん?分からない。でもなんか、胸のあたりが変なんだよ。あの太ったおじさんのせいで」
ホーリー「分からない。でも愛だと良いね。ユメゾウが喜ぶ」
オダルジョー「そうだよね」
オダルジョーは歩きながら昔を思い出していた。
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